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ゲームスタート

ゲームの解き方を教えて欲しい?それだとつまらなくないか?

解答を知っているゲームなんぞ何が楽しいのか。作業と同じだ。

そうだろう?もう少し考えてから聞きに来るといい。

 目が覚めると床に倒れていた。

「あ、ようやく起きましたね」

「これは一体……?」

 フラットは起き上がりながら問いかけた。

「さあ……私共も起きたらここにいたのです」

 壮年の男性が答えた。周りを見渡すと他にも何人かいる。

「あなたはどちらさまですか?」

「私はフドウ、医者をしています」

 フドウと名乗る男は白衣を着ていた。

 部屋は広かったが出入り口が見当たらない。

(どうやってここへ……?)

「全員起きたようだし、とりあえず自己紹介だな」

 体格のよい男が全員に声をかけたので、そこへ集まった。

(私を含めて六人ですか)

「この状況を説明できる奴は……いないか」

 背の高い男が腕を組みながら呟いた。

「それはそうでしょ」

 女性がそう口を挟んだ。

「自己紹介よね、私はイザ、学問都市

ヴァイスハイト・ゲッティンの学園で教師をやっているわ。

病院に用事があって気が付いたらここにいたの」

「俺はアトラ、仕事も言うのか?俺も学問都市の研究者だ。

俺も病院に行った後の記憶がない!」

「研究?なんの?」

「そこまで言う必要はないだろう」

「何かの手掛かりになるかもしれないじゃない?」

「とりあえず落ち着けって!」

 イザとアトラの口論に体格のよい男が割って入る。

「俺はボーガン、学問都市の憲兵をしている。

そういえば俺も病院へ行った気がするな……」

 そうして沈黙が訪れたので仕方なく私の番とした。

「私はフラットといいます。交易商人をしています」

「あなたも学問都市にいたの?」

「そうですね……まだ仕事を始める前だったのですが、

確か病院へ向かいました」

「外部の人もいるのね……」

 そう言うとイザは何か考え始めた。

「私はフドウ、医者をしています。私も学問都市に来て間もないです」

「医者も都市を移動するのか?」

 アトラが問いかけた。

「そういうときもあります」

「あとは……君は誰かな?」

 ボーガンが唯一いた子供に聞いた。

「ルルカです……学問都市に住んでます。

覚えているのは病院へお見舞いに行ったことです……」

 ルルカと名乗る少女は警戒しながら答えた。

(大人の中で子供ひとりでは不安でしょうね)

 フラットは少女を見てそう思った。

 

 全部で六人

――商人フラット

  医者フドウ

  教師イザ

  研究者アトラ

  憲兵ボーガン

  子供ルルカ――


(自己紹介も終わりましたが、どうなることやら)

 ビーーー

 フラットが次の動きを待っていると機械音が鳴った。  

「どこから音がした!?」

 アトラが叫んだ。機械音が止まった。

「――みなさん、自己紹介は終わったようですね――」

 ノイズが混じった声が聞こえてきた。

「誰だ貴様は!」

 アトラがまた叫んで問いかけるが、返答は無い。

「こちらの声が届いているのかわからないですね」

 フドウが推測を述べる。

「とりあえず次の言葉を待ちましょ」

 イザがそう提案する。しばらくすると

「――みなさんに今からゲームをしてもらいます――」

「ゲームだと?意味が分からん!」

 アトラがすぐに口を挟んだ。

「少し黙っていて」

 イザがアトラを睨んだ。

「――次の部屋に入ったらスタートです――」

「次の部屋って、どうやって移動するんだよ……」

 ボーガンが愚痴っていると

 ガコンッ

 部屋中央の床が沈みだした。

「うわっ!」

 丁度床を踏んでいたフラットが尻もちをつく。

(真上じゃなくて良かった……)

