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十字架を刻まれた少女  作者: 七星北斗
2/4

1願わくば幸福な未来を

 (かまど)で1時間以上熱した鉄の十字架。触れることなどできない温度。


 熱したことで十字架は、見てわかるほどに赤みを帯びている。


 両親は、必死に嫌がる幼子の服を脱がし、野良ばさみを使って赤みを帯びた十字架を掴んだ。


 野良ばさみで掴んだ十字架を地面に置くと、厚手の手袋を重ね着して、両親は十字架を掴む。


 そして有ろう事か、両親はその十字架を幼子の背中の上部に押し付けた。


 じゅっと肉の焼ける匂いがした。


「キックウッーーーーーー」


 幼子は声にならない悲鳴を上げた。


 焼けるような痛み、熱いのではなく痛いのだ。体が痺れる感覚とともに、私は痛みに耐えられなくて体を震わせる。


 私がいくら止めてと叫んでも、どれだけ乱暴に暴れようが、両親はその行為を止めてはくれなかった。


 私はあまりの痛みに失神してしまう。しかし悪夢は終わらない。


 熱した十字架は1つではないのだ。背中にできた十字架の火傷に重なるように、両親は胸側にも十字架を押し付けた。


 ジーッと幼子の白い肌が焼ける音がする。


 胸側への更なる痛みで、幼子は現実に引き戻された。


 両親は白日神(しらひかみ)を崇める太陽信仰信者だ。


 この国では太陽信仰が主であり、それ以外の宗教は存在しない。


 十字架とは、白日神を象徴する聖具である。


 その昔、人間に対立する魔物であるヤドナシに、村の子供が柱の上部に横木を添えて十字形に作ったものに磔にされた。


 子供達がヤドナシに槍で貫かれる寸前で、それを助けたのが白日神である。


 白日神は人間の子供には優しい光を浴びせて十字架を溶かした。そして魔物達は地獄の終わらぬ業火を白日神に浴びせられて焼き尽くされた。


 神の光を浴びた十字架を聖なるモノとして、人間は祈る際に十字架を握り、十字架を通して白日神へ祈りを捧げる聖具となった。


 なぜ両親が、熱した十字架を幼子へ当てているのか?その理由はあまりにも身勝手で残酷な理由だ。


 この国は宗教国家なのだ。なぜ十字架の火傷を作ったのか?それはいわゆる、偽物の聖痕を作るためである。


 偽物の聖痕を作り、自分の娘を聖女へするための策謀であった。


 熱した十字架に耐えきれずに、幼子の心臓が止まった。


 しかし両親は、カナブラソウと呼ばれる薬草から作った回復薬を幼子に飲ませると、無理やり意識を取り戻させて、薬草の効果で再び幼子の心臓が動き始めた。


 この世界は、人という鬼が存在する地獄であった。


 十字架を刻まれた少女は、どんな風にこの世界は見えるのか?


 聖女と呼ばれるこの少女の小さな体は、一体どれだけの絶望を背負っているのか?


 少女の絶望を覆すための冒険が、ここから始まる。

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