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義父との交渉 …side ウィリアム




マリーナ達が帰る少し前のこと________




エルサにつけている王宮の女官から王太子妃教育の全課程が終了した報告を受けた。


歴代王太子妃になる令嬢は高位貴族がほとんどなので、早めに終わることは珍しくはないが、エルサは王女であった母と同じくらいの短期間だ。

教師陣からは教育というよりは確認がほとんどだったとも聞いている。


学院に通わず家庭教師について学んでいたというが、それだけ身につけていたというのにあんなに素直に育っていることが、王宮の教師陣を虜にしたようだ。


「ご結婚前に、学院で少し教鞭をとられては?」

「令嬢たちの見本として家庭教師の派遣商会を作りませんか?」

「研究に専念する期間を設けては?」

「いやいや、あの自由な発想が素晴らしいんですよ。好奇心も向上心も旺盛ですから留学を経験されては?」


エルサのことを高く評価していることはいいのだが、提案を受け入れていたら何年たっても結婚できない。


しかも、他国出身の教師からはあわよくばエルサを他国に嫁がせたい意図まで感じられる。




早急に手を打たねば


彼女がどんな立場になっても、彼女らしくいられるように私がしていけばいいだけのこと。




というわけで、執務を早く終わらせ最大の難関と思われるエルサの父、シリウスに許可を貰いに屋敷へ訪問したのだが…



いない。


今日もいない。


連日いない。



会議では顔を合わせるが、大切な話なので正式に屋敷を訪問しようとしても最近はいつも不在である。

会議後にアポイントだけでも取ろうと思っても、席を立ったときにはいない。


シリウスからは悪意は感じられないし、私から逃げているわけでもなさそうだ。



なぜだ?



そう思い、最近はプリマヴェラ家への訪問で短い時間になってしまっていたエルサとのお茶会に向かう。


エルサがいるはずの扉を開けるとそこには…


「おや、殿下。娘は今城の侍女に呼ばれて不在ですぞ」


先程までエルサがいたことが伺える二人分のティーセットの一つを優雅に飲んでいるシリウスがいた。


可愛らしい花柄のカップを手に笑顔で紅茶を飲むこの男は、家族の前以外ではたとえ笑顔でも気を抜いてはいけない。


「シリウス。最近私が屋敷を訪ねていることを聞いているだろう。いつも不在のようだが?」

「申し訳ありません、殿下。()()()()娘が王宮で空き時間ができる日が続いていたので、寂しくならないようにお茶の相手をしておりました。なに、私も会議で登城していますからついでですよ」


「ほう。それはそれは」


シリウスが、ウィリアムの意図をわかった上で、ついでとばかりに娘との時間を確保していたことが伝わってくる。



悪意までは感じられないが…


やはり厄介な相手だ。

戦略を変えよう。



「シリウス、エルサが王宮にいるほうが、会える機会が増えるとは思わないか?」


「ほう?」

「今までは断っていた分、今後数年は議長や大臣を任されるだろう。王都に滞在する期間も長くなる」

「そうでしょうなぁ」

「会議によっては帰る時間も遅くなる」

「ふむ。無駄に時間を使うことが好きな輩がいるのには困ったものです」

「そこで、エルサと私が婚姻すれば、エルサは王宮に住むことになり、こうしてお茶を飲む機会も確保できるのではないか?」

「まぁいずれはそうなるでしょうが。まだ先の話ですよね」

「はっきり言おう。私は年末には式を挙げたいと思っている」

「年末! これはまた婚約してから一年せず結婚とは随分急がれますな。まだまだエルサは嫁ぐには未熟です。望んでくださるのはありがたいですが式の準備期間もありますし、何よりあまりに早くすると色々勘ぐられては娘が可愛そうです」




コンコン



「あら? ウィリアム様もいらしてたんですね。最近はウィリアム様との時間までこうして父が相手をしてくださるんです。王宮での父の顔を見られるのもウィリアム様と婚約したお陰ですね」


