夜の告白
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ダーイブ!!
ボフッ
王宮のベッドはよく跳ねる侯爵家のそれとは違い、疲れをよく取る低反発素材だった…
湯浴みを済ませ侍女を下がらせたエルサが一番にしたかったことである。
俗世に『かえってきた〜』という思いでそのままコロンと仰向けになり目を閉じる。
儀式中はいつもこの時間に泉の道でリアム様と話していたのよね。だからなのか少し寂しく感じるわ。
そうだ! そこに置いてる姿見からリアム様に会いに行けないかしら。たしかそんな小説があったような…
鏡が水面のようになってエルサの細い白い腕がにゅっと出てくる想像に、寂しい心が明るくなるが
…エルサ、それは鏡からゆう○いが出てくる話だ
コンコン
「エルサ、入っていい?」
そんな妄想をしているとノックの音が聞こえ、慌てて服装を直し、奥の寝室から居間に戻る。
「どうぞ」
ウィリアムが笑顔で入って来たと思ったら、エルサの後ろを見て表情が固まる。
鏡の中に細い白い腕が消えていくのが視えてしまったようだ。
「…?リアム様、どうかされましたか? 儀式のあとすぐ執務に戻られていたようですしお疲れでしょう、軽く飲み物をご用意しますね」
エルサはそんなウィリアムの様子を心配しながらも、侍女を下がらせてしまった上にお互い部屋着なので、夜間用に用意されていたものを出す。
「あぁ、ありがとう、大丈夫だよ。戻ったとき迎えに行けなくてごめんね」
「私達の結婚のための儀式でお仕事を休まれていたのですから。私にも手伝えることがあれば仰ってくださいね」
温かい紅茶に少しだけアルコールを垂らして並べ、ウィリアムとともにソファに座る。
「こうしているともう夫婦みたいだな」
夫婦…
少し大人な顔立ちのリアム様とキラキラした金髪の子どもたちが走り回る風景を想像し思わず幸せな気持ちになる。
その後奥の寝室に目をやり思わず顔が熱くなるエルサ。
「…!」
「ふふっエルサとの子供も可愛いだろうが、しばらくは二人きりを楽しみたい」
「え?」
ウィリアムの言葉に固まる。
なぜ考えていることがわかったのかしら。
子供なんて…話題に出たこともないけれど。
それにさっき部屋に入ったときも、なにか様子がおかしかったし。
そういえばなにかお話があって訪ねてこられたのかしら。
「エルサ。実は、話してないことがあるんだ」
先程までの柔らかい表情とは違い、真剣にエルサの目を見て話すウィリアムに、思わずエルサも姿勢を正す。
「はい、リアム様」
「フレーメ国の王家の力については泉の中で実感したと思う。それとは別に、グレイス国の王家の力について話さなくてはいけない」
いつになく緊張した面持ちで、エルサの手を取ろうとして途中で手を止めるウィリアムに少しずつ不安になるエルサ。
帝国の王家の力って、やっぱり想像もつかないことなのかしら。
実はリアム様が獅子やドラゴンに変身できるとか…
赤と青の全身スーツで高い塔に登って悪と戦うとか…
でもどんなことでも受け入れるつもりですわ。
ふんすと拳を握りしめ覚悟を決めるエルサが視える。
ウィリアムが引いた手をエルサが追いかけて優しく包む。
「他国のことを私が聞いていいのでしょうか」
「…うっそんな期待されると…。君はすでに王族だからね。エルサ、女神様の祝福を受けるの、覚悟がいっただろう?」
ボソリと呟いたウィリアムは、今度は優しく労るようにエルサを抱きかかえる。
「国民への責任という意味でしたらリアム様と婚約する時にできておりましたわ。予定より早まってしまったようですが、リアム様に近づけて嬉しい気持ちの方が大きいです」
アルコールは少ししか入れていないが、久しぶり会えたことと儀式の疲れからか甘えるようにウィリアムに体を預け、素直な気持ちを口にするエルサ。逃さないというようにウィリアムは腕を回す。
「もしかしたら、これを聞いたらエルサは私を軽蔑するかもしれない。でも、一生かけて償うし大切にする。今更言う卑怯な私でごめん」
「ただの婚約者に王家の力を言えないのは当然ですわ。女神様から『秘密がまだあるかもしれない』と言われても私は覚悟なんて必要ありませんでした。どんなリアム様でも愛したいです」
覚悟がいるのはむしろウィリアムの方かもしれない。
ゆっくりと顔を上げ、口を開く。
「私の力は…人の心が視えるんだ」
「心が…みえる?」
甘くゆったりとした時間に流れていた空気が静まり返った。
「あぁ。はっきりと考えていることが伝わるわけではないが、心情が色や形として見えたり、実際相手が想像したものが私には視えたりする」
「そんな力があるんですか」
「帝国でもめったにあらわれない力らしい。知っているのは帝国の祖父母、父上と母上、そしてニースだけだ。人の心を覗くなんて、軽蔑する?」
「そんな。軽蔑もしませんし、絶対嫌いになんてなりませんわ! ただ、驚いてしまって…想像したもの。あ、だから子供の話…」
子供の想像のあと、寝室に目を向けたことを思い出し、赤くなるエルサと、それに気づき慌てるウィリアム。
「すまない! 普段は能力を抑えているんだが、エルサといるとたまに気が緩んで…」
「リアム様。やっぱり…少しだけ、時間をくださいませ」
エルサからは嫌悪の色は見えないが、これ以上今日は受け入れられないだろう。
「愛してしまってごめん」そっとエルサの髪に口付けをし、部屋から出ていくのを、エルサは見送れなかった。
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