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交流会 その3




「エルサ様、発表見ていただけました?」

フレーメ国のグループに近づくと、さっそく顔見知りの研究者ジェットが声をかけてきた。


「もちろんよ。規模が大きすぎてエネルギー回路の計算はとても追いつかなかったけど、早く試験的にでも実施したいわね」

「はい!その際にはぜひ研究室に来てくださいね」


当たり前のように研究室に呼ぶジェットは、普段は王宮の研究者の中でも魔石の大規模エネルギーより、生活への活用を得意としている。


そのため身近なものにこそ活用されやすい発想をするエルサは、ジェットのなかではエルサそのものも研究対象なのではというくらい、普段から何かと話しかけてくるのだ。


「こら! エルサは、忙しいんだ。あまり呼び出すな」

エルサとジェットのあいだに入り、牽制するウィリアム。声こそ抑えてはいるが、自分の所属するグループだけあってウィリアムも遠慮がない。


「承知しております。殿下との時間をすこーしいただくだけですよ」

「お前は少しじゃないだろう」

「国のためですって」

「そんなときだけ愛国心を出しおって」

ジェットがウィリアムに食い下がっている横で、エルサと研究者達がいつものように話し始める。

この二人のやり取りも最近では見慣れたものなので、最初はオロオロしていた同じグループの研究者達も気にしなくなってしまった。



「ウィリアム様、もしよろしければ私達も挨拶させていただけませんか?」


そこに少し離れたところから様子を窺い、声をかけてきたのはグレイス帝国のスヴェンとマリーナ。


ウィリアム達の声は聞こえていなかったので、研究について議論していたと思われたようだ。



うん、国のイメージのためにも誤解されたままがいいだろう。



「あぁスヴェン達か。室長!」

ウィリアムはキリリと公務中の顔に戻し、エルサ達の輪を見守る男性を呼ぶ。

といってもジェットとの会話中も、ウィリアムの顔は緩んでいたわけではない。エルサを見つめる時以外は、ほぼ無表情がデフォルトだ。


呼ばれた男性がウィリアム達のそばに来たので紹介する。


「明日からしばらく研修に来るグレイス帝国の研究者、トワイニング公爵令嬢と、ホーク侯爵子息だ。帝国での魔石の研究はトップクラスだから、互いにいい刺激になると思う」

「スヴェン·ホークです、どうぞスヴェンと。今日の発表、素晴らしかったです。私は日常に使える魔石の活用を主に研究していますが、白魔石もその方面で広げたいと思っています。よろしくお願いします」

「マリーナ·トワイニングてすわ。専門は経済ですが、魔石と経済は切ってもきれない関係。スヴェンの助手として研究にも携わっておりますので、こちらで学ばせていただけるのが楽しみです」

スヴェンとマリーナも王国語で挨拶した。


「こちらこそ、よろしくお願いします。王宮研究室長のルドルフです。帝国のトップクラスの方に認めてもらえるとは嬉しいですな。ふむ、魔石の活用なら、ジェットと話が合うかもしれませんね。ジェット!」


ウィリアムがスヴェン達の相手をしている間に、またしても直接エルサに誘いをかけに行っていたジェット。

エルサを熱心に口説いて(勧誘して)いるのが見つかったのかと、ぎこちなくウィリアムの方を見る。


そんなジェットの視線を追って、エルサもマリーナ達に気づいた。

エルサもキリリと公務の顔に切り替え、すぐにウィリアムの隣に移動し、挨拶する。


「マリーナ様、スヴェン様ごきげんよう。交流会楽しんでくださっていますか」


その微笑みは、公務に慣れていないとは思えない自然な美しさだった。

帝国の公爵令嬢であるマリーナですら、王族であるウィリアムと並ぶ時は格の違いを感じ少しでも背伸びしようと意識していたというのに。


そんなエルサを優しく見つめるウィリアムの自然な笑顔もまた、マリーナを動揺させるのには十分だった。


「ご、ごきげんよう、エルサ様。発表も交流会も、とても有意義な時間でしたわ」

マリーナの挨拶の後、スヴェンも礼をする。

「こんにちは。今年は特に盛り上がっていますね。フレーメ国の白魔石の発表は素晴らしかったです。皆話したいのでしょう。私も研修が楽しみです」

マリーナと違い、未だ発表の興奮がおさまらないスヴェンは、ウィリアムとエルサを前にしても変わらない。



ふふっ研究者と呼ばれる方は、どの国も同じ気質ですわね。スヴェン様の興味はとってもわかりやすいですわ。

緩んだ顔のスヴェンを、まるで子供を見るような気持ちで会話を続ける。


「良い時間を過ごしてくださってよかったですわ。私は交流会は初めてですが、どの国の研究者もよくお話してくださって、時間が足りないくらいです」

「そうだな。もっと話したがっていた研究者は多かったが。おそらく近年の王族の中ではかなり話しているほうだと思うぞ」

ウィリアムは留学中も他国で開催された研究発表に出席していたので他国の王族と比べて、異例なほど議論の渦中にいる自覚がある。

エルサは「そうなのですか」と意外そうにしているが。


ウィリアムが会話に加わったことで、流石にはっとスヴェンの表情が戻る。


「それにしてもお二人はずっと一緒に回っていますが、研究室に席のあったウィリアム様と回るのでは、なかなか専門的な話は難しかったのでは?」


エルサの後ろからついてきたジェットはスヴェンの言葉を聞いて眉間にシワを寄せる。

スヴェンの言葉の裏に、研究の事は分からないだろうという意図が感じられたからだ。

悪意は感じられなかったが、研究者と言うものは良くも悪くも思ったことがそのまま出てしまうらしい。

思わずエルサの功績を伝えようと前に出る。


しかし、臨戦態勢のジェットをそっと制し対応するエルサ。


「そうですね。専門的な内容もありますが、私のような初心者にも分かりやすく話してくれますわ。今日参加している者たちはきっと、自分のためでなく民のために研究しているという意識が常にあるのでしょう」

「なるほど。たしかに研究成果を活用するためには多くの民衆に理解してもらう必要がありますね」

エルサの言葉に思わず頷くスヴェン。


「えぇ。独りよがりな研究にならないためにも、何の為にというのは大切だと思いますわ」

私のような『何も知らない令嬢』でも分かることが大切なのです。と、弟に釘を差されていた役割を心の中で付け加える。


先程と違い興味深そうにエルサを見つめるスヴェン。

なんだか二人の距離が近くなってきて、今度はウィリアムが割って入る番となった。


「たしかに。どの分野でも、功績を上げることに必死で、何の為の研究かわからなくなってる人はいるからな」


ジェットとスヴェンの間にエルサが立ち、エルサとスヴェンの間にウィリアムが立ち…


密である。



えーっと、何の話をしていたのかしら。



「殿下、言っておきますが私の研究は国民の生活の為という目的がちゃんとありますからね」


そのような研究者と一緒にされたら堪らないと、やはり子供のように言い返すスヴェン。



「ふふ。でしたらこのジェットと話が合うでしょう。魔石の生活での活用を研究していて、国民の生活が豊かになる活用術をたくさん生み出してくれてるんですの」


「はじめまして。ジェットです」



エルサの後ろに立っていたジェットが挑戦的な目をしながら握手を差し出したのだった。



________




お待たせ!ジェット!





お読みくださりありがとうございます。

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