デートその3
「それにしてもサラダにオレンジが入っていたり、メインのソースがベリー味だったり。デザートとしてフルーツが出てくるものだと思っていたからメニューを見たときは戸惑ったが、意外と合っていたな」
ウィリアムは食後に勧められた、特産だというハイビスカスティーを飲んで話しだす。
「はい。以前もフルーツの入ったランチをいただきましたが、今日のもとっても美味しかったです。フルーツの甘味や酸味を生かしたお料理ですね。それにしても以前よりかなり賑わっているような」
二人がいるのは半個室の二階席で、下からは覗けないが、二階からは下の賑わっている様子が分かる。
前回も若い女性達でそれなりに賑わってはいたが、カップルや護衛を連れた貴族の夫婦もいる。実はエルサとリヒトがこの店から笑顔で出てきたのを見た貴族達から口コミで広がり、若い令嬢や貴族のカップルに人気になりつつあるのだ。
「殿下、プリマヴェラ侯爵令嬢、本日はありがとうございます」
そこへノックをして店のオーナーが直々に挨拶に来た。
「エスターテ侯爵に勧められてきたが、なかなか美味しかったよ。店も賑わっているようだな」
「私は今日で二度目ですが、フルーツとお肉の相性の良さに驚きました。フレーメ国に住んでいても、まだまだ知らない料理がたくさんあるのですね」
「ありがとうございます。気に入っていただけたのなら何よりです。新しいメニューに抵抗のある貴族の方も多いのですが、殿下やプリマヴェラ侯爵家の方々のように美味しく召し上がってくださる方々のおかげで今では南方の料理を広めることができました」
エルサが、緊張しながらも笑顔で対応するオーナーに料理のことをもっと聞こうと口を開くと
「あぁ。これはこれで美味しいけれど本物のふるさとの料理が食べたい」
すぐ下にいるらしいテーブルから商人らしきグループの会話が耳に入る。
声は上に響くのだ。
どうやら味やお店に文句があるのではなく、グループ内での会話として話しているらしい。オーナーにも聞こえたらしく、少し困った顔をしている
それを受けて、ウィリアムが質問する
「こちらは郷土料理だろう? 家庭により味付けは多少違うとは思うが」
「もちろんです。レシピだけでなく南方のフルーツや野菜、肉、調味料など、できる限り取り寄せて再現しております。ただ、…なぜか味が微妙に変わってしまうんですよね。南方出身者にしかその違いはわからないんですが」
「そういえばエスターテ侯爵もそんなことを言っていたな」
「そうなのです。エスターテ侯爵様としては王都に広めるというだけでなく、南方出身者の方々の憩いの場になることをご希望されていらっしゃるのですが。なにか違うのか…」
フルーツの入った食事自体は少しずつ王都の民にも浸透してきているようだが、肝心の南方出身者の懐かしの味が再現できていない、とオーナーはすこし寂しそうに語る。
とても美味しかったし、私達には違いがわからないけれど…
「もしかして水かしら?」
エルサがふと呟く。
「水?」
「えぇ。ウィリアム様、たしか論文発表の時に水質の違いについて発表していた国がありましたよね」
「なるほど。王都の人間には新鮮で美味しく感じても、本当の南の地方で食べる物とは違うということか。研究室にあの論文の資料の写しがあったから、試してみようか」
「はい! 私もお手伝いします。本場の味を食べてみたいですわ」
よく分からないが王太子と未来の王太子妃が店のために何かしようとしてくれていることを察してオロオロするオーナーに、ウィリアムとエルサはいくつかの指示を出し、丁寧に見送られて店を出た。
本当はこのあとエルサにアクセサリーでもプレゼントしようと考えていたウィリアムだったが、エルサの心が既に研究室と王宮の調理場を行き来しているのを視て、王宮に戻ることにした。
それでも帰りの馬車でエルサを膝に乗せ最後までデートを満喫するウィリアム。
ウィリアムにとっては場所がどこであろうと、エルサとふたりきりになれればいいのだ。
周りの目がないので少しやりすぎたか、涙目で真っ赤な顔になったエルサを愛しそうに抱きしめるウィリアムは、
久々に休日を満喫した。
「ところで、私以外がリアム様と呼んでいるのを聞いたことがないのですけど、街に出るときの呼び名だと以前仰っていませんでした?」
「…よく覚えていたな。まぁあの時は、またエルサと街を歩くときにいいなと思ったんだ」
「え。それって…」
「エルサだけの呼び名だな」
いたずらがバレたときのような年相応の照れた笑顔に、エルサは怒るに怒れない。
「分かりました。私だけの呼び名、約束ですよ」
珍しく自分に執着を見せてくれたエルサに悶えたウィリアムは、馬車を遠回りさせてから王宮へと戻るのであった。
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