カジノへようこそ
ギャンブルで勝つにはどうすればいいかって?
必勝法があれば誰でもやっている。要は確率論だ。
何か仕込めば別だが。とにかく自分を信じないことだ。
(ここがカジノというやつですか……)
ここはカジノ・グリュック・レーベン。
フラットはカジノに来るのは初めてであった。
最も大陸にもこのような施設はあまりないため、
存在すら知らない人も多い。
他の建物と違い、室内に電気による照明があった。
電気自体は自家発電で賄っている。
(電気を使用しているのですか……入場料を取るだけはありますね)
「私達この格好でよかったんですか?」
フラットとオージェは仕事着であるマントコート姿であった。
カジノにいる他の客はスーツの者が多く、浮いている。
「いいのよ別に。入場料は払ってるもの、そんな規約はなかったでしょ?」
「まあ、確かに……」
カジノに入るためにはひとり頭で銀貨一〇枚のため、
気軽に入れそうな値段ではない。
フラットは都市に関する本を読み漁ったため、カジノでの基本的な
手順なども把握していた。
「とりあえずゲーム用のチップに替えましょう」
「わかってるじゃない」
「作法だけはつい最近知りましたので……」
換金所にてチップへと交換する。
交換した枚数は金貨一〇枚で赤チップ二枚と黒チップ四〇枚になった。
(結構なレートですね……というか遊びの額でないような……)
金貨一枚で銀貨一〇〇枚の価値がある。
まともに働いていても一ヶ月で銀貨一〇〇枚稼げるかどうかが
普通のため結構な金額である。
(赤は一枚当たり金貨三枚ということは、黒の三〇倍か……)
黒いチップは銀貨一〇枚、赤いチップは金貨三枚で一枚になる。
「さて、どれから遊ぼうかしら?」
そう言って黒チップの四〇枚のチップの入ったカップを手渡された。
「流石に電気式のゲームは無さそうですね……」
「ええ、私の独壇場よ」
「オージェさん、あなたまさか……」
フラットがオージェの顔を覗き込むと案の定、両目を開けていた。
「……あまりやり過ぎないでくださいよ」
周りに聞こえないように小声で喋るフラットであった。
「心配しないで頂戴。しばらくお金には困らなくなる程度よ」
(心配しかない……とりあえず私は適当に負けますかね……)
「じゃあね、チップが無くなったら私のところに来るといいわ」
そうしてオージェはチップ二枚でルーレットに向かった。
オージェが能力でギャンブルをする気満々なので、フラットは
純粋にカジノを楽しむことにする。
(何がいいですかね。アナログなディーラーゲームもいいですが、
まずはスロットで運試しと行きますか)
スロットゾーンに行くとたくさん台が並んでいた。
(台が二種類ありますね。チップによるのですが
もちろん黒いチップしかありません)
そうして適当なスロットに座り、チップを投入する。
真ん中のラインが横に伸びた。
(ここには電気の技術は使われていないのですね。チップ一枚で
ライン一つですか。それにしても、ここは数人しかいませんね)
スロットゾーンはあまり埋まっていなかった。
(縦横斜めにする場合は五枚ですか……
やり過ぎるとすぐ無くなりそうですね)
追加で二枚投入し、上下のラインも横に伸びた。
(レバーを動かしてスタート、と)
カジノゲームの内容も本で把握していたため、やり方は知っていた。
ガコン
スロットが回りだして自動で止まる。
(勝手に止まるので完全に運ですね)
動き始めてから三秒後に止まり始め、五秒後には終わっていた。
斜めに揃っおり、マークはコインのため当たれば一〇枚であった。
