表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/25

帰還

誰かに助けられました?死にかけていたのか?

それは運が良かったな。それでどうすればいいかって?

素直に礼でも言えばいいのではないか?


 フラットは意識を取り戻した。

(どうやら、生き延びたようですね……

体に力が入りませんが……)

 なんとか目を開けるとそこは培養液の中であった。

 機械式の部屋で装置も電子制御である。

(ここは……ドクターの研究所?)

 視線を自分に向けると、全裸で体の数ケ所に

チューブが繋がっていた。

(仲間の誰かに助けられたのでしょうか)

 フラットが知っている研究所であればその可能性が高い。

(とにかく誰か来るのを待つしかありませんね……)

 回復には時間がかかりそうなため、

目を閉じて誰かが来るのを待つことにした。


 コツコツ……

 しばらくすると足音が聞こえてきた。

(誰か来たようですね)

 フラットは薄目を開け様子を確認する。

「あらあら、お目覚め?」

(あれは……隊長ですね)

 フラットを見上げていたのは白い制服に銀髪の女性で

マーダーキラーズの隊長マーク・ネルフことジュラであった。

 フラットは軽く瞬きをすることで意識がある事を伝えた。

「危ないところだったのよ?オージェちゃんが見つけて

くれなかったら死んでいたわね」

(助けてくれたのはオージェさんでしたか……)

 オージェもマーダーキラーズのひとりで

マーク・ゼークラフトという。

「オージェちゃんの定期観察のタイミングが良かったのか、

フラットちゃんを探すために付近を探してくれたおかげで

助かったんだから、元気になったらお礼を言うのね」

(定期観察……そうやって確認されてたんですね……)

 フラットは行動をある程度把握されている事は知っていたが、

誰がどうやって実行しているのかは知らなかった。

(まあ能力の詳細は知りませんがオージェさんならしっかりと

調査しているんでしょう)

「その状態じゃあんまり話もできないでしょうし、

しばらくそうしていなさい?また来るわ」

 そう言うとジュラは後ろ手を振りながら去っていった。

(さて、私の体はどの程度回復したのでしょうか)

 フラットは動かないなりに体の感覚を確認する。

(確か切断された足はそのままでしたが……感覚があります。

施術してくれたのはドクターですかね)

 ドクターはフラット達マーダーキラーズの生みの親であるが、

半年に一度だけ定期健診の際に顔を合わせる機会がある。

 何を研究しているのかは知らないが、今回のように

自己修復が望めない場合であれば治してくれた可能性は高い。

(動くようになったらそちらにもお礼を言いに行くべきですね)

 考えが落ち着くと回復に専念するため眠りについた。

 

 ――三日後

 フラットはほぼ完治の状態となっていた。

(そろそろ出たいのですが、これは内側から操作できそうに

ないですね……かといって壊して出るのは憚られます)

 時間帯も分からない中、誰か来るのを待っていると人の気配がした。

「そろそろ出してもよさそうね」

 やってきたのはオージェだった。

 黄色の制服に金髪の女性で右目は常に閉じていた。

「どう?大丈夫なら頷いて」

 フラットは軽く頷いた。

「あら?まだ元気がないわね、もう少し中にいる?」

 元気なことを伝えるため、フラットは大きく首を縦に上下した。

「冗談よ、今出してあげる」

 オージェが何かを操作すると培養液の中の液体が流れていく。

(ようやく出られます……)

 フラットの周りに液体が無くなるとケースが開き外に出られた。

「久々の空気……生き返ります」

「フフ……私に助けられたこと、貸しにしておくわよ」

「それはもちろん……いずれ返すということで」

「ええ、期待しておくわ」

 落ち着くとフラットは自分が全裸である事に気が付いた。

「とりあえず服をもらえるとありがたいです」

「そこにシャワー室があるからとりあえず体を洗いなさいな」

 部屋の横にある扉を指さす。

「そんな部屋もあるんですね……」

「ジュラ様はこの研究所にいることが多いから必要なのよ」

「まあ助かりますが……」

「早く行きなさい?それとも私に見られ続けたいの?」

「すぐに洗ってきます!」

 フラットは急いでシャワー室に向かった。

「服は持ってきておいてあげるわ」

「ありがとうございます!」

 振り返ることなく礼を言い、扉を閉めた。

「ずっと見られてたのに今更よね、不思議な子だわ」


 フラットはシャワー室に入り、蛇口をひねると水が出てきた。

(流石にお湯がでてくるほどの設備にはしていませんか)

