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年末の夜会 その2

 



国王の乾杯を合図に夜会が始まった。



「先に国王夫妻に挨拶をするよ。我々がしないと他の者達ができないからね」


父について一家揃って玉座に座る王の前へ並び、最上級の礼をとる。


「ご挨拶に参りました。プリマヴェラ侯爵シリウスと、妻ソフィア、長女エルサ、長男リヒトです。今年はこの長男リヒトが初めての参加となります」

「あぁ、シリウス。そなたには今年もよく知恵を借りたな。これからも国を支えてくれ。リヒト、侯爵によく似ておるな。期待しているぞ」

「エルサさんは春の夜会ぶりね。ますます綺麗になって。ソフィアも変わらないわね。今日はあまり時間がとれないから、また必ずお茶に誘うわ」


「「ありがとうございます」」


国王と父は学生時代からの付き合いだ。ここでゴマをすったり、実績を披露しなくとも、問題ない。

堅苦しい挨拶は短い方がいいと言うのが父の方針だ。



ちなみにアラン殿下は大臣の報告までで退出し、ウィリアム王太子は側近達に囲まれている。

まだ成人でない2人にはお互い挨拶する義務はない。

様子を見てチャンスを狙っている者は多いだろうが。


その後公爵と、同じ身分の3侯爵への挨拶をすませる。両親が他の貴族からの挨拶を受け始めたのを見て、エルサは少し離れた。



「エルサ様!」


声のする方を見ると、オレリアや、お茶会でよく話す令嬢達がいた。


「ごきげんよう皆様」


「ごきげんよう。やはり王宮の夜会は華やかですわね。私は年末の夜会は初めての参加ですので、こんなに多くの人が集うだけで緊張します」

「リヒトも同じように感じていたから、最初はみんなそんなものよ。今年は天候も安定していたから、雰囲気もいいし、男女問わずたくさんの出会いがあるといいわね」

「夜会で良い方とご縁があれば良いんですけど」


それぞれ緊張はしているようだが、独特の夜会の雰囲気を楽しんでいるのが伝わってくる。


「それにしても王太子殿下!

お噂以上に魅力的な方ですわ」

「本当に。留学される前から見かけなくて、お顔は存じませんでしたわ」

「ダンスはされないのかしら」

「たくさんのご令嬢が殿下が動かれるのを待っていますわね」


チラチラと令嬢たちが視線を送っているが、大臣達の挨拶を受けたあとは、ウィリアムは側近達と話しているばかり。その視線に気づいているとしたら、残念ながら完全な拒絶を示されていると言わざるを得ない。