「なぜです!?」
(くっ……全ラインにしていれば……)
それからは全ライン投入の五枚ずつで勝負するフラットであった。
二分後。
スロットの上にはアナログカウンターがあり、チップを投入すると
枚数が加算される。そしてスロットで当たった枚数も加算されていく。
現在のフラットのいるスロットのカウンターは一〇枚。
ちなみに手持ちのチップは二枚である。
時々当たっていたが結局減っていた。
(当たっても五枚単位ですし、最後に二枚で回して終わりましょうかね……)
最後にライン二本でレバーを動かした。
指定していない三本目のラインが当たる。
(誰か操作でもしてるんでしょうか……)
フラットは予定通り諦めてカウンターの表示分を払い戻し、
手持ちは黒チップ一〇枚となった。
(これは時間潰せませんね……だから人が少ないんでしょう)
実際スロットは来店時の運試しに試す者がほとんどのため、
長居する者はあまりいなかった。
「次は何をしましょうかね」
ルーレットの方はオージェがいるので避け、カードゾーンに向かった。
オージェは早速当たると大きいルーレットゾーンにいた。
ここはディーラーひとりにつき三人まで相手をするようだ。
オージェの両隣にも常連のような男性がふたり座っていた。
ルールとしては単純で賭けたい条件の場所にチップを置き、
ディーラーがルーレットを回した後に、回転方向と逆にボールを投げ入れるので、
一定時間は場所が変えられる。ディーラーが変更禁止を宣言すると場所が確定し、
ルーレット上に入ったボールの位置で勝ち負けが決まる。
ここのベット上限は赤黒チップどちらも一〇枚までである。
(まずは手持ちを増やそうかしらね)
手始めに配当率の一番低い赤か黒の二倍に赤チップ二枚を賭ける。
「赤」
宣言して赤の場に置いた。
他のふたりは黒チップだったが、もう少し倍率の高いところに置いていた。
「始めます」
ディーラーが宣言すると盤を回し、ボールを投げ入れた。
「確定です」
プレーヤーの変更を打ち止める。
赤の一二に止まった。
「赤の一二、おめでとうございます」
オージェは当然のように当て、二倍の配当となり四枚になった。
「駄目だったか……」
「惜しかった!」
両隣は外したようだ。
その後、当てたり外したりを繰り返し、手持ちが一〇枚となった。
全て赤か黒の配当が低いところのみかけ続けていた。
(そろそろいいかしら)
オージェは手持ちの一〇枚を全て一と二の間に置く。倍率は一八倍である。
「おっ、勝負かい?」
「じゃあ、俺も」
両隣のふたりも一八倍賭けだ。ただし黒チップ一〇枚ずつ。
「始めます」
ディーラーが宣言すると盤を回し、賭け状況を見てからボールを投げ入れた。
(あそこね)
オージェが配置を一九と二二の間に変える。
「変えるのかい?じゃあ、俺も」
隣のひとりがオージェと同じ場所に変えた。
「確定です」
プレーヤーの変更を打ち止める。
オージェの能力は発動し続けており、解析能力は状態だけでなく、
盤の回転とボールの軌道を計算することもしていた。回し始めた後に配置を
変えられるのでいつでも勝つことが可能であったが、勝ちすぎると流石に
怪しまれるため、最後にそれなりの配当を得ることにしていた。
予想通り、黒の二二に止まった。
「黒の二二、おめでとうございます」
「当たった!」
オージェと同じ場所に賭けた男が喜んで叫んだ。
(運がよかったわね)
オージェは配当を受け取り、手持ちは一八〇枚となった。
「ねぇ、ディーラーさん?ここは上限一〇枚なのよね?