 流れる水で体についた液体を洗い流す。

(髪についたのは取りづらいですね……)

 特に体を洗うための道具もなかったため、手で拭うしかなかった。

(とはいえ、石鹸はあるのですね。隊長とか使ってるんでしょうが

お借りしますね)

 そうして体を洗い終えて出るとタオルと服が置いてあった。

「よかった……ちゃんとあります」

(少し不安だったのですが、ちゃんと持ってきてくれたようです)

 服は元に着ていたものと同じであった。

 マントコートはフラットと共に運んで来たのだろう。

 着替えてシャワー室を出ると誰もいなかったため、そのまま

部屋を移動することにした。

(落ち着いたら来いということですかね)

 研究所自体は広く、フラットは建物の構造を把握していない。

(どこに行けばいいのですか……)

 フラットは仕方なく続いている道をそのまま進んだ。

 途中に部屋がいくつかあったが、急に開けてトラブルが起こるのも

避けたいので進み続けた。

(誰とも会いませんね……どこに出るのでしょうか)

 突き当りは扉だった。

(入ってみますかね、突き当りなら何かの場所でしょう)

 そうして扉を開くと大広場に出た。

(ここは……広いですね)

 天井は二階位の高さがあり、部屋の中央にはモニターが

いくつか並んでいる。その前に大きな椅子があった。

(誰か座っていますね……)

 フラットは椅子に誰が座っているか確認するため近づく。

「あのー、隊長かオージェさん知りませんか?」

 相手を見てから質問をすればいいものを後ろから問いかける。

 返事はない。

(あれ?聞こえてると思うんですが……)

 何かを操作している音がするため誰か座っているのは間違いない。

 フラットが椅子の横に行き相手の顔を見た。

「ドクター!?」

 椅子で作業をしていたのはドクターだった。

 真剣な様子で何かを打ち込み続けている。

「あのー……?聞こえているでしょうか……」

 聞く気がないのか小さな声で話しかける。

「フラット、こんなところにいたのね」

 オージェが後ろから声をかけながら近づいてきた。

「誰もいなかったので探していたんですが……」

「部屋で待ってればいいのに。まあいいわ、ジュラ様のところへ行きましょ」

「わかりました。ところでドクターが……」

「作業に没頭しているときは話しかけても答えてくれないわよ」

「そうなんですか……」

(ついでにお礼を言っておきたかったのですが)

「怪我の礼でもするつもりだったの?まあ、後にすることね」

「そうします……」

「さ、行くわよ」

 ふたりはドクターを置いてジュラの元へ向かった。

 

「フラットちゃん、もういいの?」

 開口一番そう聞いてきた。

「ええ、おかげさまで完治しました」

「表面上は、ね?傷の具合から、回復のために大分寿命が削れたと

ドクターが言っていたわよ」

(能力で再生するのには寿命を縮めることは知っていますが、

そんなに減ってるんですか……)

 寿命を削ることを把握している割には平然と傷を受ける辺り、

気にしているのか気にしていないのかよくわからない男である。

「そうなの、ただドクターが言うには使い続けた影響か代謝速度、

つまり回復の速さがあがっているみたいなのよ」

「回復の速度ですか?」

「すぐ治るわけではないけど、以前より早いはずよ」

(最近はそんなこと気にしてる余裕がなかったので実感がありませんね)

 フラットは最近では戦ったあとに意識を失っていることが多かった。

(そもそも意識を失くした時点で相手から攻撃されていたら、

既に生きていませんしね……)

「そういうことだから、能力は良くなっているけど、

使い過ぎには注意してね。ということよ」

「今後は気を付けて能力を使うことにします」

「よろしい。じゃあ次はフラットちゃんが追い詰められた相手の

話をしましょうか」

「相手……マーク・プルファーですか?」

「マーク……?」

「ああ、なんか私達と同類だとか言って、そう名乗ってました」

(私との会話の流れでそうなったことは伏せておきましょう)