そこへ席を外していたエルサが戻ってきた。

エルサが私の顔を見て嬉しいという感情が伝わってくる。


可愛いな。


おそらく私と同じ感情を抱いたであろうシリウスが、先程までと違い、猫なで声でエルサに話しかけ、いそいそとお菓子を取り出す。

「用事は終わったのかい? 今日は王都で流行りのお菓子を持ってきたぞ」


「ありがとうございます。 王妃様から今度の視察の確認があっただけですぐ終わりましたわ。今日は3人でお茶会ですね。嬉しい!」


嬉しそうに侍女に私の分のお茶やお菓子の指示を出すエルサ。

うん。早く結婚しよう。



「エルサ。いまシリウスと話していたんだけどね、私達の結婚式の日程をそろそろ決めようかと思って」


本当は先にシリウスと話をつけたかったが、おそらく最終的にエルサの気持ちを優先させることは分かっている。それならシリウスが納得できるようエルサの気持ちを聞くまでだ。


「まぁ、もうそんな話を? たしかに王妃様からは教育は今後は定期的な確認のみと言われておりますが。王族の婚姻には数年かかるものだと思っておりましたわ」

「エルサは優秀だから、準備期間のほとんどを短縮できたからね。早く結婚するのは嫌?」

「そんなことありませんわ。でも、ウィリアム様も忙しくなってしまうんじゃ」

「大丈夫だよ。では年末はどうだろう?」


「ちょっ、殿下!っていうか、二人とも私が居ること忘れてない?」


テキパキと指示を出し、自身も優雅に紅茶に手を伸ばしながら会話を楽しむエルサは、すっかりこの部屋の女主人として馴染んでいる。

今日の客人が父親ということもあり、ウィリアムと二人のときと同じようについついリラックスして会話が進んでしまったようだ。


「お父様ったら、忘れるわけがありませんわ。それにしても今年の年末ですか? 王族の結婚としてずいぶん早いですね。関係者に無理はさせないようにしたいのですが」

「エルサは優しいな。殿下、娘もこう言っていますし、かわいいかわいいエルサの花嫁衣装、やはり準備に時間をかけないといけません」

「王族の婚姻ですから盛大な方がいいのでしょうけど。早すぎると出席者や国の準備も負担がかかります。華やかに見え、負担を減らすなら…来年の春ならどうでしょうか? 」

「エルサ!?」

思ってたんと違う!と焦る父と、花に囲まれた教会に思いを馳せる娘。


「生花もたくさんあるので飾りを考えるよりは負担も減るかと」

「エルサ〜?」


「歴代の飾りもあるから、負担は気にしなくていいけど…ふふっ。花の妖精のエルサには、やはり花が似合うかもね」


「そこは否定しませんが… エ、エルサたん?」



嬉しそうに見つめあい頬を染める娘を見て、シリウスは涙ぐむ。


「シリウス、許可をもらえるか? 数年単位婚約者のままでいると、王宮の教師陣から留学を勧められる可能性がある。しばらく会えなくなるぞ。それに結婚後はエルサが王宮にいるから、こうして会えるだけでなく家族として王家の晩餐にも呼べる」

「ぐ…留学…家族。晩餐…」


議長になってから忙しくて晩餐時にあまり帰れていないシリウスの前に人参をぶら下げてみる。


「まぁ! みんなで晩餐なんて素敵ですわね!」


エルサの一言で決着がついた。


「来年の春…許可…します」


「ありがとう。では婚約から一年後の春ということで、父に話しておく。エルサも結婚に関して希望があれば何でも言ってくれ」

「ありがとうございます」

「殿下、エルサの準備はプリマヴェラ家でいたします。そこは譲れません!」

「分かっている。王家のティアラが付けられるようにしてくれれば。シリウスのエルサへの思いは信じているからな」


その後の父に話を通す際、予想外に取引を持ちかけられてしまった。交渉次第で覆すことは可能だったが、私のわがままという後ろめたさもあったため、少し乗っておいた。



やっと婚姻が見えてきた。


エルサがいることで私が仕事に積極的になれていることに気づいているだろうか。

エルサがいることで私がどれだけ癒やしをもらえているか気づいているだろうか。






お読みくださりありがとうございます。

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