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帝国からの訪問者




『久しぶりだな。マリーナ、スヴェン』

『お元気そうで何よりです。ウィリアム様のご活躍は帝国まで聞こえてきますわ』

『まさか帝国で研究されていたことが、こんなにも早く形になるなんて。本当に驚きましたよ』

『あぁ。王国の研究室にも優秀な者は多いからな』


マリーナ達がフレーメ国の王宮に到着し、案内された部屋に現れたのは、王太子ウィリアムであった。


長旅と緊張で疲れた様子もあるが、知った顔を見てほっとする二人。


『論文も気になりますし、こちらの研究も気になります。研修させていただくのが楽しみですよ』

『ははっ相変わらずだな、スヴェン。私もまた一緒に研究できるとは思わなかったから、楽しみだ』


マリーナから見て、久しぶりのウィリアムは、なにも変わっていないように見えた。

相変わらず美しいがどこか冷めている顔に、壁のある雰囲気。それでも、学院時代のように、他の使者よりも自分達とは話が弾む。


『もう! 婚約なんて聞いたから、別人と入れ替わられたのかと驚きましたが、ウィリアム様もお変わりないようで安心いたしましたわ。でも、あまり研究ばかりしていたら、呆れられてしまいますわよ』


そう、思わず未だ見ぬ婚約者の心配までしてしまうくらいには、気を抜いていた。


「…それは困るな。まぁ彼女なら喜んで一緒にしてくれるだろうけど」


そう言って王国語で呟き表情を変えたのは一瞬だったが、愛しそうに遠くを見つめたウィリアムの瞳をマリーナは見逃さなかった。


『…え?』


…今のは、なに?


しかし、もう一度よく見ようと目を合わせた時には、いつも通り少し冷たい表情に戻っていた。


『さ、落ち着いたら先に陛下に挨拶だけしておこう。そのあとは晩餐まで休めるから。二人とも旅の疲れは大丈夫か?』


ウィリアムは立ち上がり、護衛を呼ぶ。


『は、はい。行けますわ』


予想外のウィリアムの反応に、落ち着かなくなったマリーナと、マリーナの様子を怪訝そうに見るスヴェンを連れて、謁見の間へ向かう。


陛下への謁見では定型通りの口上を述べる。公爵令嬢のマリーナには慣れたものだ。あとは帝国から研修参加への礼と土産を使者が説明し、無事に謁見を終えた二人はウィリアムと分かれ、それぞれ与えられた部屋へと戻った。


帝国の実家から連れてきた使用人が、部屋を整えてくれて、リラックスする紅茶を飲むと、マリーナは先ほどの違和感を思い出した。ウィリアムの反応をもう一度確認したいところだが、晩餐の時間となった。





歓迎の晩餐会ー


広くはないが、落ち着いた色合いの部屋には高名な画家の絵がバランスよく配置され、邪魔をしない程度に音楽が奏でられている。

唯一シャンデリアがキラキラと煌めくのが、華美すぎず、品の良さを感じる。


夜会との違いは、立食式で一人でも多くの参加者との社交がメインなのに対して、決められた席に着き食事をするので、自然と話せる相手が限られてくる。その分、ゆっくりと話すのが目的となる。


長いテーブルでは両サイドに男女に別れて座る決まりだ。片側に奥から国王、ウィリアム、スヴェンと並び、フレーメ国の大臣達とグレイス帝国からの使者が交互に座る。

そして反対側には王妃、エルサ、マリーナが並び、大臣の夫人達と帝国の使者が同じく交互に座る。


婚約者のエルサを含む王族は、最後の入場となり、それまでは夜会と違って先に交流せずに、静かに待つのがしきたりとなっている。



「緊張している?エルサ」


ドアの前でウィリアムがエスコートしながら優しく問いかけてくれた。


「少し。まさか成人して初めての晩餐会が、国を越えるものになるとは思いませんでしたので」


「エルサなら大丈夫だよ。困ったら頼って欲しいくらいだけど、そんな隙与えるつもり無いでしょう」


そう言ってエルサのネックレスを手に取り、口付けする。

近くにウィリアムの頭が来て感じる、爽やかなウィリアムの香りにエルサはどきりとする。


今日の晩餐は歓迎が目的なので、友好的な雰囲気が保てれば合格だ。しかも来賓のトップが王妃の姪なので、堅苦しくなることもないだろう。エルサの頬が少しだけ紅潮しているのは、緊張からか、ウィリアムのせいか。