大きく賭けれるのってどこになるの?」
「赤のチップでですか?カードブースなら上限は増えます。
ポーカーならレイズすれば更に賭けられます」
「ポーカーね……ありがと」
ディーラーに礼を言うとチップを一枚置き立ち去った。
「あんた、これチップにするのか……」
オージェのおかげで勝った男は驚いていたがルーレットを続けるようだった。
(ポーカーね……勝てないと分かれば降りればいいだけね)
能力を使いカードを透視するつもりであった。
フラットはカードブースでポーカーを選んでいた。
ここも黒チップと赤チップでテーブルが分かれており、
もちろん黒チップのテーブルであった。
(やはり手持ちが少なかったですね……)
テーブルには四人おり、の最低レートは五枚であった。
なんだかんだでみんなレイズするので早々にオールインすることに。
(初めに勝ったせいで抜けづらいですね……)
周りが賭け額を上げ続けたのでしょうがなくオールインしたのだが、
スリーカードで勝ってしまった。
(気持ちの差でしょうかね)
フラットは別に付き合い出来ているようなものなので、負けたら負けたで
気にしないつもりである。そのためか相手に雰囲気で手札を判断されなかった。
(かといって、ルールは知ってますが強くないんですよね)
例によってカジノを調べた時にルールも載っていたため覚えていた。
「レイズ五〇枚」
フラットの隣がレートを上げてきた。
(またですか……)
「コール」
フラットは応じて五〇枚出す。現在の手持ちは一五〇枚ある。
その後、全員コールしたためショーダウンとなる。
(負けましたか……)
フラットの手はツーペアであり、フラッシュの者が勝者となる。
「続けますか?」
ディーラーが継続を確認する。
「もちろん」
「やりますとも」
「次こそ勝ちますよ」
他の三人は即座に返事をしたが、フラットは自分の手持ちを確認し
(一〇〇枚か……なんだかんだ増えましたね)
「あら、増えてるじゃない」
振り向くと同じくカップを抱えたオージェがいた。
ただしチップの色が異なる。
「あ、オージェさん。すみません私は降ります」
フラットは継続を断り席を離れた。忘れずにチップも渡す。
「……オージェさん、大分増えてませんか?」
「何言ってるの?勝負はこれからよ」
(この人控える気ないな……ここから減らすならいいですが)
「私も今からポーカーするつもりなんだけど、ここはレートが低そうね」
「まあ、私がやってたぐらいですし」
「少なくとも赤チップでやりたいわね」
「多分向こうですよ」
フラットは隣のスペースを教えた。
「ありがと、あなたは今からどうするの?」
「十分楽しんだので終わろうかと」
「もう換金するの?」
「そうですね、使っちゃう前に」
「ちょうどいいわ、ついでに赤チップ一枚も渡してもらえる?
枚数のキリが悪くて」
「いいですよ、ちょっと待っててください」
最初の交換所で赤チップ一枚と残りを金貨と銀貨に交換して戻ってきた。
「入場料取るだけあって、換金レートは等価でしたよ」
「そう、これで一八〇枚ね」
(元手がそれならどこまで増やすつもりですか……)
既に換金すれば金貨が五四〇枚分である。当分遊んで暮らせる額だ。
「私は離れて見ていることにします」
「早めに切り上げるからちょっと待ってね」
楽しそうに隣のスペースに向かうオージェであった。
(トラブルが起きないといいですが……)
「ここ入れるかしら?」
テーブルにはディーラーの他に三人のため入れそうだった。
「最低レート赤チップ一〇枚だぞ?」
壮年の男がこちらを見ずにそう答えてきた。
「あら、これじゃ足りない?」
オージェが手持ちのカップを掲げて見せた。
「いいじゃないの、チップ持ってるわね」
太った派手な女が了承した。
タキシードの男は反応がなかったため、参加することにした。
「じゃあ、お邪魔しますね」
オージェは手持ちの一八〇枚をテーブルに積んだ。
他の三人も一〇〇枚以上あるようだ。
「では始めます」
準備が整ったのを見るとディーラーが四人にカードを配った。
(今は手札無しと……他も似たような感じね)
オージェは最後に合流した位置から最後の手番であった。
「ベット三〇枚」
ひとり目の壮年の男がカードを交換し宣言する。
「コール」
次の太った女が同額のチップを置く。
「レイズ六〇枚」
次のタキシードの少年がレートを吊り上げる。
(いきなり上げたわね……手札はスリーカード?
確かに他のふたりよりは強いわね)
平然と能力を使い相手の手札を確認する。更に山札のカードも確認した。
(この三枚を変えれば……フルハウスができるじゃない。勝ったわね)
「コール」
オージェは想定通りに手札を揃え、他の人もコールで応じた。
「ショーダウン」
ディーラーの合図と共に手札を公開する。
想定通りオージェが勝者となった。
「くっ……いきなり勝ちおったか」
「やるじゃないの」
「……なるほど」
三者三様の反応であった。賭け金がオージェに集まり三六〇枚となる。
その後、何度か勝負を続けたが、能力を使ったオージェは適度に負けつつも
レイズした場合は必ず勝っていた。そうして十戦目。
「続けますか?」
ディーラーが継続を確認する。
「ちょっと待ってくれ」
壮年の男がチップをテーブルに追加し、他のふたりも同様にした。
全員テーブルに三〇〇枚は置いている。
(おもしろくなってきたじゃない)
「では始めます」
ディーラーが四人にカードを配る。
「ベット一〇〇枚」
壮年の男がカードを交換し宣言する。
(いきなりそのレート?手札は……ストレートね、
でも初めから飛ばし過ぎじゃない?)