「ふざけてるの?」

 オージェが割って入ってきた。

「まあまあ、オージェちゃん落ち着いて。それで他には?」

「話した感じだと他にも仲間がいそうですね」

「規模とかは不明?」

「はい。あとプルファーは体を部分的に機械化しており、

あいつの場合は火薬を打ち出す機能を持っていました」

「火薬……爆発物で攻撃してくるの?」

「そうです。手から弾丸のように打ち出してきました」

「機械化ね……」

 ジュラは顎に手を添えて何か考えているようだ。

「プルファーとは別に施設にいた機械がデカイ砲弾を備えており、

無人で狙われました」

「人体を機械化できるならそのぐらいあるわよね」

「ええ、あの施設自体も電子設備で作動していたようです」

「それで、最後に施設の倒壊に巻き込まれたと?」

 オージェが再び割り込んでくる。

「オージェさんも見たでしょう?施設が崩れているのを」

「確かに。あれも電子設備で行ったのか」

「……よく考えたら私は倒壊した状態は見てないですね」

「そういえばそうね、普通に埋もれていたわよ。

頑張ってガレキをどけて助け出したの」

「それは苦労をおかけしました……」

「私の能力はパワータイプじゃないから大変だったわよ」

「はいはい、その話はまたあとでね」

 ジュラが話が逸れてきたので止めに入る。

「失礼しました」

 オージェが少し後ろに退がる。

「それで逃げたプルファーなんだけど、このままだと今後の依頼に

支障がでると思うのよ」

「そうですね。依頼中、あるいは依頼後に狙われるとなると、

障害になると思います」

「そこで依頼は一時中断するから、探し出してほしいの」

「私が、ですか?」

「そうね、でもひとりだと簡単には見つからないと思うから、

オージェちゃんを貸してあげる」

「私ですか!?」

「オージェちゃんなら人探しにはうってつけの能力だから、

役に立つと思うわ」

「それなら私ひとりでいいのでは……」

 オージェが心外だとでも言いたげな表情をする。

「いいえ、見つけるだけでなく出来れば殺害もして欲しいわ」

「となると戦力が必要ということですか」

「そう、ふたりで始末をお願いするわ」

(なんだかややこしいことになってきましたね……)

 フラットはひとり行動に慣れてきていたため、

複数人での行動は経験が少ない。

「ふたりともそれでいい?」

「……はい」

「わかりました!」

 それぞれが返事をする。

「あ、あとプルファーの他にも以前に逃げられた相手がいまして……」

「どういうこと?」

 ジュラが首をかしげてフラットを見つめる。

「ええと、交易都市で何ですが、いろいろあって捕まりまして、

何人か殺害されました。その時の相手がリヒトと名乗っており、

電撃による攻撃をしていました」

 自分の能力が把握されていたことや、何故か殺されなかったことを

話すと、詰問攻めに合いそうなので伏せておいた。

「その子も機械化ということ?」

「わかりませんがその可能性が高いかと」

「そう……もし見つけたらそっちもよろしくね」

「それはもちろんです」

「機械化ならば私が見抜けると思います」

 オージェは自分に任せろという表情だ。

「期待しておくわね」

「じゃあ、準備が整い次第探しに行くぞ!」

 ジュラの期待に応えるため、急ぎ準備に向かった。

「復帰早々忙しいですね……」

(準備といっても私のものはここに何もないのですが……)

「フラットちゃんは行商人してたのよね?」

「ええ、ただ荷物は埋もれてしまったようで、

私の荷物はもう何もありません」

「それなら代わりを準備しておくわ。今回はそれいらないわよね?」

「そうですね。終わって戻ってから受け取ります」

「じゃあ、頑張ってね~」

 返事の代わりに手を挙げて返し、部屋を出て行こうとすると

「そういえば、フラットちゃんが預けてきた少年いたじゃない?」

「少年ですか……?」

「そうそう、ハーゼちゃん」

「誰でしたっけ?」

「忘れちゃったの?無責任ねぇ。交易都市での被害者のひとりよ」

「……何となく」

「まあいいわ。とにかくその子、ドクターの施術に適合したわよ」

「それは良かったですね。元気ですか?」

「最初は暗かったんだけど、今は元気よ~」

「そのうち私達のように依頼をこなすのですか?」

「そうね……今はまだ調整中になるから終わったらね」

「隊長が手ほどきを?」

「そうよ~、なんとあの子ハードモードを選んだのよ!」

「え……それは……」

「フラットちゃんなんかイージーモードだったものね!