頭を切り替え、この日のために帝国語や帝国含む隣国の文化、経済の復習をしてきたことを思い出し、エルサは、だんだんとわくわくしてきた。


授業で学んだことを、帝国の方に直接聞ける機会があるなんて、とても楽しみだわ!


(フレーメ国から最も遠い、帝国の北側の湖には丸い植物がたくさんあるってほんとかしら。触ったことはあるかしら、ふわふわ?かたいの? 今日はあまり話す時間がなくても、仲良くなればお茶会に誘ってもいいかしら)


霧の湖畔で、丸いみどりの塊を棒でつつくミニエルサと未だ見ぬ後ろ姿のミニ令嬢

ツンツン、ツン、ツンツン…



「お待たせ。まぁ! エルサさん、素敵なドレスね」

「ほう、美しい生地だな。装飾も新しく作ったのか。二人によく似合っている」


国王と王妃が歩いてきたので、慌てて妄想を消す。



いけないいけない。

集中しないと。


「ありがとうございます。ローズ様も、とても上品でお美しいですわ」


ゆっくり深呼吸し背筋を伸ばす。

誰からみても美しく気高い令嬢の出来上がりだ。


ジョルジュがデザインしたドレスは圧巻だった。


フレーメ国特産の薄くて軽いローズピンクの生地に、同じくキラキラとラメのあるレースを重ね二層にしたオフショルダーのドレスは、エルサの雰囲気をより高貴なものへと押し上げる。

座ったときにこそ映えるよう、胸回りには、カラフルなレースで国の特産の花々を立体的に模していて、贅を尽くしたものだとわかるのに、とても上品だ。


「若いっていいわねぇ」

「ローズも素敵だよ」

「あら、うふふ。いいのよ、今日はエルサさんの公務デビューなんだから。しっかり顔を売って、帝国の人たちを驚かせなきゃ」


国王と王妃がイチャイチャしだす…



ちらりと隣のウィリアムの様子を窺うと、ちょうど目が合い、二人して笑顔になった。

ウィリアムの瞳にはすでに心配の色はなく、エルサの振舞いを信頼してくれているのがわかる。


リアム様のご期待に添えるように、いざ!



メインの扉が開き国王と王妃、ウィリアムとエルサが静かに入場する。

4人共、先程までのやり取りが嘘のように優雅な立ち振舞に変わっている。


すでに席についていた出席者達が立ち上がり最敬礼で迎えた。


まずはテーブルの端に並び、国王からの挨拶である。

『面をあげよ』


全員が下げていた頭をあげた瞬間、帝国からの客人達が息を飲むのが分かった。


国王と王妃も威厳のある整った顔立ちだが、その隣の初めて見る二人、王太子とその婚約者のまるで物語から出てきたかのような存在感。


ウィリアムはすでに上に立つ者としての威厳と風格を感じるし、エルサは最近王族の婚約者になったとは思えないほどの落ち着きと、凛とした美しさを放っている。


二人の瞳の色のイエローゴールドとホワイトゴールドを蔦のように絡ませた枠に、フレーメ国の国石であるクリスタルが輝いているアクセサリーを、ウィリアムはピアスに、エルサはネックレスに付けていて、互いの結びつきをしっかり感じさせた。


エルサが歩く度にドレスのラメが静かに煌めき、席に着くまで誰もが目を離せなかった。


王族が席に着くと、ワインが配られる。


『我がフレーメ国とグレイス国のさらなる発展を願って、乾杯!』



晩餐会の始まりだ。




お読みくださりありがとうございます。

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