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…side ウィリアム




…今私はエルサの妄想の中で縄でぐるぐる巻きにされている。いや、実際エルサを抱きしめているようで、彼女の優しい腕に自ら絡め取られているのだから同じ状況かもしれない。


「嫌だと言っても逃しませんわ」

悪女の台詞のようなことを言いながら、私だけに見せるエルサの可愛い表情。


過去に、私を凋落しようとする輩の中にも『縛り付ける想像』という意味では似たような気配を感じたことは何度もあるが、エルサのそれはとても心地が良い。


…ほんとうにエルサになら縛られてもいいかもしれない。

そんなことを伝えたら君はどんな顔をするかな。



「ふふっ愛してる。私のエルサ」


しばらく離れていた分もお互いしっかりと気持ちを確かめあい、二人きりで久しぶりに昼食をとった。


いつもは私がエルサを膝に乗せて食べさせる事が多かったが、今日はエルサが私の世話を焼きたがる。と言ってもいつもどおり膝の上には乗せているが。


親にもあまり甘えた記憶はないが、エルサにならつい甘えてしまう自分に驚く。


彼女は私の心の奥底に押し込めていた感情をたくさん見つけてくれる。

格好悪いところは見せたくなかったはずなのに、これはこれで幸せだと思う。

きっと受け入れてくれるという安心感があるからだろう。


女神から王族の祝福を受けたこともあるが、やはりもともとの素質が大きい。



「リアム様、最後のデザートをどうぞ」


小さくカットされた桃をそっと私の口に近づける。

つい先程までは顔を赤くして見つめてくれていたのに、今は私の世話を焼くことに夢中らしい。

私がエルサを愛しく想う気持ちとの差に少しだけ意地悪をしたくなる。


「次はエルサの番だろう?さぁ、食べて」


エルサがフォークを握る手を上から包み、そっとエルサの口元に持っていかせる。


「そうでしたか?では……ん!甘くて美味しい。早くリアム様も…っんぅ…ふぁっ!?」


エルサが桃を嬉しそうに飲み込んで無防備になったところに口付けをして、さらに声を出そうとした隙間からしっかりと中まで堪能させてもらった。


「…ホントだ。こちらの方が溶けそうなくらい美味しい。私の大好きな味だよ」

「もう!!…やり返しちゃいますよ…っっ」


自分で言っておいて真っ赤になり涙目で恥ずかしがるエルサは、小悪魔を通り越して私にとどめを刺す存在だと思う。


想像を超えるカウンターに私まで赤くなり、二人で目を合わせて笑う。



あぁ、愛おしい。



その後も、私の幼い頃の話や、なぜ留学することになったのか、留学中に学んだ能力の調整訓練、そして帰国後エルサと出会ってからのこと、時間をかけてたくさん話した。


今まで決して隙を見せてこなかったので、周りからの評価としては心配されることなど無かった私のことを、まるで幼子をあやすように膝に頭を乗せさせ、優しくて撫でてくれる。


こんなにも自分の心の内を話したことが今まであっただろうか。


エルサは、幼い頃両親が私を大切に育ててくれたのを知りとても優しい顔で微笑んだかと思ったら、留学直前の貴族達の思惑に悩んだ話では心配そうに眉を下げていた。私達が出会ってからの話になると嬉しそうにしたり照れて顔を赤くしたり…


「まさかヤシール公爵邸でのワイン試飲会にいらっしゃっていたとは思いませんでしたわ」

「はは。叔父上には良くしてもらっていたから帰国後からよく会っていたんだ。あの人は王族としての責任感はあるが、権力よりも好きなものに囲まれていたいという性格だし、開催する夜会に来るのも似たような仲間が多いからな」

「えぇ。ワインメインのあの夜会も公爵様からのご提案だと聞きましたわ。参加者の方々も本当に食やお酒が好きで集まっている雰囲気でしたわね」

「…今思えばあのときからエルサに惹かれていたんだな」

「私はリアム様とお話した記憶はないですよ?」

「私も遠くから見ただけだ。まぁ一目惚れというやつだな。もちろんその後エルサ自身に何倍も惚れたわけだけど」

「ぇえ!恥ずかしいです。変なことを考えてなかったらいいのですが」

「ふふっどうだったかな」


当時私のことを『ガチマッチョ金髪眼鏡天使』と妄想していた事は、エルサも忘れているようだし、私も記憶から消すとしよう。いや、やっぱり私だけの記憶にしよう…



撫でられているうちに少し寝てしまったようだ。

私が目を覚ましたのに気がつくとエルサは読んでいた本を置いて微笑んだ。


「執務も大切ですが、ちゃんと休憩も取ってくださいね」

「うん。ありがとう」



エルサが受け入れてくれた私の力。


幼い頃に自分は逃げ出したその力を

『王族として大切な力』と、怖がることも嫌悪することもなく認めてくれた。


今まで積極的に使おうとしたことはなかったし、これからも力を過信することはないが、そろそろこの力をもつ私にしかできないことに正面から向き合う時期なのかもしれない。


「エルサ、私はこの国が好きだ。愛にあふれて平和な国を守るために、私が力を正しく使えるように、どうかそばで支えてね」



___________


その日『エルサに縛られてもいい』という呟きを聞いたニースからはしばらく避けられたとか…




お読みくださりありがとうございます。

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