「……コール」
太った女が弱気に同額のチップを置く。
(手が弱いのかと思いきや……こっちもストレートじゃない、
しかも勝ってるし)
「レイズ二〇〇枚」
(上げてきたわね……手札は、ストレートフラッシュ!?
山札と私の手札を合わせても勝てないわ……)
オージェはこのまま勝負しても勝てないので、降りるつもりでいた。
「お姉さん」
「ん……?何?私?」
「そろそろ勝負に出てみたらどうですか?」
(え?どういうこと?このままなら負けるに決まってるのに……)
オージェは他のプレーヤーを見渡し考え直した。
(いや……私も勝負してみるか。どうせ遊びでやってるんだし)
「レイズ三〇〇枚」
オージェは手札を変えずに宣言する。
「三〇〇だと……うぅむ……」
壮年の男は全員の顔を見回し
「フォールトだ……」
勝負を降りた。
「……私も降りるわ。フォールト」
太った女性も警戒したのか降りた。
(さて、この子はどう出るの?)
「いやー、上げてきましたね。どうしようかな……」
困った風を装って考えている。
「そうですね、私もおります。フォールトです」
(どういうつもり?その手で降りるというの?)
「あなたの勝ちですね」
ショーダウンはなかったが、オージェは手札を見せる。
ワンペアであった。
「くそっ!ブラフだったか」
「賭け金が大きかったせいね……」
「おめでとうございます」
(なんだか納得いかないわね……)
結局このゲームで終了となり、手持ちは八〇〇枚となった。
(最後のゲームのせいもあるけど、ちょっと増やし過ぎたかしら?)
「オージェさん!」
フラットがキリが付いたのを見ると近づいてきた。
「どうでしたか……って、うわっ!」
稼いだチップの山を見て引いていた。
「いやー、最後大勝ちしちゃって、持ち運べないわね」
「確かにカップには入り切りませんね……」
(マジでやらかしたよこの人……)
フラットの不安が現実となった。しかし、最後は能力だけで
勝った訳ではないため、あながちイカサマだけでもない。
「どうするんですか、これ……」
「とりあえず換金して帰る?」
流石にこれ以上騒がすのは気が引けることもあり、帰るようだ。
「お客様少々よろしいでしょうか」
(なんか怪しいですね……)
店の従業員らしいスーツの男が話しかけてきた。
「なにかしら」
「随分と勝っているようでオーナーが話をしたいと申しております。
来ていただけますか?」
(この流れは良くないパターン……)
「いいわよ、行きましょう」
(行くんですか!)
