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…side マリーナ / スヴェン




「素敵な国だったわね」

「あぁ」


フレーメ国を出発する日、見送りに来ていた人たちと挨拶をしてから馬車に乗ったマリーナは、小窓から見える一枚の絵のような景色を見て呟いた。


花や装飾に囲まれた荘厳な城の前の庭に立つ美しい二人が笑顔で馬車に目を向けているのが見える。

側にいる側近や大臣達もみな幸せそうだ。



「…それに素敵な二人だった」

「…そうだな」


マリーナの呟きに、ちらりと小窓を見たあと短く答えるスヴェン。



ゆっくりと馬車が動き出し、この広い王宮の正門を出るだけでもまだ時間はかかるだろう。


マリーナは帝国に留学中だった頃のウィリアムを思い出す。


一見冷たそうに見えるその整った顔は、子供の頃から顔を合わせるたびにこちらの浅い考えを見抜かれているようで少しだけ恐ろしく感じていた。


しかし、留学に来て研究の話をするときには、その瞳に温度を感じたのだ。

時には熱く議論をした事もあり、王太子として振る舞う時と研究者としての使い分けに、本物の王族と自分との違いを肌で感じた。


夜会にパートナーとして出席した時には、丁寧なエスコートをしてくれ、ごくたまに見せる微笑みにはやっと自分にも親近感を持ってもらえたのだと安心したものだ。


まぁ、王国に来てエルサ様と並んでいるときのお顔を見て初めて本当の笑顔と人間らしさを感じたのだけど。

それに親近感を持てたと感じられるのも、あの言葉を聞いた今だから思えるのよね。



「研究者仲間として大切な存在」


ウィリアムの口から、初めて本心を聞けた気がする。




私も研究以外であんなに大切に思える相手に出会えるかしら。できれば研究を続けることを認めてくれる相手だといいのだけど。


マリーナ自身、縁談が途切れたことはない。

ただ、今は研究に集中したいと断りを入れ続けていい歳になってしまった。

研究者の多い帝国では、まだまだ行き遅れではないが、年々両親の心配が増しているのは感じる。


家のためにもある程度爵位が釣り合って、研究面に理解があり話の合う男性がいいわね…


ふとスヴェンを見ると何やら一人でウンウン頷いている。


…ないわ。


長年一緒にいて気も使わないスヴェンだが、何を考えているのか未だにわからない。

優秀な研究者であることは間違いないのだけど。



ま。当分は研究に専念して、帝国を支えていきましょう。

せっかくフレーメ国の未来の王妃である、エルサ様と親しくなれたし、恥ずかしくない仕事をしなきゃね。



気持ちを切り替え、帰国後の研究に思いを寄せるマリーナは、王国への行きの馬車よりもずっと澄んだ目で未来を見ていた。




________



スヴェンは数日前に見たあるメモを思い出していた。


帰国のために荷物を整理しているとき、研究室で借りていた本を返そうと持ち上げたらはらりと落ちた一枚の紙。確認しようと何気なく目をやると、それは白魔石の実験に関するメモであった。


白魔石の活用について試行錯誤した際に書かれたであろうそれは、肝心の製造方法については載っていなかったし、スヴェンも盗み見るような真似はしたくない。だからそれはそれで良かったのだが…その中にエルサ·プリマヴェラの名があった。


エルサが白魔石に関して早い段階から関わっていたことがうかがえる。

しかしスヴェン達の研修中はほとんど研究室に近寄らなかった。


ここから見える真相とは…



「そうか。そうだったのか」


スヴェンは悟った。



ウィリアム殿下はご自身の研究の時にエルサ様を常に隣に置くほど溺愛してらっしゃったんだな。

だから室長や他の研究員たちとも顔見知りだったし。

しかし我々の研修期間中さすがに神聖な研究室にいつもエルサ様を呼んでいることが見つかるのは良くないと思ったってわけだ。ははーん


エルサ様ほど聡明な方なら、そんなこっそり呼ばずとも席を用意して堂々と過ごしても室長達も納得すると思うんだがな。

ウィリアム様は想像以上に過保護で、まだまだエルサ様の実力を過小評価しているのかも知れない。



馬車の中で思い出し、独特な結論に達したスヴェンは、ひとりウンウンと頷きマリーナに不審がられていることに気づかない。

エルサは既に研究室に席を置き、実力も認められている真実にも辿り着くことはない。



初心に戻ったとはいえ、スヴェンは最後までスヴェンであった。







お読みくださりありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] スヴェンってなんかあれだな…そう、あれ…なんというか、とんまなんですよね…。 いまとんまって死語かしら(笑)
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