口うるさい幼馴染がいる少年のお話。
少年には幼馴染の少女がいる。
少女は少年の事をよく口うるさく言う。
寝坊して頭ボサボサのまま登校しようとしたら
「身だしなみはきちんとしなさい。」
と言われ、髪をヘアブラシでとかされ身だしなみを整えられた。
昼食に菓子パンとジュースを買ったら
「野菜もちゃんと食べなさい。」
と言われ、後日少年の許可をもらった上で栄養バランスがきちんと整っている弁当を作ってきてくれた。
学校のテスト期間の時は
「テスト勉強はちゃんとやっているの?」
と言われ、放課後は一緒に勉強をして分からない事は教えてもらい無事に赤点を回避する事ができた。
口うるさいというより世話焼きと思われがちだが、少女がここまでするのは少年にだけ。他の人に対してはここまでやらない。
以前、少年と少女の関係を馬鹿にしたクラスメイトがいたが
「は?」
とひと睨み。それだけでそのクラスメイトは黙った。それどころか泣き出した。
この出来事がきっかけで他のクラスメイト達も少女が少年に対して行われる事に必要以上に踏み込む事はしなくなった。
少年は幼馴染とはいえ少女に迷惑をかけてるなと思っているが、ついつい甘えてしまう。
そういう認識のため別に嫌とかそんな気持ちはない。
むしろ感謝の気持ちとしてお礼の言葉を言ったり少女からの頼み事をできる限りこなしていった。
そんな仲のいいニ人はたまに一緒に帰る事がある。
一緒に帰る事は幼い頃からよくある事だが、この日は違った。
道のわずかな窪みに足をとられ、少年は派手にすっころんだ。頭を思いっきり地面に叩きつけて。
「えっ、ちょっと。…えっ? え。起きてよ。お、起きない!? えっちょっと! …あああああどうしよう! あっ救急車!? 救急車!」
少年が思っている以上に衝撃があったらしく、そのせいで少年は気絶してしまった。
起き上がらない少年に心配で慌てながらも病院に連絡を取ろうと携帯電話を取り出した少女は半泣きで少年のそばにいながら電話の向こうにいる病院関係者に事情を説明した。
◆◇◆◇◆
病院に運ばれた少年は検査を受けた結果、幸い脳や頭には異常は見られなかった。念のためもう何回か見てもらったが、問題はなかった。
が、片耳の鼓膜は傷ついてしまった。そのせいでそちらの方の耳は聞こえなくなってしまったが、それ以外の症状はあらわれなかったため日常生活を送る事はできた。
鼓膜は再生すると聞いた少年はそこまで気にはしなかったが、少女は気にした。
度々少年の身を案じる言葉を口にし、少年が聞こえやすいように必ず無事な方の耳の方に立つようになった。
そんな日常がしばらく続いたある日。
いつものようにニ人で帰っているが、その時少年は少し気になっている事があった。
少女が鼓膜が破れていた耳の方に立っていた。今まではそちら側に立つのを避けていた少女がいつもと違う行動をとっている事に疑問を感じてはいたが、少年はわざわざ口にする事ではないだろうと思い黙って少女と一緒に歩いていた。
後もう少しで家に着くという時に、少女は小さく呟いた。
「…大好き。」
「えっ。本当?」
「…え?」
少女の小さな言葉に少年は思わず少女の顔を見ると、少女はまさか聞かれるとは思っていなかったのか驚きで目を見開き、やがて羞恥で顔を赤く染めていく。
実は、少年の鼓膜はすでに治っていた。
聞こえてはいるが、医者に診てもらってから少女に報告しようとしていた少年はこの日、思いがけない告白を少女から貰ってしまった。
「え、嬉しい。大好きって事は俺達付き合えるって事? そうだったらもっと嬉しい。」
少年の言葉に少女は耳まで赤くし
「わ、忘れろー!」
そう叫んで走った。
「あっ。待ってくれ。忘れるわけないだろ俺も好きだ大好きだ!」
「大声で言うなぁ!」
この数日後、二人は恋人同士になった。
クラスメイト達からはまだ付き合っていなかったの!? と驚かれた。