オージェの対応に内心でツッコみつつ一緒に着いていくのであった。
「オーナー、お連れしました」
「ごくろうさん」
チップはそのまま持ってきてほしいとのことだったので、
従業員が大きなケースに入れ替え運んでくれた。
「お前はもう下がっていいぞ」
「失礼します」
従業員が扉を閉め、部屋の中にはオーナーとフラット、
オージェの三人だけとなった。
「悪いね、今日は随分と勝ったらしいじゃないか?」
「私のことよね?当然だわ」
「私も勝ったには勝ちましたが、少額なので違いますね」
「そう、女の方だ。もうひと勝負しないかと提案したくてね」
「勝負?このチップをかけて?」
「ああ、俺との勝負に勝ったら十倍にしてやる」
(この十倍だと随分なことになりますが……)
「ゲームの内容次第ね」
「そうか、だが内容を聞くと降りる奴が多いんでな。受ける場合だけ
話すことにしている。嫌なら帰ってくれていい」
(このパターンは受けると大体ヤバいですね)
フラットとしてはトラブルを起こす前に帰りたかった。
「いいわ。やりましょう」
(オージェさんならそうなりますよね……)
付き合いは長くなかったが、この数日とカジノでなんとなくわかっていた。
「それでどういうゲーム?」
「簡単なゲームさ。俺もゲーム、特に運を使うもので負けたことがなくてな。
時々幸運な奴に声をかけてこのゲームをしてるんだよ」
「へぇ……危険なゲームのようね?」
「そうだな……これを使うんだ」
オーナーは拳銃を二挺出してきた。
「ロシアンルーレットね……」
「その通り、どうだやるか?」
「今降りたら、チップが無くなるでしょ?やるわよ」
(あー、また能力で勝つ気だ……)
フラットは呆れて見守っていた。
「シリンダーは六発入るんだが、既に本物を除きダミーが五発入ってる」
「あとはシリンダーを回すのね」
「そうだが……おい、そこの奴」
「えっ、私ですか?」
呼ばれるとは思ってなかったフラットであった。
「何かするんですか?」
「この二挺のシリンダーをお前が回せ」
「ええ……めちゃくちゃ嫌なんですけど」
「イカサマを疑われるのは嫌なんでね」
(こっちはイカサマする気満々なのに……)
フラットはオーナーに同情したが手伝うことにした。
「はい、回し終わりましたよ」
それぞれに手渡す。
「ルールは簡単。先に撃てなくなった方の負けだ。
仮に五発目まで両方不発ならもう一周する」
「わかりやすいわね。でも銃声が隣に聞こえてもいいの?」
「この部屋は防音だ。弾も頭を貫通すれば壁で止まるのさ」
(確かに壁に変な跡がいくつもありますね……)
フラットは部屋を見回してオージェの左側の壁に、
それらしき跡がある事を見つけた。
「こうしてお互いに自分自身の蟀谷に銃口をあてがう」
オーナーが自分の頭の左側に合わせる。
「左利きなのね」
「いや、違うが右利きの奴が多いんでね。弾丸が飛ぶなら、
同じ方向の方がいいだろ?」
(どちらにせよ、こんなこと続けて生き残ってる時点でどうかと思いますが)
「へぇ……じゃああの壁の跡は死んだ人の数ね」
「俺の勝利の数でもある。たまに途中で逃げるやつもいるがな?」
そうしてオージェと目を合わせる。
「いいわ、始めましょ。それで撃つタイミングは?」
オージェが自分の右の蟀谷に銃をあてがう。
「双方が同意した後、同時にだ。合図はお前が決めていい」
「そう。じゃあセットで指をかけて、ショットで撃つって事でよろしく」
「いいだろう。一発目はいいか?」
「もちろんよ」
フラットがふたりの間に立った。
「ここで見届けます……」
「「セット」」
ふたりが銃に指をかける。
「「ショット」」
バンッ
同時に銃を撃ち出す音がする。空砲だった。
「最初はこんなものよね」
「いいね。顔色一つ変えやしないか」
(そりゃ、どうなるかわかってるでしょうしね……)
フラットが思っている通り、オージェは透視能力でいつ弾が出るか
分かっていた。
(まあ……分かってるんだけど、このまま続けたら私が死ぬのよね)
透視した結果、オージェの方が先に撃つことが分かった。
(フラットが渡したからイカサマじゃなさそうだったけど……)
「次もいいか?」
「ええ、大丈夫よ」
「私の方が気が滅入ります……」
オージェが死なないことは分かっているがフラットは不安であった。
「「セット」」
ふたりが銃に指をかける。
「「ショット」」
バンッ
そうして四発撃ち終えた。
「いい度胸だな?次は二分の一だぞ?」
