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王太子妃教育

『婚約者編』スタートします。

よろしくお願いします。




春の王宮の夜会から数日後、エルサの王太子妃教育が始まった。

といっても、エルサの場合ほとんどの教育を既に侯爵家で学んできため、今は王妃に呼ばれてお茶を飲んでいる。


『エルサさん、いかがかしら?』

『こちらはエスターテ領のジャスミン、特A級でしょうか。冷やして飲むのは初めてですが、今日のような暖かい日にはすっきりしていいですね。カラフルなグラスもジャスミンの個性的な味と合わせて楽しめますわ』

王妃ローズの帝国語での問いかけに、エルサは優雅にお茶を飲み、グラスを少し確認して同じく帝国語で答える。


「ふふっ。合格よ。単語のチョイスも発音も問題ないわ。茶葉の等級まで当てられるなんて、よく勉強してるのね」

「ありがとうございます。帝国語の発音に自信がなかったのですが、ローズ様に認めていただけたなら安心です。こちらはグラスに保冷の効果をつけているんですか?」

「そうよ。保冷の魔石を底に嵌められるようになっているの。でも、なんでも当てられちゃうと、主催者としては語り甲斐がないから、相手に語らせたい場合は、ほどほどのところで質問したほうがいいわね」

「はい。ローズ様」

そう、優雅な御茶会にみえて、これも王太子妃教育の一貫である。


ちなみに呼び名は「おかあさま」と呼んでほしいローズと、おそれ多くて「王妃様」と呼びたいエルサのあいだをとって、「ローズ様」となった。

結婚後はそのまま「ローズおかあさま」と呼ばせる計画があるのは、エルサには内緒だ。



今日のテーマは、相手をリラックスさせ気分良く時間を過ごしてもらうこと。

他にも威圧をかける、気づかれないように探りをいれる、こちらに有利になるように交渉する、など様々なパターンがある。


なにやら物騒なテーマが多く、今日のような平和なテーマが少ないのは、王族の裏側を少しずつ晒されているようでドキドキする。


「ふふ。正解はないのだから、相手が気分良く過ごせるならそれで大丈夫よ。とてもよくできてるし、あまり固くならないでね。対処できないことが起きたらあの子に投げちゃえばいいのよ」

あの子!というのはもちろんローズの息子、この国の王太子のことである。

「あ、ありがとうございます」


王妃ローズはその聡明さで有名だが、話してみると茶目っ気たっぷりで情熱的な行動派だと分かる。


今日は王妃がこれまでにしてきた、王立学園に抜き打ちで視察をした話や、街の孤児院をお忍びで訪れた話を聞いた。


勉強になることも多かったが、側に立っている護衛や侍女達の、疲れたような遠い目を見てしまうと、何か行動を起こすときは、まずはウィリアムに相談しようとエルサは思うのだった。



「エルサさん、おかわりは?」

空になったカップを見て、侍女を呼ぼうとローズが声をかけたところで

「エルサ!」

中庭の入り口から名前を呼ばれた。



そこに立っていたのは、先日婚約者となった王太子ウィリアム。

先程王妃ローズが「あの子」と呼んでいた人物である。


大変整った顔で、一見冷たそうにも見えるが、エルサと目が合うと輝くような金の瞳に優しさがあふれ、嬉しそうに駆け寄ってきた。


「母上、王太子妃教育の時間は終わっていますよ。エルサを連れ出しても構いませんよね?」


当然とばかりにエルサとローズの間に割り込んで立つウィリアムに、ローズは大げさに残念そうなため息をついた。


「まぁ、今からは母子での語らいの時間にしようと思ったのに」

「母子って…王族にそんな習慣ありませんよ」

「あら。あなたが小さい頃、王宮のお化けが怖いって泣いて縋ってきて、一晩中語ってあげたの。覚えてない?」

「…思い出しました。世に蔓延る心霊現象について、十分な睡眠が必要な5歳の私に延々と科学的に説明してくださいましたね」

エルサの肩に手を起きながら、片手で額を押さえ眉間にシワを寄せるウィリアム。反対に、王妃はとても楽しそうだ。


「ふふっ可愛かったのよ。家具の影に怯えるこの子は」

「…5歳ですし。こちらには事情もあったんです…って、とにかく、語らいは明日にしてください。今日はエルサのドレスを二人で選ぶと伝えていたでしょう」

「そうだったわね。マリーナ達の歓迎会のだったかしら。帝国語も問題ないし、ウィリアムにこんな素敵な婚約者ができたと知ったら驚くわよ。エルサさん、ウィリアムの予算から思いっきり素敵なドレスを作りなさいね」

「当たり前です。婚約者として初の公務ですから。本当は早く結婚してエルサの着る服全てを私が選びたいくらいです」

「!?」


この二人は、いつも美しい笑顔を張り付けたままテンポよく不穏な会話をする。

お互い信頼しているのはわかっていても、エルサはハラハラしてしまう。

しかも最後の一言は一体…?


「さ、行こうか」

そう言って大事そうにエルサの手をとり、挨拶をして去って行く二人の後ろ姿は非のつけどころがないほど優雅だ。


が、


「はぁ…私の息子はいつの間にあんな執着王子になったのかしら」

と呟かれた言葉に、周りの使用人達もそっと頷いた。




ウィリアムは小さい頃から、本当の意味で人に心を許すことはなかった。

彼特有の能力のせいもあり常に壁を作っていて、親である自分と夫は愛情をもって育てたつもりだが、王族というのもあって、裏表が視える彼は、親だとしても信用するのが怖かったのかもしれない。

そのせいか物心ついた時から人前で王太子の仮面が外れたことはなかった。



エルサに出会うまではー



エルサに見せる表情や、心を開いているからこその執着に、母としては今まで寂しい想いをさせた後ろめたさと、そんな相手ができたことへの喜びを感じる。


「まぁ、エルサさんは大変でしょうけど」





お読み下さりありがとうございます。


ウィリアムが、クールイケメンから執着イケメンに変貌してしまいました…。

がっかりさせてしまったらごめんなさい。

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