「まぁ、リヒト様は王太子殿下と面識があったのですね」

一人の令嬢が声をあげる。


たしかによく見ると、王太子の側近の輪の中にリヒトがいる。しかも、王太子の側から話しかけられているようにも見える。

「以前ご挨拶をしたとは言っていたけど、顔を覚えてもらっていたのかしら」

「リヒト様も他にない美形ですからね。

一度見たら忘れません」

「知的な雰囲気のお二人が、顔を寄せあっているのを見るとなんだか胸がドキドキしますわ」


ご令嬢、それは開けてはいけない扉だ。




「エルサ様ごきげんよう」


王太子の集団に気を取られていると、国内4侯爵のひとつ、エスターテ侯爵家の長女、アンナ・エスターテがやってきた。


気の強そうな目付きだが、艶のある赤い髪に華やかな顔立ちはもなんとも貴族らしい。

エルサ達の輪とはまた違う令嬢たちを引き連れている。


「アンナ様、ごきげんよう」


「エルサ様。たくさんのご令嬢に囲まれているようだけど、他の方とも話す機会をつくって差し上げてはどうかしら」

アンナのキツい視線に緊張感が走る。


小さな頃からなにかとライバル視され、お茶会などでのこんなやり取りに慣れているエルサは、肩をすくめて声をかける。


「まぁまぁ。すっかりお話が弾んでしまいましたが、みなさんせっかくなので色々な方とお話してみるといいですよ」


エルサの周りに輪ができるのはいつもの事だが、アンナの棘のある言い方に、空気を読んだ令嬢達はエルサの迷惑にならぬよう、自然な形で離れていく。


アンナの取り巻きも空気を読んだようで、

少し離れている。


「なんだか私が追い出したように見えないかしら。まったく」


その通りだよ。と、つっこめる人はここにはいない。エルサも年上のアンナには多少気を使う。


人が減ったのを見計らって、アンナは声を潜めて問いかける。

「ところで、あなた、今日の夜会で王太子殿下とのダンスの予定など聞いてるかしら」

「特に聞いておりませんわ」

「そうよね、わたくしのところにも連絡は来ていないもの、当然よね。誰のエスコートもしていないようだから殿下は今日は踊らないということなのかしら。だからといって弟を近づけさせるなんて、分かりやすいことを」


アンナは口元を扇子で隠し挑戦的な目で睨んでくる。


あら、これは喧嘩を売られているのかしら。でもリヒトのことは私もびっくりなのよね。


「私にはそんなことをする理由がありませんわ。弟は王宮に出仕しておりますから、殿下と話すことも不思議ではないかと」

「そうかしら。プリマヴェラ侯爵は、成人まで婚約者をとらせないとかおっしゃってましたけど。あの様子を見て殿下の帰国を待っていただけなのかと思う方も多くてよ。本当に何もないのなら、自分達がどう見られるかよく考えて行動することね」


ふむ。これは…牽制と見せかけた助言ですね。アンナ様ったら。

「まぁ! アンナ様、ご助言ありがとうございます。今は殿下からお話しくださっているようにみえますが…。たしかに、私の立場から誤解を受けることのないよう、節度のある振る舞いをしたいと思いますわ。ご助言ありがとうございます」

「そ、そうよ! わたくしはあなたのためを思って助言してあげているのですわ!これからも同じ侯爵位の令嬢として、皆の見本となる振る舞いをするのですわよ!」


最後にそれだけ言うと、エルサとのやり取りに対して怒っているのか、それとも照れ隠しなのか、顔を赤くしながら去っていった。



 ふふ。可愛らしい方。

 エルサはアンナとは反対に笑顔で見送った。



 空気を読まないエルサは強いのである。



近くでそっと様子を伺っていたオレリアが興奮しながら話しかける。


「エルサ様大丈夫でした? なにか詰め寄られていませんでしたか?」

「心配ないわ。アンナ様は淑女としてどうあるべきか、よく助言してくださるのよ。物言いはキツいけれど、悪い方ではないと思うの」

「そ、そうですか。エルサ様は本当に器が大きいというか、大事なところ以外は無頓着というか。それにしてもアンナ様もそろそろお相手を決められて、落ち着かれてもいい頃だと思うんですけどね」


派手な美人顔のアンナは侯爵家ということも合わさって縁談はたくさんあるという。夜会にも積極的に参加しているようだ。ただ、噂では今のところ本人が納得する相手がいないとの事。



「さぁ、せっかくだから私達も出会いを探しましょうか」

そう言ってエルサは淑女の仮面をつける。


領地改革を楽しんでいるエルサにとって、結婚は積極的ではないものの、家のためにいい縁談を探したいという気持ちはある。その中で、穏やかな愛情を持てる相手をと考えて、顔をあげる。


エルサが空くのをそわそわと待っていた子息達からのダンスの誘いがあり、次々に笑顔で応えていく。

ダンス中に積極的に話しかけてくる子息達に答えながらも、難しいステップを難なくこなすエルサ。



相手に完璧に合わせながらも、ときめくってどんな感じかしらと思うのだった。




お読みいただきありがとうございます。

お気持ち程度に、評価ボタンを押していただけると嬉しいです。


お時間ありましたらこちらもどうぞ。

「婚約者が運命の恋を仕掛けてきます」

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