弟の苦悩 …sideリヒト
読んでくださる皆様、本当にありがとうございます!
本日は息抜き回です。
僕はリヒト・プリマヴェラ。
フレーメ王国の侯爵家長男15歳。
昨年準成人となったので、父について王宮での仕事や侯爵としての仕事を少しずつ学び始めたところだ。
フレーメ国は、嫡男の長男が爵位を継ぐと決まっているので、学ぶことは義務ではあるが、家のために、領のためになると思うと積極的に学びたいと思うし、充実した毎日を送っている。
家では家族に甘えて、目尻の下がった姿しか印象がない父だが、王宮では全く別の顔を持っていて、国の害になる不正は見逃さないが、
逆に国の為なることなら多少の無茶はするところなんかは少し尊敬している。
たまにやり過ぎるところがあり、大臣や高位貴族達にも恐れられているようだ。
僕自身は、目立つつもりはなくとも、父について出仕を始めればそれなりに注目を集めるらしい。
必要以上にすり寄ろうとする者や、挙げ足を取ろうとする者には、僕がどんな人物か分かってもらうために、それなりの対応をしてきた。
高位貴族の中には僕の事を、
妖精の皮を被った悪魔と呼ぶ者もいるらしい。
なんだそれ。
そんな僕には同じ妖精でも、
花の妖精と呼ばれる家族がいる。
2つ歳上の姉エルサ。
弟の僕からみても儚げな女性らしい雰囲気で、貴族としての美しい微笑みは高貴な花のようだと思う。幼い頃から淑女教育だけでなく、家庭教師に学問も徹底的に教え込まれ、美と知性を兼ね備えた、子息令嬢憧れの的である。
そんな姉だが、昔からたまに家族を驚かせる。
お忍びで街に出て商家とのコネを独自に作ってきたり、突飛な発言で領地の産業を発展させたり。
興味があることにはとことん突き進む。
それに、家族以外にはバレていないだろうが、ふいに隙のある抜けた顔をしたかと思ったら、貴族としてはあり得ない、子供のような明るい笑顔になったり。何を考えているのかは弟の僕にも分からない。
だから姉といえど、手を焼かずにはいられない。
そして最近。
僕はその姉のことで頭を悩ませている。
一体どこで目をつけられたのか、この国の王太子に興味を持たれてしまったらしい。
王宮での仕事中、父の代わりに書類を届けにいった日、初めて挨拶をした僕は、殿下に話しかけられた。
聞いていた噂と違い、初見の人間とも話すんだなと緊張しながら答えれば、その目は自身を見定められているような何とも言えない気持ちになってくる。
気を抜くと余計なことまで話してしまいそうだ。
打ち解けた雰囲気はなかったはずだが、その後も王宮で会うたびに少しずつ話しかけられるようになった。
最初は僕が侯爵家長男であり、大臣の息子だから探られているのかと思ったが、姉の婚約者の確認、父の縁談に対する方針を聞かれているうちに、王太子の興味が姉にある気がしてきた。
僕を通して姉の事を知りたがる貴族の対応には慣れているが、さすがに帰国したばかりの王太子への対応は分からない。
最近、父が姉に進められてハマっているハーブ風呂について話が及んだときは、父の方から姉を売り込んだのではとまで疑った。
まさか娘大好きなあの父でも、権力のために縁談を持ちかける事があるのだろうか。
しかし先日、帰り際に手渡された袋を屋敷の自室でそっと開けてみて、王太子に対しては大変不敬ながら、同じ男として気持ちが分かってしまった気がする。
「姉君への贈り物に。僕からということは直接伝えるから、まだ内緒でね」
そういって笑った顔には僕までドキリとさせられたものだ。
受け取った袋の中には、
金のリボンが入っていた。
長い髪を結わえるのに、明るい色のリボンは気軽な贈り物として一般的だ。
しかし、よく見ると緻密な刺繍が縁取りされ、所々透かしのような細工までされたこれは、たまに姉に連れていかれる町の雑貨屋には絶対にない。
明かりによって優しく煌めく金の色は、思わず王宮で見た人物を思い出させる。
考えたくないがこの色は意味深である。
両親に話すと大事になりそうだし、姉に直接渡すには高価すぎる。
考えた結果、姉の事を第一に考える侍女に、年末の夜会にでも合わせたらどうかとそっと渡した。
王太子がどういう人物かまだ読めない限り、僕は姉の幸せを優先する。
とはいえ、これくらいなら同じ男としていいだろうか。
直感としか言えないが、僕から見た王太子はけして軽い気持ちで姉に接する人ではないと思ったから。
夜会で姉を一人にして飲み物を取りに行く際、彼の側近につかまってつい話し込んでしまった隙に、エスコートしてダンスをするという行動力には驚いた。
挨拶の時見た、隙の無さそうな王太子の顔と全然違うじゃないか!
家族だけに分かる、戸惑った笑顔をしている姉のフォローに入ろうかと様子を伺ったが、姉はさすがと言うべきか、すぐに切り替えて王太子との会話を楽しみだしたようだ。
我が姉ながら、相手が王太子と分かっているんだろうか。
しかし2曲目が始まると、視界の端に貼りつけた笑顔の父が見えた。
しまった。
あのリボンも偶然のコーディネートとは思えない。冷や汗が伝う。
2曲はまずい。2曲は。
このままでは姉の気持ちを優先する前に外堀が埋められてしまう。
踊り終えた姉を回収し、帰宅した。
あとは父がなんとかしてくれるだろう。
翌朝、新年最初の食卓は、我が家では稀にみる静かなものだった。
おもえば父が若いご令嬢に言い寄られて、傷つけず他の男を紹介するために、母に相談なく騎士の訓練所の見学に付き添った事が発覚して以来だ…。
うん。あれは誤解とはいえ、修羅場だったな。
遠くへ気を逸らしていると、
「うぉっほん」わざとらしい父の咳から会話が始まった。
話してみれば姉は、王太子の行動に深い意味はないと、落ち着いていた。
帰りの馬車の中では、混乱して動揺していたようだが、侯爵家の役割であるということと、王太子が国を離れていたということから、一番穏便な方法で自分を納得させたようだ。
まぁ家族は誰も納得していないけどね。
食事を終えて図書室に向かえば、新年の休息日から本をテーブルに積んで難しい顔をする姉がいた。
きっともう国一番の男性とのロマンスは忘れて、領地の事を考えているんだろう。
王太子殿下、うちの姉は手強いですよ。
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