耐えきれそうになければ変更してあげるつもりだけど」

「潰さないでくださいね……」

「そんなことしないわよ~」

(私はノーマルモードが無理だったので、途中から

イージーモードになりましたしね……)

 ジュラは施術に成功した者をマーダーキラーにするべく鍛えている。

 鍛える際の厳しさを相手に選ばせるようにしており、

 イージー、ノーマル、ハードと順に厳しくなっている。

「そのうち一緒に仕事ができるかもしれないから期待してなさいな~」

「楽しみにしておきます……」

 ひとしきり話すとジュラの方が退出していった。

(どちらにせよ、今から向かう相手に殺されないように

しないといけませんけどね……)

 今の会話がほとんど頭に入っておらず準備も特にないので、

オージェの元へ向かうことにした。


(まあ、オージェさんの部屋も知らないんですよね)

 結局建物の出口で待つことにした。

「遅い!」

「え……早くないですか?」

 隊長と会話していたとはいえ、オージェの方が先に待っていた。

「長旅でもないのに準備なんて、そんなにかからないわよ」

「言われてみればその通りですね」

(長旅にならないとも限りませんが……)

「それでどうやって行くのです?私は基本徒歩なんですが」

「それは嫌ね。大丈夫バイクで行くから!」

「バイクですか……」

 オージェが指さす方を見るとバイクが置いてあった。

「電気式は帰れなくなる可能性があるから、エンジン式で

行くことにしたの」

 都市によっては乗り物用のオイルが補給できる場所がある。

 電気は普及してないため補給できるのはこの研究所くらいである。

「それは探すのが捗りそうですね」

「とりあえずフラットを見つけた建物跡に行ってみましょ」

「それが良いでしょうね。どちらが運転しますか?」

「そこまではまだ能力使わないから私が運転するわ」

 そうしてオージェがバイクに跨ると後ろに乗るように手で呼ぶ。

 フラットが座るとすぎにエンジンをかける。

「飛ばすわよ」

「え……別に急がなくても……」

 言い終わるより先にエンジンスタートした。

「ひっ……」

 フラットはオージェに全力で抱きつく。

「くっつきすぎ!」

「力を抜くと落ちます!」

(荷物を背負ってなくてよかったです……)

 フラットは手ぶらだったので自分が飛ばされなければよかった。

 仮に荷物を背負っていれば、ほとんど吹き飛んでいたであろう。


「着いたわ」

「うぅ……」

 オージェがバイクを止めて降りると同時にフラットは倒れた。

「情けないわね」

「気持ち悪い……」

 倒れたフラットは無視して倒壊した建物を見下ろす。

「さてと……」

 オージェが右目を開く。

透視眼(クラールハイト)

 見た目に変化はないがオージェの視界には

物質が透過して見えており、透過度の調節は自在だ。

(死体が何体かあるけど、手掛かりにはなりそうにないわね)

 見る方向を変えながら探すが、めぼしいものはなかった。

「ふぅ……」

 右目を閉じて息を整える。

 発動中は内容と範囲にもよるが疲労が蓄積する。

「何か見つかりましたか?」

 ようやく落ち着いたのかフラットが近くにいた。

「やっと生き返ったわね。建物は手掛かりがなさそうよ」

「そうですか……その目で探したんですか?」

「そうよ、私の能力のひとつである透視眼で、

底らしきところまで確認したわ」

「そんなに見えるんですか……」

「本気出せばもっといけるわよ」

「次はどうするんです?」

「そうね……周りも探してみようかしら。ターゲットは

ここが倒壊する前に逃げて行ったのよね?」

「おそらく。どちらに逃げたかはわかりませんが……

ここの出口が確かこの辺りに……」

 フラットがガレキの山をかき分け、出口らしき痕跡の

ある場所を見つける。

「多分この辺りですね」

「了解よ。痕跡を探すなら……」

 再びオージェが右目を開く。

解析眼(アナライズ)

「そんな風に発動するんですね」

 フラットの感想は無視し解析に移る。

 先程とは違い、通常の視界の中では分からない

地面の状態が見えている。

「血痕があるわ」

「え?特に見当たりませんが……」

「時間も経っているから、普通に見る分には

わからないでしょうね」

「そんなのまで見つかるんですか……」

「だからこそ探索を任されるのよ。さて、どこまで続いてるか」

 オージェが血痕を追い、その後をフラットがついていく。

 しばらくするとオージェが立ち止まった。

「どうかしましたか?あっ、痕跡がここで消えたんですね」

「その通りよ。ただ方角は一定だったから、

ひとまずこの方向に進みましょう」

「歩いてですか?」

「まさか、ちょっとバイクを持ってきてくれる?」

「しばしお待ちを」

 フラットは急いでバイクを取りに戻った。

(痕跡がここで消えたのは隠蔽?それとも他の事情が……)

