女神の登場
祝福についてどう話そうかとエルサが思った瞬間、晩餐の部屋が眩しい光に包まれた。
急なことだったが、その光は暖かく、普段から警戒心の強い王族たちでさえ不思議と構えることなく光が収まるのを待った。
「じゃじゃーん!」
眩い光の中から現れたのは、エルサが今朝別れたばかりの女神だった。
………。
一瞬の静寂の後、その場にいる5人が最敬礼をする。
王族が頭を下げる唯一の存在。
流石に祝福がその血に流れているからだろう、アランですらその正体をひしひしと感じている。
「ぷぷぷ。登場の効果音、自分で言ってる。女神様、そろそろ声をかけないと、この人たち動かないよ?」
光が収まってもキラキラと輝く女神のうしろには妖精もついてきている。
ドッキリシチュエーションのリアクションを期待していた女神だが、流石に王族たちは心の動揺を表に出すことはしない。
『女神様』と聞こえ、一番年下のアランの肩がぴくりと動いた程度である。
「あら、あらあら。そうね、ごほん。さぁみんな面を上げなさい。ふんふん、あなたが今の王ね、それから王妃、王子が二人に…エルサ!」
ゆっくりと顔を上げた王族たちを楽しそうに確認しながら見回し、最後にエルサに向かってにっこり微笑んだ。
「女神様、ようこそいらっしゃいました」
本来なら代表して国王が話しかけるべきだが、面識があり友達認定されてしまっているエルサ。
女神様のテンポで国王に会話を許すのを待っていてはすすまないと判断したのだ。
「エルサ、そんな堅苦しいのはいいわ。刺繍の祝福を説明しに来たのよ」
「こ、こちらでしょうか」
エルサの刺繍は王妃の手にある。
緊張しながら王妃は、刺繍を掲げた。
「そうそう。あのね、私エルサと友達になったのよ。だから少し早いけど私の力を込めておいたわ。泉の中で、お話したりお茶会をする予定だからよろしくね。あぁ、あなたとも話してみたかったから、たまには一緒にいらっしゃいな」
友達…の部分から、唖然とする王と王妃にエルサとウィリアムは苦笑いするしかない。
「女神様、発言をよろしいでしょうか」
何百年もその存在を明かさず力だけを与えてきた女神に、国王としては聞かなければならないことがある。
「なあに?」
「大変ありがたいことなのですが、何故エルサ嬢に祝福を? この国に何か異変がありましたでしょうか」
「異変?まさか、とっても平和よ! 祝福は、そうね…だって面白い子だし。そこの愛の重い王子とのことも直接聞きたいから。恋バナってやつよ、うふふ。みて!二人の愛で私ツヤツヤピカピカなのよ。愛のフレーメ国はしばらく安泰よぉ!」
「は、はぁ」
女神の返事になにか裏があるのか、国の未来のために必死で考える国王と王妃。
「つまり、兄上とエルサ姉上の愛で女神様がツヤピカだから国も安泰だということですか?」
大人たちのやり取りを聞いていたアランが、女神の謎理論をそのまま復唱する。
「そうなのよ!わかってくれて嬉しいわ!私は愛が大好きだし力になるの。この国の王族たちは愛がたくさんだからみんな大好きなのよ。だから、この子も早く王族にしちゃおうと思って。本人もいいって言ってたし、もう逃げられないけどいいって」
「で、では、やはりエルサ嬢はすでに本当に王族として認められたということですか」
『逃げられない』という物騒な言葉だが、それを聞いた王たちは意味を理解すると嬉しそうに微笑む。
「まぁ実質的にはね。同じ力を持つあなた達以外には分からないてしょうけど」
「エルサ!」
形式的な結婚式よりもずっと強い結びつきがすでになされていると聞き、嬉しさから思わずエルサの側に跪いて手を取る。
「ふふっ祝福を受けてから、なんだかリアム様の側にいると以前に増して安心感があるんです」
「私もだ。ずっと一緒にいるからね」
その手に自分の手を重ね、頬を染めながら嬉しそうに見つめ合う二人。
「安心するのは王族として繋がっているからね。それにしても二人の世界がすぎる。ぷぷぷ」
「慣れてきたつもりだが、ウィリアムはこんなに感情豊かだったんだな」
「そうですわね。流石あなたの息子」
「あぁローズ。私と君の愛の結晶だからね。そろそろ結晶を増やさないか?」
「…私も早く婚約者を見つけたいです」
茶化す妖精と、にこにことご機嫌な女神、そして現実逃避気味な国王達。
力についての説明のついでと言って部屋にいる王族全員に祝福をし、また泉で会う約束をして光とともに女神は消えていった。
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「ぷぷぷ、それにしてもあの王族達、女神様に何もお願い事しなかったですね」
「フレーメ国の王族は昔から多くを求めないのよ。もちろん国民が困っているときは代表して助けを求めるけれど」
「へぇー。それにしても女神様、さらにツヤツヤピカピカですね。そろそろ眩しいですよ」
「久しぶりに王族達と話したけれど、ほんと愛の国よね〜」
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