「それはあなたも同じでしょ?いつもここまで続くのかしら」
「いや、三発目で辞める奴も多いな」
(まあ命賭けられるのも確率が高いうちですよね……)
フラットは途中で棄権した人たちに同情した。
「それで、次はどうする?」
「そうね、どうしようかしら……」
(おや?オージェさん、様子がおかしいですね。もしかして
この勝負は相手側の勝ちになってるのでしょうか……)
「あなたはどうするの?」
「俺か?そうだな……お前が決めたら教えてやるよ」
(そうか、両方次の可能性もあるのですね)
フラットはオージェの様子を見てもどちらか分からなかった。
しばらく無言でお互い目を逸らさずに時間だけが過ぎていく。
(間にいる私が一番気まずいんですが……)
声をかけるのも躊躇われる空気の中、オージェが先に切り出す。
「……申し訳ないけど、ここで辞めるわ」
「ほう、怖気づいたか」
オージェは頭から銃を離し、机に置く。
「そんなところね。そろそろ当たる気がするのよ」
(当たってるんでしょうね……)
「ここで降りるってことは、勝ち分は全部なくなるがいいのか?」
「そうね……そういう約束だし」
オージェがフラットの方を向きながらそう話す。
(この流れって……)
そのままフラットから目を離さなかった。
「じゃあ、勝負は俺の勝ちってことでいいんだな?」
オーナーが勝負を終わろうとしていると
「すみません、ちょっといいですか?」
「なんだ?付き添いがなんのつもりだ」
(私は付き添い扱いだったのですか)
「私が引き継ぐことは可能でしょうか?」
「引き継ぐ?まさかこの状態から代わるのか?」
「そうです。条件も引き続きだとありがたいですね」
「正気か?初めからやり直したいというなら認めんぞ」
「いえ、このままで構いません」
「ほう……いい度胸だな?やってみろ」
「では、お言葉に甘えて」
オージェがフラットと位置を代わった。
「期待してるわ」
(なんの期待でしょうね……)
「お前の準備が出来たら始めるぞ」
「私はいつでもいいですよ」
フラットも右の蟀谷に銃をあてがった。
「勝つ自信でもあるのか?」
「私は負けませんよ」
間にオージェが立ち、オーナーとフラットは互いを見ながら
対峙する。
「「セット」」
ふたりが銃に指をかける。
「「ショット」」
バンッ
オーナーは空砲だったが、フラットが頭部の左側から
血を噴き出して倒れる。
「おいおい、本当に当たりじゃないか!やはり俺の勝ちだな?」
オーナーがフラットを見下ろして勝利を確信する。
「それはどうかしらね」
「ん?どういう意味だ。先に当たりを引いたのはこの男だぞ」
「まあ、見てなさい」
オージェの言葉にしばらくオーナーが静まる。
「何も起きんぞ?」
ガタッ
「んんっ!?」
フラットの体がぐらつき、オーナーも流石に驚く。
「遅かったわね」
「……結構ヤバイところを撃ってしまったようです」
ふらつきながらフラットが立ち上がった。
「おいおい、どういうことだこれは?撃ち抜いたよな?
どうして生きてるんだ?」
「少し特殊な体質でしてね。それより続けましょうか」
「続ける?次は六発目だぞ」
「ええ、ですから私はこうして」
バンッ
フラットが合図を待たずに空砲を自分に向けて撃った。
「さあ、次はアナタの番ですよ?」
「お前……」
「確か先に撃てなくなった方が負けなんですよね?」
「そうだ」
「やり直すのは両方五発目まで不発の場合ですよね?」
「そうだな、わかった。俺の番だな」
オーナーは自分の蟀谷に銃をあてがい、引き金に指をかける。
「勝負を降りて負けるのは御免だ」
(マジですかこの人)
フラットの予想とは異なり、オーナーは確実に出る引き金を引いた。
バンッ
銃弾が発射されたが、弾はオーナーの頭を掠めて行った。
フラットが頭の傷口から血液を伸ばし狙いを逸らしたのだ。
「お前……そんなこともできるのか。勝負はどうする?」
「オージェさんどうします?」
「もう引き分けでいいかしら?賭け金を返してもらえればいいわ」
「流石にもう一勝負やる気にはならんしな……それでいい」
オーナーも仕方なく引き下がる。
「それにしても意外ね。イカサマでもして勝っていると思ったのに、
まさかあの状況で撃つとはね」
「言ったろ?俺は幸運なんだ」
「そうなのかもね。最も今撃たなかったら私達が殺していたけどね」
「どういう意味だ?」
「こっちの話よ」
(えっ……もしかして依頼だったんですか……?)
