…side女神
「はぁ〜ここ数日栄養をたくさんもらって肌が艶々よ! 髪も潤って爪の先まで! これ以上美しくなったらどうしよう!」
婚約の儀式が始まって9日目。
大変機嫌の良い人外の美貌を持つフレーメ国の女神が、水面に映る男女を見ながら側仕えの妖精に明るく話す。
「ぷぷぷ。確かにピッカピカ過ぎて鏡のように反射しそうなほっぺたですよ。ここ数日溢れた愛が国を巡っているので今年も豊作ですね」
ふわふわ飛びながら返事をする花びらのような羽を持つ手のひらサイズの妖精は、見た目は可愛らしいがこの道500年以上のベテランである。
「あのエルサって子、私との相性がとってもいいんだもの。白の部屋に入って心を開かせても、自身の穢を落とすために動けなくなるどころか、今にも飛べそうなくらい心が軽くなってるわ。王族以外で初日から泉に入れる人間なんてめったにいないのに」
「ぷぷぷ。生け花のときは鼻歌だったのに、刺繍を刺す頃には歌詞までついてましたからね」
妖精はエルサが歌いだしたとき涙が出るほど笑ったのを思い出す。
「そうそう! 花が喜んでいるのが聞こえてきたわ。あの娘に選ばれたくて輝いていたのに、すべての現象を受け入れすぎて驚いてもくれなかったのよ」
「ぷぷぷ。まぁ花の美しさを蔑ろにしているわけではなかったですよ。むしろしっかり価値を分かって挿してました。こんなに毎日不思議な現象が起こっているのに気味悪がらず受け入れるなんて。今の王妃もこの空間に慣れて検証しだしたときには驚かされましたが、この娘は器が大きいというか、気にしなさすぎというか…なんだか女神様に似ていますよね」
そう、ここ数日、白の部屋では不思議な現象がよく起こる。もちろん主な犯人はこの二人だ。
「それって褒めてるわよね? でも、私の気配は感じてくれてもなかなか気づいてくれないのよ。もう少し派手に動くべき? あの花達の加護がめいっぱい入った刺繍が完成したら、そこには私の加護もめいっぱい入れるつもりよ。ふふっ結婚式が楽しみね」
「女神様、気に入ったのは分かりますがあまり派手なことはなさらないでくださいよ」
「はーい。それにあの王子も、久しぶりに新しい王族の力を感じたかと思ったら、グレイス帝国の神の加護も受けているなんてね。でもさすがフレーメ国の王の血。執着心が強そうねぇ」
「確かにあの新しい王子は興味深いですねぇ。ここではあちらの王族の血の力は使えませんから焦るかと思いましたが。なんだか素直に言葉を繋いでいて。いくら泉の中とはいえ、王族としてのプライドとかが邪魔しないものですかね。もう少しすれ違ったりもどかしく甘酸っぱい愛も見たいところですけど、ぷぷぷ」
この妖精の趣味は恋愛小説の読書だ。
最近ではびーえるというジャンルに手を出し始めたらしい。
「そう言うのは市井にいくらでもあるわよ。それに王族が恋愛で揉める国は大抵上手くいかないわ。フレーメ国の王族らしく、相手さえ間違えなければ執着キャラくらいで丁度いいのよ」
「…そういうものですかね。執着キャラって一歩間違えばヤンデレですからね」
先程までの可愛らしい雰囲気から魔王の使い魔のような表情までくるくる変わる。
長く存在していると、女神様の側仕えといえど個性が確立してくるようだというのを、更に長く存在する女神ですら初めて知った。
「全く、あなたはどこでそんな単語を覚えてくるのかしら。それにしても、そろそろ私のことを呼んでくれないかしら。見てるだけってのももどかしいわね。あの娘とは仲良くなれる気がするのよ」
「ぷぷぷ。女神様を呼ぶのは無理でしょう。簡単に呼ばれたくないからって、ご自身でかなり強い想いがないと、ここでは女神と口に出せないようにしたんですよね」
「だって私も自分の時間がほしかったから。でももう何年も呼ばれてないわ」
「ぷぷぷ。何年ではなく何百年の間違いですよ。200年前の大災害が起きたときに当時の王族に請われたきりです」
「あら、人間の世界は時が経つのが早いわねぇ」
「まぁ、それだけ平和だということですね。この儀式も今日が最終日でしたね。何事もなくすんで……おや? なにやらいつもと雰囲気が違いますよ」
水面に映る男女の感情が激しく揺れている。
落ち着いた水色から
強い思いの青
そして不安な気持ちの紫
「あらほんと。もめて…んん?」
何故か突然、愛を表すピンク
「ぷぷぷ、どうでしょう。内容はどう考えても甘すぎて…」
次々変わる色が赤一色に染まる。
「赤ね…」
「赤ですね…ぷぷぷ」
そう、情熱の赤!!
「あの娘、王子を全力で煽っていることに全然気がついてないわ! っあははは」
そこで理性が崩れたウィリアムがうっかり女神と呟いたためエルサとウィリアムの前に女神が現れたのだった。
「あー、おかしかった! さすがグレイス帝国の加護を持つだけあるわね。簡単に私のことを呼べるなんて。改めて二人とも! ようこそ!」
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