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騎士か犬か




お茶会のサロンから出るとそれぞれ控えていた侍女と合流した。


「エルサ様、お迎えの方は?」


支度を終えたアンナがエルサに話しかける。本来なら来るはずの護衛や迎えの家族がいないので気になったようだ。


「父が執務後に一緒に帰る予定ですの。それまでは…」


エルサはこの後のことを考え言葉を濁すが


「あぁ、殿下とお過ごしになるのね。お疲れではないですか? まったく、殿下もたまには遠慮してもいいと思いますわ。今日は大勢でしたけど、また今度よければ我が家のお茶会にもいらしてね」


それを察したアンナは微笑む。


「はい! ありがとうございます」


私のためを思っての社交用とは違うアンナ様の素直な顔!貴重だわ。


思わずエルサが見とれていると

「エルサ、迎えに来たよ」

タイミング良くウィリアムが現れた。

後ろには護衛と側近のニースを連れている。



「まぁ、ウィリアム様、わざわざこちらまで? ありがとうございます」

「エルサに会いたくて執務を片付けてきたんだ、気にするな。っと、エスターテ侯爵令嬢と話し中だった?」


「ごきげんよう、殿下。先日以来ですわね。相変わらずお二人の仲が良くて、国の未来も安泰ですわ。わたくしとの話はちょうど終わりましたので、エルサ様をお返ししますわ。ただ、お疲れだと思いますので、どうかほどほどに」

「あ、あぁ。そうしよう」


エルサの守りがますます頑丈になってきた気がする…

と、ウィリアムは思う。


エルサの一番の守護者を維持したいウィリアムが手を伸ばそうとするが、

「ウィリアム様、少しお待ち下さいね」


エルサが再度アンナの方を向いたため、その手は空を切った。


「アンナ様はお迎えの方は?」


エルサが去ると侍女と二人になるアンナを今度はエルサが心配したようだ。



くすり。という声が漏れてきそうなアンナに横目で見られるウィリアム。


「実は私も父を待ちますの。ちょうど調べたいことがあるからそれまで図書室にいるわ」


エルサの心配に気づいて笑顔で返したアンナは心なしか嬉しそうだ。

エルサが側にいると、どんな人でも表情が豊かになる。



そしてそんなアンナの答えを聞いてすぐに動いたのは


「では、私が図書室までご一緒しても?」


意外にもウィリアムの後ろにいたはずのニースだった。


「まぁ、クルトン伯爵令息。お久しぶりですわ」

「どうぞ、ニースと」

「ニース様、ではエスコートよろしくお願いいたします」


恭しくアンナの手を取りまるで夜会のようにエスコートに回るニース。


「では殿下。私はエスターテ侯爵令嬢をエスコートする大役を任せられましたので。どうぞエルサ様とごゆっくりお過ごしくださいませ」



きつめの顔のアンナだが、柔らかい雰囲気のニースと並ぶとなぜか調和がとれた。

アンナの華やかさがニースに、ニースの柔らかさがアンナに影響しているようで、話す機会は少なかったはずだがとても似合いの二人に見える。


笑顔で礼をするニースに、安心してエルサはウィリアムと歩きだした。






「ニース様、とてもスマートにエスコートされてましたね。えぇっと…そう、騎士のようでしたわ」


ウィリアムと執務室に向かいながら先程の光景を思いだす。

ぴたりとアンナの横に付き、手を引き寄せて笑顔でエスコートを申し出るニース。



(そう、あれは騎士というより… )


主人を見つけて激しく尻尾を振る従順な(ニース)がそこにはいた。


普段は仕事として王子の後ろに控える犬が、本来のご主人を見つけた途端ぴたりとそちらにひっつきひたすら主人の関心を引こうとする妄想がよぎる。


横に並ぶアンナにニースの尻尾が絡んでいる…


それくらい惹かれているようにエルサには見えた。



「くくっ。エルサにはそう見えるのか。あれは犬というより…( 狼だな。)まぁニースは人当たりもいいからエスターテ侯爵令嬢にも失礼はないだろう」


「え?なんですか? ニース様は接しやすい雰囲気ですが、しっかりした志をお持ちですし、アンナ様とも話が合うかもしれませんわね」


エルサの妄想を見て、思わず笑ってしまったウィリアムと、自分の妄想に浸るエルサ。最初の言葉を聞き逃してしまったようだ。

まぁこれもいつもの光景である。


ウィリアムが案内してくれた部屋の扉を開ける。


「ところでエルサ? そろそろ私のことにも目を向けてほしいのだけど」


腕を組んでいたのであまり目的地のことは意識していなかったが、今日はウィリアムの自室の居間で過ごすようだ。



エルサがウィリアムと婚約してしばらくして、初めてウィリアムの部屋に入ってから何度か訪れている。

王宮の中で二人きりになれる数少ない場所だ。


もちろんお茶を運んだりなにかと世話をするため護衛だけでなく侍女が扉付近に控えてはいるが、もともとウィリアムが他人を寄せ付けない性格の為、許可なく他の者は立ち入れない。



「さぁ、おいで」




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