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穴は埋まるか




「ごきげんよう。リアム様」


エルサ(とウィリアム)が大人の階段を半歩進み、悶え悩んだ翌日。


今日も今日とてウィリアムとのお茶会はある。


王太子妃教育は終了しているので今は結婚式の準備のために登城している。

本日は王族専用の中庭に二人掛けのソファと小さなテーブルが用意されていた。


夏になり、日差しも強いのでサンシェードがかかっているが、湿度が低い王都なら日陰にいると丁度いい。



「エルサ、今日も美しいね」


優しく手を取りこめかみに口付けするウィリアム。


庭の花々がキラキラと輝くその一角は、まるで物語の花の姫と王子が隠れて逢瀬を楽しむ様子を切り抜いたような幻想的な様子であり、冷静沈着であるはずの王宮の使用人達でさえしばし見惚れてしまったほどだ。


そのままじっとエルサを見つめる。

表面上は淑女の微笑みを崩さないが、ウィリアムと目が合うと頬を赤くしたかと思えば、急に青ざめた。

それはウィリアムにしか分からないほどの小さな変化だった。


「どうしたの? 何かあった?」


すぐに使用人を下がらせ隣に座らせる。

よく視ようとしても、大きく波打っていてエルサにしては珍しく感情が安定していない。


そして何より…


この穴はなんだ?


エルサの周りに大きな穴が空いて視える。

明らかに落ち込んでいるようなのに、その穴が深すぎてウィリアムにも原因が見えないのだ。


一部の思考を止めているのか?


ウィリアムは昨日のことを思い出す。

愛する婚約者とまた少し距離を縮めて幸せだった。

たしかに途中から恥ずかしがる時の走馬灯が輪のようにぐるぐるして帰っていったが、負の感情は視えなかった。


この数刻で何があったのか。

誰がエルサをこんなにも苦しめているのか。


ウィリアムの表情が険しくなる。



いや、原因は貴方です


と分かる者は残念ながらいない。



「こんな時に儀式があるとは…」


ウィリアムが小さく呟いた言葉が沈み込んでいたエルサの耳に届く。


「儀式…? 教会で行うお祈りのことですか?」


王太子妃教育で習った、結婚式の半年前に教会で行う禊のことかしら。随分前に習ったから忘れていたわ。

たしか10日間教会に籠もってお祈りをして、式の前日にもお祈りを行うことで、式までの半年間の行いを神様に見ていただくのよね。


「あ、あぁ。今日はその事について話そうと思っていたんだ。春に式をするから、儀式の日程を早く決めるべきだったんだが公務の予定を調整するのに時間がかかってしまってね。なんとか朝の議会で承認も得られたから、急だけど来週からになったよ」


「まぁ、そうなのですね。以前ローズ様からとても神聖で素敵な時間だと聞いていたので、楽しみですわ」


王太子妃教育中に王妃が教えてくれたことを思い出し、少し笑顔になるエルサ。

しかし今度はウィリアムの顔が曇る。


「…楽しみか」

「?」


飲んでいたカップを置きエルサを見つめる。


「内容は私も当日まで知らされていないが、儀式中は私達は別の教会に籠もらなければならない。エルサはプリマヴェラ領の、私はこの王宮内の。プリマヴェラ領が近いとはいえ10日も会えないなんて、どうにかなってしまいそうだよ」


そう言いながら横に座るエルサを更に引き寄せ頭をエルサの首筋に埋める。

「っ!!」


「しかもその前に終わらせる仕事もあるから、出発まで会えないかもしれない。エルサは平気なの?」


珍しく甘えた様子のウィリアム。


どうしよう、リアム様が可愛い。

いつもは落ち着いて余裕のある雰囲気なのに。

でも、首筋に息が掛かるのがなんだかモゾモゾして恥ずかしいわ。


「リ、リアム様。お忙しいのに儀式のために日程を調整してくださってありがとうございます。私もお会いできないのは寂しいですし、お忙しくしているリアム様のお体が心配ですわ。でもフレーメ国の神様にもお祈りしてしっかり認めていただきたいのです」


「そうか。なら私も頑張るよ。戻ってきたら、会えなかった反動でエルサを困らせるかもしれないけれど、覚悟してね」


ちゅ

首筋に口づけを落とすウィリアム。


「リ、リアム様! 外です! そと!」


昨日の濃厚な口づけを思い出し真っ赤になるエルサ。

元気のなかったエルサが元気になるのが嬉しく、ウィリアムはどんどん続ける。


ちゅ

頬に。


ちゅ

額に。


ちゅ

瞼に。


ちゅ

そして、唇に。


恥ずかしさと、ウィリアムと触れ合う嬉しさで、瞳を潤ませ赤くなるエルサ。

「エルサ、外でそんな顔をしてはだめだよ」


気がつけば視えていた穴は消え、自分のことで頭が一杯になっているエルサをみてウィリアムは一息つく。


本当は悩みがあるなら時間をかけて話を聞いてあげたいけれど、今はどうにも時間がない。

とりあえず今は私のことだけ考えるようになれば良い。



…冷静なウィリアムにしてはかなり間違った方向の思想である。

それだけウィリアムにとっても10日間離れるということはストレスなのだろう。



その後結婚式の話をしている間もウィリアムはエルサの髪や腰に触れる手を離すことはなかった。




帰りの馬車でエルサは儀式のことを考える。


10日間か…王妃(ローズ)様は『お楽しみに!』といって詳しくは教えていただけなかったけど、とても素敵な時間だったとと話してくださった。


10日間も別の教会に籠もられるのよね。

リアム様も内容を知らないって仰っていたし。

修行って何をするのかしら…


帰宅後は父に儀式の日程や準備の確認をしたり、読書をしたり普段どおりに過ごしていたエルサ。


だが、自室のベッドで横になると、急に昨夜のことが思い出された。



そう。

深く深く穴を掘って思考を止めていた()()()()について。




…まさか



の妄想が頭をよぎる。

結婚前に…

式の準備として10日間……


必要なこと、堪えるのよ。




お読みくださりありがとうございます、

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