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緊急会議 …閑話

読んでくださる皆様、本当にありがとうございます!

本日は息抜き回です。




ある日の夕刻、それはそれは大きな屋敷の一室に3人の男女が集まった。


本来なら豪華な装飾や華やかなタペストリーに囲まれて優雅なひとときを味わえるが、今はキャンドルの明かりのみに照らされていて、何とも言えない雰囲気を醸し出している。


3人は手を広げてもお互いが触れぬほど広いテーブルを囲み、この会のスタートの鍵を握る人物を待つ。


それぞれの表情はバラバラだ。


あるものは絶望を瞳ににじませ、

あるものは優しさを瞳にうつし、

あるものは諦めと哀れみを瞳に宿し。


カチャリ、と扉が開き、最後の1名が到着し席についた。


おもむろに男が立ち上がり宣言する。



「只今より、第一回エルサの幸せを願う会議を始める! プリマヴェラ家主催だが、オブザーバーとして、エルサの友人オレリアの出席を認める」


腹の底から絞り出されるようなシリウスの声により、それは始まった。


「そして追加情報として、先ほど王家より正式に婚約の打診があった。エルサも承諾しているとのことだ…」


認めたくない気持ちを全面に出しつつ、力なく言葉を繋ぎ、椅子に座る。



「オブザーバーとしての参加を認めてくださりありがとうございます。エルサ様が入浴されている1時間が勝負です。よろしくお願いいたします」

重い空気が漂うなか、1人明るい声で挨拶するのは最後に現れたエルサの友人、オレリアである。



「はい!」

最初に勢いよく手をあげたのは母ソフィア。


「先日の王宮でのお茶会は、晩餐で話した通りよ。王妃様も参加した夫人方も、エルサの気持ちを尊重しつつウィリアム殿下のお相手として応援してくれているわ」


「ぐっ…」

いきなり父に20のダメージ。


「普段話させていただく限り、王太子殿下の誠実な対応は好感が持てるね。王宮での噂も優秀だとか真面目だとか。表情が読めなくて、冷たいという人もいるけど、夜会での姉上への態度を見ていたら、むしろ誰にでも愛想良くするよりいいんじゃないかな」

リヒトが続ける。


「ぐはっ」

父に10のダメージ。


「王宮の中庭での様子を話してくれた時のエルサ様の顔は、本っっ当に可愛かったです! 天使が目の前にいるのかと思い、思わず抱きついてしまいました。寂しいですが、あれは恋する乙女ですわ」


「ぅうぐぅ…」

父に50のダメージ。



「とはいえ、王族に嫁ぐというのは予想外よね。我が家は十分豊かだし、変な野心はなかったもの。このタイミングで婚約の発表がされたら、狙っていたと思われても仕方がないわね」

ここでソフィアによるフォローが入る。

父に20の回復効果。


「そ、そうだろう! 王族になるには、きっと計り知れない重責もあるだろうしな…急ぐことはない」


ソフィアに食い気味で乗っかるシリウス。


「とはいえ、プリマヴェラ家以外の3侯爵が納得していたら、誰も文句は言えないと思いますよぉ」

持ち直したシリウスに止めを刺しに来るオレリア。


さらにリヒトが鋭い角度から斬り込む。


「ところで父上、そろそろ姉上は成人ですが、本当は縁談はどうするつもりだったんですか? まさか姉上に任せたまま決めず、領地運営を手伝って一緒に過ごしていこうなんて思ってなかったですよね」


「ソンナコトハナイゾ、ムスコヨ」

「…。」


他の3人からじとりと見つめられ、

侯爵の額が汗で光る。


「まぁ、僕も姉上にとっていい人がいなければ、無理に決めずに領地を一緒に支えてもらってもいいかなとは思っていましたけどね」


「リヒト! お前がそう思ってくれてたなんて。さっそくエルサに伝えてこよう!」


立ち上がりかける父を息子が止める。


「いい人がいなければ、ですよ。実際のところ、夜会やお茶会で今までそういうことはなかったんですか? あれだけの優良物件、父上が止めていたとしても、アプローチされていたのは知っていますよ。」


