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儀式終了




儀式最終日の朝。

名前を呼ぶ声に目を覚ますと

「…サ、エルサ」


目も眩むような美しい顔の男性がニコニコしながらベッドにいた。


「…わぁ!?」


慌てて飛び起き周りを見回す。

白の寝室にはまだ巫女達はおらず、エルサと二人だけのようだ。


「おはよう! 今日で最後だから刺繍に加護を授けに来たわ」



この声…!


「も、もしかして、女神様でしょうか」

「そうよ、もう忘れちゃったの? あんなに仲良くなったのに」


シュンとする美貌の男性の眉が悲しそうに下がる。

こころなしか部屋の空気も下がっていく…


「い、いえ! 外見がその、かなり変わられていらっしゃるので」

「あぁ、そうだったわね。夜に女の格好で出歩くとうるさいのに絡まれるから、変えていたんだったわ」


そう言って瞬きした次の瞬間には昨夜見たツヤツヤの女神に戻っていた。


「…そうでしたか」


…出歩く?とは。どういうことでしょうか?

国を思う女神様のことだから、夜警…?


夜に子女を狙う輩を追い払う先程の男性姿の女神が頭をよぎる。


実際には、飲み歩き、人間含む生き物の観察をするのが趣味の女神だが、それはエルサは知らなくていいこと。

エルサの部屋に飾られている花達が若干背筋を伸ばして緊張しているように見えるのも、エルサは知らなくていいことである。


「それより早くお祈りを始めて、刺繍しましょう? 今日で仕上げられるでしょ」


無邪気な様子で胸に手を当て笑顔でエルサを促す女神。


「はい。あとは全体の調整だけですから」

「近くで見ていたいから、今日の作業は巫女達を下がらせてね」


「かしこまりました」


聞きたいこともあるけど、女神様の要望とあってすぐに動き出す。


エルサは朝の祈りを済ませると、最後だから集中したいといって、一人部屋に残り刺繍を始めた。


「それにしても良く出来てるわね。春夏秋冬、それに合わせたものも。見本となる絵もまずまずだけど、そもそも最初に挿した花がここまで元気だと、絵を書く必要はなかったわね」


切り花が10日間美しさを保ったまま咲き続けられることは本来ならないので、先に絵を描くという工程をいれているのだが、エルサが儀式に使う花達は日に日に輝いているようにみえる。


「絵を描くために観察すると、一つの花弁でも色の濃さや厚みが違うことが発見できました。結果的に花を見て刺繍しておりますが、絵があることで時間をかけても大丈夫だという心の安心にも繋がりましたわ」


「なるほどねー。人間は花を咲かせ続けられないから面倒な工程だと思っていたけどそういう考えもあるのね。たしかに色を選ぶあなたはとても楽しそうだったし、私も描いてみようかしら」


「女神様が描かれるなら、どんなものでも見てみたいですわ」


エルサは集中しつつも女神の質問に答えながら楽しく時間を過ごすことができた。


そして完成した刺繍。

女神はさまざまな角度から刺繍を見たあと、エルサに向き直り真剣な表情で問う。


「今からするのは本当は半年後の儀式で施すものなんだけど。エルサ、あなたはあの王子と一緒になってこの国を守る覚悟がある? 祝福を行うと完全に魂が王族とみなされて簡単に離縁はできなくなるわよ」


「…はい。出会ってからまだ長い期間は過ごしていませんが、ウィリアム様は国王になるということの責任をとても強く感じていらっしゃいます。とても優秀な方ですが、国のために真剣に努力されるウィリアム様を私も支えたいと思っています」


「…王族には、あなたのまだ知らない秘密がたくさんあるかもしれないけれど?」


「そうかもしれません。それでも、どんなときでも信じる気持ちはあります」


「わかったわ」

そう言って女神は5つの刺繍の中から、すべての季節の花を混ぜた刺繍を手に取り口付けを落とす。


目のくらむような光が一瞬だけ部屋中を包み女神の手の中にある花の刺繍は真っ白になっていた。


「ちょっとやりすぎちゃったかな、ま、いっか。これであなた一人で泉に入れるわよ」


「あ、あの、白くなっていますが」


「私の力を込めているから輝きで色が飛んで見えるのよね」


「神官長や巫女達にはなんと説明しましょうか」


「大丈夫よ。力を持つもの以外には輝きが見えないから花の色が見えるわ。ふぁあ。久しぶりに長居して祝福したから疲れたわ。またね」


それだけ言うと、女神は音もなく消えてしまった。


神官長が呼びに来て儀式は無事終了となった。

エルサは世話になった者達に挨拶をし、完成した刺繍を持って王都へと戻る。


そのまま王宮へ挨拶に向かい帰宅の予定だ。


馬車に揺られながら、帰宅後のことを考える。

儀式と言うことだったが、忙しい日々を離れ白の部屋でかなりリラックスして過ごすことができた。

庭の花の世話や研究の続き、街の視察などまたいつもの生活に戻るが、より国のために丁寧に過ごそうと思えるようになった。



家族とこんなに長く離れたことがなくて寂しかったけれど、巫女達もみんな良くしてくれたし、リアム様ともお話できたからあっという間だったわ。

…そういえば、女神様、泉の中じゃなくても会えるんじゃないかしら?


ふと頭をよぎるが、窓から王宮が見えたことで思考が戻されたのだった。



_________


エルサが出発したあと白の部屋の片隅に、どうやっても外れないなんとも前衛的な女神の絵が掛けられており、掃除に来たの巫女達を非常に困惑させたのも、エルサは知らなくていいことである。


お読みくださりありがとうございます。

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