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プリマヴェラ侯爵家の夜会

300ポイント!

ありがとうございます!



屋敷中に飾られた花と、魔石によるキラキラとした明かりが華やかな屋敷をさらに引き立たせている。

今日はプリマヴェラ侯爵家の夜会の日である。


この日のために招待客の整理や飾り付け、料理、音楽など様々な準備がなされた。

年が明け、エルサが成人して初めての夜会開催なので、エルサもソフィアに習って本格的に主催者の一員として準備に奔走し、この数日はあっという間だった。



夜会の会場に入るとまず目を引くのが、大きなタペストリー。そこにはプリマヴェラ家の紋章が見事に刺繍されている。視線を下ろせば、クリスタルの鉢に入れられた、色とりどりのエルサのフルルが並び、どこを見ても感嘆のため息が出る。


「ほう、これはすばらしい」

「見事な刺繍。さすがソフィア様ですわね」


「まぁ! 噂のフルルですね。大きさや色だけでなく、効能も違うって聞きましたわ」

「うちの屋敷でも最近はハーブ風呂やフルルを浮かべて楽しんでいますの。特別な日になりますでしょ」

「あの青いフルルはどんな香りなのかしら」

夜会はただお喋りするだけの場ではない。

情報交換や、商売、出会いなど様々な目的がある。


満足そうな招待客を見て、エルサはほっと息をつく。やはり主催者としては、ただ楽しい宴では成功とは言えないのだ。家の格を高め、好意をもってもらうことが重要であると母から学んだ。

