論文発表
晩餐会から3日後、ついにカラの魔石の論文が発表された。
王宮にある研究塔の中の一番大きな講義室の中には、フレーメ国の研究者の他、マリーナ達帝国の研究者や近隣の友好国の研究者も集まっている。
国内外の研究室の発表が一日かけて行われ、最後がカラの魔石の報告である。
「…………という回路によって白魔石によってインフラが整い、さらに魔石の消費量を減らせることにより、実生活に使える魔石の確保の増加も期待できる。以上で、今回の報告を終わります」
そしてたった今、フレーメ国の研究室長が論文の解説を終えたところだ。
この論文の内容をまとめると、
1.国のインフラのエネルギー供給に必要な魔石の量を、カラを使うことによって大幅に減らすことができること
2.これまで精度が違う魔石を大量に使うので誤差も大きかったが、カラを使えば今までの半分以下の量で済むので質を揃えやすくもなり、安定性も高まること
3使用できるカラには共通の印字をし、名称を『白魔石』とすること
となる。
室長が話すにつれて静かだった室内が、だんだん興奮で熱くなっていくのがわかる。
ざわ…ざわ「そんなことが可能なら、止まっていた研究も」ざわ…ざわざわ「予算を他にまわせば経済も」ざわわ ざわわ ざわわ「しろい〜」ざわ…ざわ「なんて革新的な発見なんだ!」「すばらしい!」「詳しい資料やデータを」などなど。
報告後は、次々上がる質問に室長が答えていく。
「すみません、肝心な白魔石の制作過程は公表されないのですか」
他国の研究者から出たこの質問も、想定内である。
これだけは室長ではなくウィリアムが答えた。
「今のところ公表は考えていない。ただ、研究に使う分に関しては従来の魔石よりも低価格で提供する予定だ。国内だけでなく、興味のある国は担当部署を通してほしい」
流石に王太子が公表しないと宣言したからには、残念そうではあるが食い下がる者はいなかった。
予め研究室内で、カラから白魔石への作り方は、王宮外へ公表しないと決めてある。
利益の問題もあるが、白魔石によるエネルギー供給の拡大は、一歩間違えれば軍事に利用されやすい。
製造については王宮の研究室のみでとどめておくことで、他国への牽制にもなるという判断だ。
不満は出るだろうが白魔石を提供し、研究や生活に使ってもらうのは自由なので、今後のことを考えるなら、恩を売ることとなるだろう。それくらいエネルギーの資源問題は重要であり、白魔石を活用するという発想は斬新だった。
他にも有効な使い方などいくつか質問があり、まだまだ研究者達の興奮は収まらない。見本で配られた、白魔石と保温の効果がある小さな魔石の入った籠を覗いたり、いつかのウィリアムがしていたように白魔石を手にとって上から見たり横から見たりと忙しそうだ。
早速研究者とともに来ていた使者の文官たちが、同じ部屋に控えていた外務部と経済部に相談の約束を取り付け始めている。
一方エルサは研究会の様子を別室で、父シリウスとリヒトと共にモニターで見ていた。
「やはり製造過程が知りたいという声は出ましたね」
「想定内だな。しかしカラ、いや、白魔石がこんなにも大きな成果になるとはなぁ」
「ウィリアム様が帝国でエネルギー政策の研究をしっかり進めていたからですわね」
「姉上が、カラを発酵させてみたいと蒸留酒に漬けた時は、どうなることかと思いましたが…」
「…そんなこともあったわねぇ」
三人はこれまでの過程を思い出し、遠い目をする。
製造についてはプリマヴェラ家の中でもエルサに近い者たちは知っているが、そこから漏れる心配もないだろう。
「ま、あとは国に任せましょう」
「そうだな。うちは他にもたくさん抱え込んでるから手が足りないくらいだ」
白魔石による利益は、シリウスによってエルサが王太子妃になったときの予算に回されるよう交渉も結んでいる。
これ以上プリマヴェラ家として主張する必要はない。
「たしかこのあとは研究者たちの交流会でしたね。姉上も参加されるんですか」
「えぇ。今回の交流会には国王と王妃は参加されないから、ウィリアム様の婚約者として王族代表で出るわ」
「姉上が研究室に関わってることはバレてないんですから、あまり目立たないように気をつけてくださいね」
「リヒトったら。大丈夫よ。私は『何も知らない侯爵令嬢』でしょ。未来の王族として顔を売るだけよ。笑顔で顔をう、る、だ、け。ね?」
普通は王族としての参加、というところにプレッシャーがかかるものだが、エルサに限っては立ち振舞という意味での不安はない。むしろ今も「異文化に触れられるかしら」と呟いてウキウキした笑顔をみせている。
だからこそ、
「はぁ、心配だ…」
リヒトは思わず声に出す。
「リヒト、私もいるから大丈夫だ。エルサは私が守る!」
リヒトの言葉に、同じく大臣として妻ソフィアを伴い参加する予定のシリウスが胸を叩く。
普段の王宮での仕事ぶりには父に信頼をおいているリヒト。しかし、姉が絡んだ時の父は…
(母上、父上と姉上が暴走しないように、お願いしますよ)
前回すでに、帝国の研究者の態度に我慢の限界が来ていた父の様子に一抹の不安を覚えるリヒトは、心のなかでまもなく合流する母親にそっと気持ちを託すのだった。
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