 フラットには話していないが血痕以外に足跡も確認していた。

 同時に無くなっていたため完全に足取りは途絶えたことになる。

「持ってきましたぁ」

 フラットがバイクを押して戻って来る。

「遅かったわね」

「鍵がないから押してきたんですよ……」

「言えば渡したのに」

「まあそこまで距離もありませんでしたしね。どうぞ」

 フラットがバイクを渡そうとしたが

「今度はあなたが運転しなさい」

「えっ!いいんですか」

「何を喜んでいるのよ。私が能力に集中したいからよ」

「移動しながら探すんですね」

「そうよ。スピードはそこまで出さなくていいわ。

見落とすつもりはないけど」

 今度はフラットの肩にオージェが手を置く。

「その体制で大丈夫なんですか?というか見えないんじゃ……」

 フラットの頭が前にあるため、オージェの視界は遮られている。

「抱きついて欲しいの?」

「あくまでオージェさんの心配のためです!」

「ふふ……ちなみに視界は問題ないわ」

「わかりました。いつでも行けます」

「じゃあお願いするわ」

 オージェに指示されてフラットはバイクを動かし始めた。

「とりあえず真っすぐ進むので、何かあれば言ってください」

「それでいいわ」

 しばらくバイクで進むがオージェからの指示はない。

(静かですね……ずっと探してるんでしょうか)

 道なりにはあまり障害物もなく安全運転であった。

(駄目ね……怪しいものが特にない。

解析範囲を広げるか?いや、そうすると長時間持たない)

 オージェがいろいろと思案しているのを気にすることもなく

運転し続けていると

「あっ!オージェさん!」

「なんだ?なにかあったのか?」

 探索しているオージェでなくフラットが声をかけてきた。

「なんか都市らしきものが見えるんですが……」

 オージェは解析している視界をそのままに、

通常の視界に意識をやった。

「本当ね……なんの都市だったかしら」

「すみません、把握していません。

このままいくと着きそうですね」

「いいわ、このまま見つからなければ、

その都市に行ってみましょう」

「わかりました!」

 しばらくして都市に到着すると、

バイクも中で留められるようだった。

「結局みつかりませんでしたね……」

「まあ痕跡も消えていたからこんなものよ」

「それにしても……」

「遊戯都市とはね」

 そこは遊戯都市ヴァルドゥング・ベーアであった。

 定住している者もいるがほとんどは来訪者の都市であり、

 その名の通り様々な遊戯施設がそろっている。

「どうするんですか?」

「とりあえずこの都市も探してみましょう」

「え……結構広そうですよ?」

「ターゲットって体が機械化しているのよね?」

「そのはずです」

「じゃあちょっと試してみようかしら」

「試すって何を……」

遠視眼(ヴァイト)

 オージェは右目を開いたまま能力の種類を切り替えた。

(ある程度の範囲はカバーできそうね)

 視界の方向を魚眼のように一八〇度近く、

そして半径十キロ程度を見渡すことができた。

 解析眼と遠視眼を併用して使用したため、

範囲内の状況を全て確認できる。

「……はぁっ……」

 オージェの右目が閉じた。

「どうしたんですか!」

「ちょっと疲労の激しい能力を使ったの……

おかげである程度の範囲内には、機械化した人物が

いないことがわかったわ……」

「そこまで見れるんですか……」

「と言っても都市全体にはほど遠いわね……」

「その調子で全範囲カバーするつもりですか……

流石に移動する人もいるし無茶なのでは」

「そうね……しばらく滞在でもして定期的に探そうかしら」

「マジですか」

「定期的に都市の入口方向の範囲を調べていれば、

いずれ見つかるかもしれないじゃない?」

「それっていつ終わるんです……」

「とりあえず二、三日はやってみましょう」

「ちなみに私はその間何をすれば……」

「私のサポートをしなさい」

「サポートとは?」

「私が疲労したらケアをするに決まってるじゃない」

「……」

 フラットが無言であったため了承したとみなされた。

 

 その後都市を見て回り、丁度いいポイントに宿があったため、

そこを拠点とすることにした。

「オージェさん、しばらくここにいるとして定期的にここから

能力で確認を続けるんですか?」

「そうね……一時間に一回で続けてみるわ」

「それって、寝る時間はあるんですか?」

「私は仮眠取るわよ。まあずっと仮眠だけど……」

「つまり私は護衛も兼ねて起き続けると」

「それでお願いするわ」

「えぇ……」

 フラットが困惑していると錠剤の入った小瓶を渡された。

「これは?」

「あなたの方が専門でしょ?抗睡眠薬よ」

「あぁ、あれですか」

(というか何で持っているんですか……)

