【番外編】愛の国の王子
エルサとウィリアムの息子の話
ウィリアム視点です。
「今年の花火もエルサと見られて幸せだ」
王宮の中庭、壇上で横に並ぶ最愛の妻の手を取り見つめると、未だに頬を少し染めながらこちらを見つめる彼女に愛しさが込み上げる。
「私もですわ。今年は新しい色を再現できたのですね」
出会った頃と変わらずやはり妖精のように美しく、子供を産んだことでさらに色気のある女性になったと思う。
「エルサが興味を持っていた東の国から取り寄せた金属を、火薬と反応させたらできたんだ」
「炎の色が変わると使者が話していましたのね。興味深いですわ」
東の国から来た使者は、毒物を確かめるときに炎の色で見分けることかできるという真面目な話だったと思うのだが、エルサの頭の中ではカラフルな炎を操るピエロのおじさんに変わっていた。
そこから発想を広げて今日の新作花火に繋がっているのだから、やはりエルサの想像力は無視できない。
「見て!ルークも笑ってるわ」
今日までの研究者たちとの忙しい日々を振り返っていると、少しはしゃいだ声のエルサに手を取られる。
今日の花火は息子のルークが珍しく参加できる行事だ。
この日のために、いつもの王族の椅子ではなく、広めのベッドのようなソファを作らせた。リラックスできるように広場の参加者には見えない位置にあるので、エルサも普段より表情が豊かになっている。
横を見ると、エルサと息子が同じ表情で目をキラキラさせて花火を見ていた。
愛おしい。
しばらくすると息子は飽きたのか広いソファでハイハイを始める。
シュババババ
エルサと私の前を行ったり来たり。
そのたびに二人に頭を撫でられて嬉しそうだ。
シュ…シュバ、ババ、ババ
しかし、なぜかいつも私とエルサの間を割って通り抜けるときだけ非常に進みにくそうに顔をしかめる。
まさか私がエルサとの間に割り込まれるのを、息子とはいえ遠慮してもらいたいと思っていたのを感づかれたのだろうか。……いや、1歳だしそれはないか。
私の血が入っているせいか、私にも息子の心は見えない。
…………
話せるように成長したある日、息子がエルサの父と母を交互に見て空中を指さしている。
「何を見ているんだ?」
「しーたん(シリウス義父上)とそーたん(ソフィア義母上)、あかいいと。ちちうえとははうえとおなじ!!」
「赤い糸?何もついてないぞ?」
「いといっぱいあるぅ〜」
エルサに似てなにか想像を膨らませているのだろうかと頭を撫でてやる。
あとから知ったことだが、ルークはどうやら同じ話をよく使用人たちにも話していたらしい。みな不思議な顔をするので話すのをやめてしまったようだ。
………
エルサの第二子妊娠が分かった。
体調不良が続き、寝ているエルサの周りでオロオロしていたルークを執務室に呼び、お腹に新しい命がいることを教えてやる。
「わぁ!赤ちゃんには糸が見えるかな…」
母を心配して落ち込んでいたルークは、パッと顔をあげると笑顔になり嬉しそうに呟いた。
「糸?」
思わず呟いた言葉を聞かれたルークがぎくりとするのが分かる。…そういえばルークがもっと小さいときにも言っていたなと思い出す。
「しーたんとそーたん、あーたん(アーサー前王)とろーたん(ローズ前王妃)の間には、とっても太い赤い糸が見えるんです。大人には…見えないみたいなのですが」
まるで秘密を話すときのように怯えながら口にするルークを見て、自分が子供の頃人と違う能力を自覚したときのことを思い出す。
もしや王族の能力の一つなのか。
しかも、赤い糸なんて…
それよりも…
「ごほん。ち、ちなみに、私とエルサは?」
人と違う能力を受け入れられるかどうか怯えていた顔に見覚えがある。
私の質問を是と捉え嬉しそうに顔を上げたルークは、手を大きく広げて話し出す。
「信じてくれるんですか!?えーっと、父上と母上は昔からずーっと父上の縄が母上に巻き付いてます。二人の間を通るとき気になるので、外してもらえたら助かるんですが」
「ぷっ」
思わず後ろにいるニースを睨む。
「あ!ニースはたまに見かけるエスターテ侯爵のアンナ嬢と糸結んでるよね、なんで??」
そのままニヤニヤしていたニースの笑顔が固まる。
ふっおもしろい。
「ほぉ?私も気になっていたんだ。乳兄弟、詳しく聞かせてもらおうか?」
「い、いや、気づいてたでしょう!?ちょっと報告が遅れましたが」
「…まぁ幸せそうで何より。しかしこの能力は」
どうしたものか。
………
そんな私の心配はしばらくして解消する。
「なんて可愛いんだ!ぼくの、妹!!!」
エルサと私の第二子セレスティアが生まれたときのルークの第一声だ。
その日から赤い糸を見ることはなくなったようだ。
本人は妹に夢中でそれに気づいたのは随分たった後だった。
私とエルサの縄が見えないと言われたときの衝撃は、二度と味わいたくないが。
それから息子に愛する妻エルサを取られる時間は減ったが、赤ん坊の世話が増え結局私との時間は増えない。
いやいいんだ。エルサが幸せならそれが一番だ。
二人の愛の結晶なのだし。
エルサの可愛さは変わらないし。
うん、それでも
「リアム様。お仕事お疲れさまです。今日はふたりとも乳母に預けたので、ゆっくりお話しましょうね」
膝枕をしながら最愛の妻に頭を撫でられる。
今日も私は幸せだ。