「まぁ、かなりの数お手紙は貰ってるわね。きっとどなたに嫁いでも、幸せにしてくれると思うわよ」


「…んな!…んな!」

別角度からの攻撃に虫の息の父である。


ここにウィリアムがいたら、見事な血溜まりの事件現場を()()ことになるだろう。


そこでオレリアが手をあげる。

「はい! でもエルサ様は以前『みんな侯爵家だから気を使ってたくさん誉めてはくれるけど、結婚は好きになった人とするものでしょう。そもそも友人の好きと恋人の好きはどう違うのかしら』とおっしゃっていました」


オレリアの発言を聞き、一同唖然とする。


「…エルサたん、そんなまさか!!」

「…さすがに子息達がかわいそうだ」

「…あの子は本当に行き遅れるところだったのね」


あまりの鈍さに、それぞれ感想を口にする。


「それから、『もしも愛せる人が出来なければ、お父様に決めていただくつもりよ。お父様の人を見る目は確かですもの』ともおっしゃっていました」


にこりとオレリアが付け加える。


「エルサたん!!!」


ばしっと机を叩き目を潤ませながら立ち上がる。

父、昇天。


そんなシリウスを無視してソフィアが続ける。

「エルサは殿下のことをお支えしたいと言っていたわね。ただ、中途半端な気持ちで結婚を決めることに戸惑っているようにも見えたわ」


「エルサたん…」


「姉上は変なところで真面目ですからね。殿下のあの表情を見ても落ちないなんて。今まであまり人やモノに執着しなかったから、自分の感情に疎いのでは」

「エルサたん…」

「エルサ様、他の人の機微には鋭いのに。でもあの顔はどう見ても、王太子殿下の事が気になっていると思うのですけど…」

「エ、エルサた…ん」


リヒトとオレリアから見ても、箱入りのエルサは恋愛には疎そうだ。


「まぁもう本人が返事をした上での打診だから断れないわね。そういえば私もシリウスと結婚したときは、最初は不安だったわぁ。今と違ってクールな態度だったから」

不意に話題を変えたソフィアに、リヒトとオレリアは信じられない目で見る。

「まさか、父上が?」

「あら、おじ様が?」


「ソフィアにもっと惚れてほしくて」 ぽっ


「まったく伝わらなくて、なんでプロポーズされたんだろうって思ったくらいよ。今は重いほどに愛を感じるけどね。最初からお互い熱烈に愛し合って結婚する夫婦ばかりじゃないし、穏やかな関係があってもいいと思うのよね。まぁ、あの王太子殿下の態度では穏やかな時間は短いと思うけど。王族がお相手だから、気軽にお付き合いとはいかないけれど、これからの二人を見守って、何かあれば私たちで助けましょう」

「そうだね。あの王太子殿下なら姉上を上手いこと幸せにしてくれそうだし」

「私も寂しいですがエルサ様を見守ります。でも何かあれば力尽くでも奪い返しますわよ! リヒト様、情報の共有お願いしますね!」

ソフィア、リヒト、オレリアがエルサの気持ちを考えつつそれぞれ意見を言い合う。


そんな3人を見て

「私もエルサが幸せになるなら、

あとは王太子を鍛えるのみ」

と、シリウスもそっと呟いた。



こうして、第一回エルサの幸せを願う会議は幕を閉じた。



…はたして第二回はあるのか



__________________


脱衣所にて


「っくしゅん」

「エルサ様、お風呂上がりにくしゃみなんて。もう一度しっかり浸かられては?」

「うーん、ちゃんと温まったつもりなのに。オレリアを待たせちゃ悪いから急いだせいかしら」

「オレリア様は、先ほど入られたばかりですよ」

「あら、そうなのね。一緒に部屋を出たと思ったのに、何かあったのかしら。じゃあオレリアが出るまでもう少しだけ。新しいハーブも試しちゃいましょう、ふふ」



お泊まり会でご機嫌なエルサ



お読みいただきありがとうございます。

お気持ち程度に、評価ボタンを押していただけると嬉しいです。


お時間ありましたらこちらもどうぞ。

「婚約者が運命の恋を仕掛けてきます」

https://ncode.syosetu.com/n1347gx/

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