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家族団らん

妄想につながるエルサの気持ちだけ()内に書いてます。




「夜会ですか?」



エルサ達家族が、王都の屋敷へ移動して数日後、再会時はげっそりしていた父だったが、すっかり元気を取り戻し、晩餐を楽しむ。


「そう。王宮でうちのワインの話をしたら、本格的に夜会が増える前に買い付けてもらってはどうかと、ヤシール公爵がおっしゃってね。

だから夜会というよりは、仲間内の試飲会みたいなものだよ」



(…試飲会、ワイン好きな方々の集まり!)


普段は気品ある微笑みを絶やさない、高貴な紳士淑女達が、プリマヴェラ領自慢のワイン樽の中で、マッチョ小人たちと一緒になって無邪気に騒いだり泳いだり飲んだり。むふふ


もちろんエルサの妄想である。

さすがのエルサも貴族達がそんなことをしないと分かっている。


貴族でなくともしない(できない)が。


そんな妄想をしているとも知れず、エルサの嬉しそうな顔を見た父シリウスは「エルサたん」と、目尻を下げ上機嫌に話を続ける。


「ヤシール公爵邸のサロンでぜひにとおっしゃってくださってるから、エルサとリヒトもしっかり魅力をアピールしてね。ま、うちの子達なら居てくれるだけで皆を虜にするだろうけど」


「お父様、試飲会素敵ですわ!

きっと皆さま我が領のワインの虜になって、年末年始のお祝いに欠かせないものとなるでしょう。まさにワインに溺れる、ふふふっ」


父娘それぞれに別の思いに浸っている様子に、母ソフィアとリヒトは目を合わせて苦笑する。


「姉上、新年の祝いにふさわしいラベルを商会に提案しましょう」


リヒトが姉を引き戻し、姉弟であれこれとラベルデザインの意見を出しあう。


「伝えるのはワインの魅力だけだよ。

リヒト、しっかりエルサを守るんだぞ」


子供達の会話を楽しそうに聞いていたシリウスが、リヒトに注意する。


「そうね。エルサは少し抜けてるところがあるから、私達もいくけど、リヒトよろしくね」


母ソフィアも姉のエルサではなくリヒトに言い聞かせる。


「もちろん。姉上は端から見れば、儚げなご令嬢だからね。利益目的に近づく貴族もいるだろうし。姉上の手は離さないよ」


家族3人からこの言われよう。

エルサは静かにカトラリーを置いて答える。


「…レッスンの先生にも、貴族会話やマナーは合格点をいただいています。美味しいワインが広まれば、つられて王都の食の質も上がるはず。楽しみが増えるわ。みんな心配してくれるのは嬉しいけど、私もしっかり頑張るつもりよ」



実はワインの品質向上に大きく貢献したエルサだが、自分達だけが豊かになることよりも、社会全体で楽しみを共有したいと話す。


リヒトはそんな姉を見ながら、自分がしっかりしなければと、再度心の中で誓う。




そもそも領地のワイン改革は、当時10才だった姉が、父と視察で葡萄畑を訪れた際に、等間隔に植えられ整備された木々を見て、「こんなに広く綺麗に剪定できるなら、隙間を埋めて木の迷路を楽しみたいわ」と呟いたことがきっかけだった。


ちなみにその時のエルサの頭のなかでは、葡萄畑の迷路から抜け出せなくなって、満点の星空のもと寝袋で夜を明かす、という妄想が広がっていたことは誰も知らない。



娘に甘い侯爵は、驚かせようと畑の一区画(といってもかなり広大な土地)を本当に葡萄の木の迷路にしてしまったのである。


まだワインの飲めなかったエルサは、完成した迷路でリヒトと何度も遊んで喜んだが、本当に驚いたのはその後の大人達だった。


領主の娘であるエルサが遊んでいるうちに、葡萄の汁でドレスが汚れてはいけないと、畑の管理を任されている農民達は早朝のうちに葡萄を摘んだ。


その結果、朝の気温の低いうちに摘んだ葡萄は、保管時の鮮度が格段に良くなり、今までにない、香りのよいワインが出来上がった。

次の年からは、他の畑でも早朝に葡萄を摘むようになり、領地全体のワインの質が上がったのである。

 

その中でも、「エルサの迷路」でとれる葡萄は年々味が良くなっていった。


領主であるシリウスが、専門家チームを作り検証させたところ、密集した迷路の葡萄の木は、互いに養分を取り合うため根が深くなり、味が凝縮され深みが出るのではないか、との結論に至った。

これは、貴族が好むような、整然とした今までの葡萄畑の常識からは考えられない答えだったが、シリウスはすぐに領地全体に広め、推進した。


そしてついに今年、これまでにない深い味わいと、香りのあるワインが完成したのである。




嬉しそうに、試飲会に思いを馳せる姉を見ながらリヒトは小さく息をはく。


「まったく姉上は」


姉はたしかに侯爵令嬢として、教養やマナーは完璧だし、外では案外しっかりしている。


ただ、ほんのたまに自分の考えに没頭し、気の抜けた隙のある表情になる。

父母弟にとってそれは、家族しか見れない特権だ。他の人に見せたくない。

ただでさえ美しく憧れの的である姉に、これ以上の価値は不要なのだ。


数多くある縁談の話も、父が、「娘が18の成人になるまでは受けるつもりはない」とすべて留めてきた。


エルサはプリマヴェラ家にとっては、生み出す利益など関係なく、大切な大切な家族なのである。




お読みいただきありがとうございます。

お気持ち程度に、評価ボタンを押していただけると嬉しいです。


お時間ありましたらこちらもどうぞ。

「婚約者が運命の恋を仕掛けてきます」

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