表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/87

プロポーズは突然に



「エルサ嬢、私と踊っていただけませんか?」


まっすぐな金の瞳に王宮の夜会を思い出す。


あのときと同じ整った顔。

でも、あのときよりもずっと、エルサのことを想ってくれてるのが分かる。

王太子の顔をしている時とはまるで表情の違う、柔らかい視線。


そして自分も…


「はい、喜んで」


微笑むエルサは、とても優雅で美しい。


ウィリアムの行き先を見守っていた人々はその仕草に見惚れる。


さらにウィリアムの手をとった瞬間、王太子に並び立つものとしての気高さが溢れ、同時にその笑顔は花のように周りの人々の心を癒した。


蕩けるような瞳でエルサを見つめつつも、その腕で器用にエルサに見惚れる男達からエルサを隠し、ウィリアムはダンスを始める。


「見せびらかしたいような隠しておきたいような…」

小さく呟かれた声に顔をあげると、いつかと同じ、照れたような嬉しそうな顔がそこにはあった。


すっかり二人の世界に入っていたが、王太子が踊り出したのだ。気を使って楽しめないのではと、はっとして周りを見ると、リヒトとオレリア、ダニエルとイリス、それに多くのカップルが踊っている。


周りが楽しそうに踊っているのをみて、エルサも安堵した。



実はエルサ達が踊り始めたときは二人だけだった。気を使ったのではなく単純に見惚れてしまい動き出せなかったのだ。


だが、

「さあ! ソフィア、わたしたちもおどろう」

そういってシリウスがソフィアの手をとり、フロアに出たことをきっかけに、次々とカップルが踊りだし、とても華やかな雰囲気となったのだ。



「年末の夜会を思い出しますね。あの時はとても驚きましたわ」

ウィリアムの顔を見ながらエルサは思い出す。


「そうだな、私も驚かされたよ。まさかテラスから帰ろうとするなんて、…っくく」

「え? 帰る?」

「あ、いや、テラスから飛び降りるかと思って捕まえたんだったな」

「あぁ、そうでしたわね。先に驚かせてしまったのは私でしたわ」

「エルサにはそのあともたくさん驚かされたな。カラの魔石に、車椅子。驚きだけではない、私の心を動かすのはエルサだけだ」

「リアム様。私もいただくお手紙やお花に心を動かされています。それに新年の花火もとても感動しましたわ」

「私のせいで年末からの短い時間に、忙しくさせてしまってすまないな」

今までエルサが、マイペースに好きなことをして過ごしていたことを考えると、ウィリアムには後ろめたさがある。


「ふふ、毎日充実しております。リアム様、私、退屈なのは苦手でしてよ」

エルサの答えにウィリアムの笑みも増す。

「そうか。それならこれからも退屈させないよう努力する」

「私も、これからも驚かせたいところですわ」


エルサのいたずらっぽい表情に、思わず踊っていたウィリアムはエルサのウエストを持ち上げターンする。

「っきゃ! リアム様!」

「努力すると言っただろう?」

「もうっ! そういう意味ではありません」

急に持ち上げられ驚くエルサだったが、嬉しそうなウィリアムの笑顔につられ、二人で笑ってしまう。


そして、もちろん一曲でウィリアムが離すはずがなかった。

エルサも今回は最初から予想していたので、驚きはしない。


二曲以上は恋人や婚約者としか踊らないことは今ではウィリアムも分かっているだろう。

それでも最近はエルサへの行動を隠すこともしておらず、なんだか周りにも温かい目で見られてる気がする。


曲も終盤となり、名残惜しい気持ちでエルサが話す。

「ふふっ。リアム様は踊るのが好きなんですね」

「あぁ。私も知らなかったよ。好きな人と踊ることがこんなにも楽しくて幸せだなんてね」

「好き…え? いま」

好きな人って言った…?


エルサが戸惑っているうちに曲が終わる。


だが、次の曲が始まるわけでもなく、ウィリアムはエルサの腰を抱いたままフロアの真ん中にエスコートした。


見渡せば、近くには両親がおり、周りの客も見守っている。


あれ? これは…?


気がつけばウィリアムに手を取られ、向かい合う形となっていた。


すっと、ウィリアムの姿勢が下がり、エルサは息をのむ。


「エルサ・プリマヴェラ。貴方を心から愛している。どうか私の妃になってください」


跪いてエルサを見上げるウィリアムは、いつもの無表情王子でも、物語にでてくるお綺麗な王子でもなく、とてつもなく美形ではあるが、真剣に相手を想う青年だった。


ウィリアムがエルサを愛していると言った言葉が、じわじわと効いてくる。


エルサにもう迷いはない。

「っはい…私もウィリアム・フレーメ様をお慕いしております」


エルサが応えた瞬間その手をとり、甲に口づけをする。

いつもは感情を映さず冷たく光る金の瞳に、喜びと優しさ見えた。



会場では突然のプロポーズに、二人を囲んで拍手が起こった。

王宮や議会での王太子ウィリアムを知っている貴族達は、優秀ではあるが感情がなく距離をとらざるを得なかった未来の王に、人を想う心があることを知り、明るい国の未来を嬉しく思った。そして、それを教えてくれたエルサに膝をつきたくなった。



ウィリアムはエルサとダンスを踊ったあとエルサにプロポーズすることをあらかじめ父シリウスに伝えていたらしい。


苦い顔をしながらも、二人の間に愛があり、ウィリアムに望まれて嫁ぐのだと、一番分かりやすい方法で周知させることができたと自分を納得させた。

すべてはエルサのためだ。



そして狙い通り、このプロポーズはすぐに広まり、正式な発表前に知れ渡ることとなった。



お読みいただきありがとうございます。

お気持ち程度に、評価ボタンを押していただけると嬉しいです。


お時間ありましたらこちらもどうぞ。

「婚約者が運命の恋を仕掛けてきます」

https://ncode.syosetu.com/n1347gx/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