「確かにこれを使えば三日は起きていられますね」

「それじゃ大丈夫ね、とりあえず今一回確認したから

私は眠るわ」

「えぇ、もう……」

「一時間後に起きなかったら起こしてね。おやすみ」

 オージェはベッドの中に潜った。

 この部屋のベッドは一人用である。

 フラットは椅子に座り、どうやって過ごすか考えた。

(周りには気をやっておけばいいとして、流石に長いですね)

 とりあえず次にオージェが起きたら提案しようと思い、

今のところは窓から都市の様子を眺めるしかなかった。


 一時間後。

 予想はしていたが、オージェは自分で起きなかった。

(まさか毎回起こすのですか……?)

 仕方なくオージェの肩を揺さぶり起こそうとする。

「オージェさん、時間ですよ、起きてください」

「んん……もう?早くない?」

「そりゃそうですよ、仮眠なんですから……」

「ちょっと顔を洗ってくるわ……」

 ベッドから出たオージェは、いつの間にか下着姿であった。

「えぇ……」

(いつの間に着替えたというか脱いだんですか……)

 顔を洗ったようでスッキリしてオージェが戻って来る。

 下着姿であったが誰にも出会わなかったのであろう。

「おはよ、さっそくやるわよ」

 そう言うとすぐに確認をして眠りにつこうとする。

「ちょっと待ってください!」

「何?なんか用?」

「さすがに警戒するだけでは時間を持て余すので、

ちょっと何か探してくる時間をください!」

「つまり?」

「戻ってくるまで起きててください!」

「わかったわよ、早くね?」

「ありがとうございます!」

 オージェの了承をとるとフラットは急いで出て行った。

(さてと、どうしますかね……)

 待っている間に考えたが、この都市に何があるか

知らないのであった。

(時間はあるので何かできる事と言えば……)

 ここは遊戯都市である。遊びに関するものが揃っている。

(せっかくですし、都市について把握したいですね)

 フラットはいくつか本を購入し宿に戻った。

「おかえり、どうだったの?」

「とりあえず都市の把握のためにいくつか書籍をと」

 買ってきた書籍をオージェに渡す。

「ふーん、いいんじゃない?落ち着いたら都市を回ってみましょ」

「あくまで、仕事としてですね?」

「そう、仕事としてよ。そろそろ次の確認をするわ」

 オージェは確認を終えると再び眠りにつく。

(さて、一時間ごとに起こしつつ情報を仕入れるとしますか)

 そうして、オージェを一時間ごとに起こしながら本を読み漁った。


 三日後。

(ついに内容を覚えてしまいましたよ……)

 流石に時間があり過ぎたようで同じ本を何周もしていた。

 そうして最後の確認にオージェを起こす。

「オージェさん、次で最後ですよ、起きてください」

「んん……もう、起きるの?」

 結局自分から起きることは一度もなかったが、

疲労してすぐに寝ていたため、ケアする機会は訪れなかった。

 毎度のように起きるたび顔を洗いに行くため、

何度か他の宿泊客と鉢合わせしたようだが、特にトラブルは

なかったようだ。

 何回か食事やトイレ、風呂の際には着替えていたようだった。

「さて、最後の確認と行きますか!」

 流石に最後となるとやる気が違う。

 とはいえ結局最後まで対象を補足することはなかった。

「疲労しただけでしたね」

「まあ、こんなものよ。相手が用心深ければ、特にね」

「とりあえずこの都市ではどうします?」

「あなたその本で都市について結構詳しくなったんでしょ?」

「ええ、まあ、それなりに……」

 本の内容を把握するほど読んだことは伏せていおいた。

「どう?なにか気になるところはあった?」

「そうですね……やはり中央区にあるカジノかと」

「カジノ?まあ資金は多少あるけど」

「行くんですか?」

「そうね、最後に少し寄って行きましょうか」

「わかりました」


 そうして宿を出ると中央区にあるカジノへと向かう。

「さ、入りましょ」

 オージェに手を引かれフラットはカジノへの入口へ。

 入り口にいるいい体格をしたスーツの男に迎えられる。

「ようこそカジノ・グリュック・レーベンへ」


礼ではなく貸しになったか。だから早く礼を言っておけと

言ったのだ。これからは先手を打って動くんだな。

私にも礼を言いたい?いや、いい。貸しにしておく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