エルサの表情や仕草ひとつとて、成人後の社交場では気を抜けない。


そんな今日のエルサのドレスはウィリアムが贈ってくれたもの。

ウィリアムは遅れてくると聞いているが、ドレスには金の飾りと真珠が散らばっていて、同じデザインの飾りがついたチョーカーを首に巻く。

エルサの美しさと儚げさ、気品をうまく出している逸品だ。


なにより

王太子の執着があらわれている…


と、家族は思う。


今のところそれに触れる客はいないが、おそらく周りも気づいているだろう。


王宮での夜会以来、ウィリアムとエルサの噂は絶えない。

ウィリアムに隠すつもりがないので、外での目撃やプリマヴェラ邸への訪問など、まさに火のあるところに煙が立っている。

それもあってかなり厳選したものの、例年より多くの参加者が集まっている。


「プリマヴェラ侯爵、ご招待ありがとうございます」

伯爵以下の貴族達が挨拶に来たあと、辺境伯爵と、ドリス、イリスが来場した。

今日は3人とも王都のサロンで仕立てた軽やかな正装に身を包んでいる。

筋肉質だがスタイルがいいので何を着ても様になっているなぁとエルサは感心する。

「ようこそ、スクード辺境伯」

「エルサがご令嬢方と仲良くしているようで。辺境の話も聞かせてもらっていますわ」

父シリウスが固い握手をし、母ソフィアが優雅に微笑む。

「こちらこそ。王都に慣れてほしいと思いながらも、私一人では連れ出せる場所も限られるので、ありがたいかぎりです」


親同士が話す横で、エルサとドリス、イリスも話をする。

「エルサ様の今日のドレスも素敵ですわ」

「もしかして、殿下から贈られたんですか?」

「えぇ。誉めていただき嬉しいです。ドリス様、イリス様も、よくお似合いですわ」

「ふふっやっぱりそう思いましたわ。よければまた、お話聞かせてくださいね」

「このドレス、とっても軽くて。何曲でも踊れそうです」

嬉しそうなイリスに「ダンスは一人一曲ですよ」と、嗜めるドリス。

エルサは王宮でのウィリアムとのダンスを思いだし苦笑するしかない。


そこへ、車椅子に座ったナタリアが、ガッシュに押されてサロンに入る。ダニエルとオレリアも一緒だ。

他家の夜会にはめったに姿を見せず、王宮に上がるときもガッシュに抱えられていることの多いナタリアが、今日は見慣れぬ乗り物に座っての登場に視線が集まる。


「ガッシュ、ナタリア、ようこそ」

「シリウス、ソフィア、ご招待ありがとう」

お互い抱き合って挨拶する。


ごく親しい者同士の挨拶だが、今まではナタリアはガッシュに抱えられているのでできなかったのだ。


エルサ達も挨拶を交わしいよいよ宴が始まる。



「本日はようこそ。春の花に乾杯!」

もちろん乾杯はプリマヴェラ産のワインだ。

挨拶とともに音楽が流れ、話に興じるもの、ダンスを楽しむもの、ワインやフルルなど、特産品について会場に立つ侍従に訊ねる者、過ごし方は様々だ。


ソフィアとナタリアの周りにはさっそく人が集まっている。

「ナタリア様、お久しぶりです。今日のドレスはとっても素敵ですが、さらにその素敵な乗り物はなんですの? 初めて見ましたわ」

「椅子になっていますわよね?」

「うふふ。これはね、車椅子というのよ。エルサ嬢が私のような者のためにと考えてくれたの」


「まぁ、エルサ様が?」

そこで近くにいたエルサに視線が集まる。

「アイデアだけですわ。リヒトや抱えの商会の力も借りましたし」

ここは謙遜しすぎてもいけない。

優雅に微笑みプリマヴェラ家の功績として話す。

「賑わった夜会でも小回りがきくし、男手に頼まなくても、ほら、オレリアでも動かせるからいろいろと、とても助かるのよ」

「今日のナタリアはいつにもまして元気ねぇ。若い頃を思い出すわ」

「家督を譲った夫の父にも勧めたいわ。販売してくださらないかしら。体力が落ちてあまり出歩けなくなって、部屋にこもってばかりだから心配なのよ」

女性達の話は止まらない。



最初はガッシュが車椅子の持ち手を握っていたが、いよいよ女性が集まってくるとオレリアが押手を代わった。これも今までならできなかっただろう。


久々のナタリアの登場に、ソフィアとナタリアの昔からの知り合いはとても嬉しそうだ。


会場を見渡すと、男性陣も父シリウスやガッシュ、ダニエルにリヒトがそれぞれ会話のなかで車椅子の功績を広めてくれていた。

担当の商会もフルルへの前向きな質問が続いているらしく、ホクホク顔だ。


おそらくエルサと王太子のことも聞きたいのだろうが、そこは上位貴族達。

こちらも鉄壁の笑顔で相手に下手な質問はさせないすべは持っている。


エルサも挨拶をしながらフルルとワイン、車椅子の宣伝にと忙しい時間を過ごした。


前半の音楽が終わる頃、会場入り口から、新たな招待客が入るベルが鳴らされる。

王宮の夜会と違い、入場の度に家名を呼ばれることはないが、防犯と新客の顔見せのため、侍従が合図のベルを鳴らすことになっている。


途中参加はマナー違反ではないものの、侯爵家の夜会で遅れてくる者などめったにないので、会場の出席者達は誰だろうと扉を見た。



家令がドアを開け、そこへ颯爽と入場したのは護衛1人と側近のニースを伴ったウィリアム。


王宮の夜会で顔を見ているものの、もし知らなくともその美しい金の瞳と風格は人並みを外れるものがあり、近くにいるものは慌てて腰を折り頭を下げる。


すぐに気づいたシリウスとソフィアが挨拶に向かった。

「遅くなってしまってすまない、侯爵。約束通り執務はすべて終わらせてきた」

とシリウスに話しているのが聞こえる。

「おやおや。遅れてくることは知っておりましたのでお気になさらず。むしろずいぶん早かったですね」

相変わらず読めない表情だが、王太子の機嫌は悪くなさそうだ。それに反比例し、シリウスの苦々しそうな顔。

まだなにか話しているが、声を押さえているため聞こえない。ただ、シリウスの表情の苦味が追加されているのが分かるように。


もしや少しでも王太子が来るのが遅れるように謀ってきたのでは…?


ちょうど音楽も終わり、会場の雰囲気を壊さない程度に見守っていた人々の心の声が一致する。


「プリマヴェラ家の夜会を楽しませてもらうよ」

話が終わったのか、近くの侍従からワインを受け取り自然に手をあげれば、会場の参加者達も合わせてグラスを掲げた。


「…ただ、美しいだけでなく、カリスマな雰囲気も持ち合わせていますわね。恐ろしや」

一瞬で会場の雰囲気を味方につけたウィリアムに、近くにいたオレリアが呟く。



その後さっそく高位貴族が挨拶に行く。

議会など仕事場で顔を会わせるものの、王宮の夜会以降社交場には顔を出していない。


表情は読めないが、自分達をアピールするなら今だろう、と。

しかし囲まれるにつれウィリアムの温度が下がっていくように感じるのは気のせいだろうか。

普通に挨拶を受けているようにも感じるのだが…


「ところで、王宮以外の夜会に出席されるなんて初めてではないですか? 本日はどうして」

ちょうど挨拶をしていた伯爵の質問に、ウィリアムは口角をあげた。


「それは、大切な人に想いを告げにね」


その場にいる人にだけ聞こえる声でささやく。


ワインを一口飲んで満足そうにグラスを見つめたあと、あまりの色気に男女問わず周りが固まっている隙に、ウィリアムはきらびやかな会場や、熱視線を送る華やかな女達に視線を向けることなくまっすぐにエルサのそばに歩いてきた。



お読みいただきありがとうございます。

お気持ち程度に、評価ボタンを押していただけると嬉しいです。


お時間ありましたらこちらもどうぞ。

「婚約者が運命の恋を仕掛けてきます」

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