オージェの会話内容から殺人鬼の調査だったのかと推測するが、
今は聞ける状況ではない。
「とりあえずもう帰るわ。チップの換金をお願いできるかしら」
「ああ、それは構わないが……」
「そう、じゃあ頼むわ。フラット行くわよ」
「あの……オージェさん」
「何?どうかしたの?」
「実は撃ちどころが悪かったらしくて、視界が回復してないんです」
「まさか見えてないの?」
フラットの目の前に手を翳して確認するオージェ。
「いえ、見えてはいるんですが……白黒なんですよ」
「……色彩認識のどこかが再生してないのかしら」
「おそらくは……またドクターに見てもらわないといけないかと……」
「はぁ……ジュラ様に叱られるわね……」
「すみません……」
「自分で撃ってそれじゃあ、世話ないわよ」
「そうですね……以後気を付けます……」
「お前ら一体何者なんだ?いや、聞かない方がよさそうだな……」
「別に隠したりはしてないんだけど、聞きたくないなら言わないでおくわ」
「ああ、そうしてくれ……」
「それじゃ行きましょうか、フラット」
「はい、帰りましょう」
「金は入り口まで持っていく」
「お願いするわ」
そうして入り口で待つふたり。
「オージェさん、まさか最初から私に代わるつもりだったんですか?」
「まさか、勝つ予定だったんだけど、あの男の運が本当に強かったのよ」
「確かに本物の幸運持ちだったんですかね……」
「まあ、どうでもいい事よ。確認は終わったんだから」
「今後も続けるんですかね……」
「さあ、自分から命を賭ける奴らなんか知ったこっちゃないわよ」
「私達にとっては対象外ですね」
「そういうこと」
話し込んでいるとオーナーが大きなスーツケースを持ってきた。
「悪いな、遅くなった」
「やっぱりこのくらいになるわよね」
「換金額が金貨二四〇〇枚となるとな。ケースはサービスだ」
「ありがと。確かに重いわね……」
金貨一枚で十グラムほどなので、二四キロ以上ある。
「とりあえずお前らは二度と来なくていいぞ」
「あら、出禁ってこと?大丈夫。多分来ることは無いわ」
「そう願いたいね」
「それでは失礼します」
最後にフラットが挨拶をして、出ていくことに。
「……フラット、ちょっと待って」
「オージェさんどうしました?」
オージェが立ち止まり入り口を凝視している。
「外にいるわ」
「誰がですか?……まさか」
「ええ、おそらくターゲットね。向こうから来るとはいい度胸だわ」
「私達を補足した上で待っていたんでしょうか?」
「確かにここにいる間、外の確認はしていなかったけど。
一体いつから見つかっていたの……」
「おい、どうした?帰らないのか」
オーナーが帰りかけて入り口で止まっているふたりに声をかけた。
「ごめんなさい。ちょっとこの荷物預かってくれない?」
「荷物って、おい!」
オーナーに金貨の入ったケースを手渡す。
「ちょっと用事が出来たみたいなのよ」
「用事って、お前ら……」
「ところであなた、この都市に顔が利くわよね?」
「それなりに収益もあるんである程度は利くぞ」
「もしかしたらいろいろと被害が出るかもしれないから、
その時はそこから支払っておいてちょうだい」
そうしてスーツケースを指さす。
「被害って……何をする気だ?」
「さぁ……相手の出方次第だけど多分戦うことになるかしら」
「戦うって……」
「被害額が足りなかったら別で払いに来るわ。生きていたらね」
「なるべく戻って来るつもりですので、お願いします」
「よくわからんが、ほどほどにしてくれよ」
「善処します」
「じゃ、そういうことで」
オーナーの困惑した視線を後ろに出て行くふたりであった。
「やあ、待っていたよ」
外に出ると三人がテーブルでくつろいで待っていた。
「あの子って……」
「あれがリヒトです。あとはプルファーもいますね。
もうひとりは……誰?」
結局イカサマか。確かに相手に気付かれなければいいが。
運があればいい?それもひとつの要因ではあるな。
私はやらないかだと?胴元であればやるかもしれんな。