 床の動きが止まると坂になっていた。先は見えない。

「これを滑って降りろってか?」

 ボーガンが下を覗き込みながらそう言った。

「それで、誰から行くのだ?」

 アトラは自分が初めには行かないつもりのようだ。

「滑り台のようね?」

 イザがそう言うと皆がルルカを見た。

「えっ、私……?」

 ルルカは怯えている。

 フドウが近づきルルカの肩に手を置いた。

「ひっ!」

 ルルカの体がビクッと震えた。

「私が先に行きますよ」

 フドウがルルカに笑いかけながらそう言った。

 ルルカの震えが止まり頷いた。

(嫌な雰囲気になってきましたね……)

 フラットはこの先の展開も予想している。

「ではお先に行きます」

 そう言うとフドウが下に滑って行った。

 少しすると声が聞こえてくる。

「……みなさん!大丈夫のようです!」

 フドウの声だ。どうやらすぐに着いたらしい。

「では、行くとするか」

「そうね」

 アトラ、イザの順に滑っていく。

「次は俺が行く」

 ボーガンも滑っていく。

 そうしてフラットとルルカだけになった。

(なんという気まずさ……)

「どちらから行きます?」

 仕方なくフラットから聞いた。

「……私は最後でいい」

「そうですか、ではお先に」

 答えを聞くや否や滑っていくフラット。

 下に到着すると全員奥に集まっている。

(何か調べてるんですかね?まずはルルカさんを待ちますか)

 しばらくするとルルカも滑ってきた。

「さあ、みんなのところへ行きましょう」

「うん」

 そうして四人の元へと向かう。

「全員揃ったようだな」

 アトラが声をあげる。

「これを見て」

 イザが後から来たふたりに看板を見るように言った。

――まずは二人組のペアを作れ――

 そう書かれた看板の前に三色の鍵が二本ずつ置いてあった。

 

「ペアか、子供と女以外なら誰でも構わん」

 アトラが最初にそう言った。

「君は誰と一緒がいいかい?」

 ボーガンがルルカに問いかける。

「……」

 ルルカはフドウを見ている。

「そうか、じゃあフドウとルルカがまずペアだな」

(まあ、そうなりますよね)

「あとは……イザはどうする?」

 続いて問いかける。

「私は……そうね、あなたでいいわ」

「俺かい?じゃあ残りはアトラとフラットで決まりだな」

(私の意見は……まあ、いいですが)

 そうして組み合わせが決まり、鍵を取った。

 ガチャッ

 看板の両サイドが開いた。

「ここ扉だったのか」

 取っ手のない扉である。

 中に入ると鍵穴が両方の部屋に三種類あった。

「当然だけど、鍵は合うわね」

 イザはそう言うが鍵を刺しても反応がない。

「誰か隣の部屋に行って鍵を差してきてちょうだい」

「任せな」

 ボーガンが向かい、戻ってきた。

「何も起こらなかったぜ」

「次は一種類ずつやりましょう」

 その後何パターンか試したが反応がなかった。

「どうなってるんだ!」

 アトラが怒り出した。

「ペアとありましたし、部屋にいる人数も関係があるのでは?」

 フドウが推測を述べる。

「とりあえず試してみましょ」

 そうして一旦看板のところまで戻った。

「何か起こるかもしれないけど誰から行くの?」

「ペアは決まってますけど、どうします?」

 フラットが聞くと

「俺はいかんぞ!」

 アトラは最初に行くのは嫌なようだ。

「私も嫌よ」

 イザも同意見のようだ。

「困ったな、子供からいかせる訳にもいかないし……」

 ボーガンはそう呟いた。

(まあ、普通は様子見したいですよね……)

 フラットが静観していると

「よし、俺から行くぜ!」

 ボーガンが行くことにしたようだ。

「誰と行くの?」

 イザはペアを解消したようである。

「うーん……フラット行けるか?」

「私は構いませんが……」

 アトラの方を見る。

「俺はこの女と組んでも構わんぞ」

 意見を変えたようだ。

「では……行ってみますか」

 そうしてそれぞれの部屋に同種の鍵を持ち入っていく。

 フラットが鍵を回すと

「何も起きませんね……」

 しばらく待ったが動きがないので戻ると、

 ボーガンも鍵を付けたまま戻ってきた。

「この入り口を閉めてみたら?」

 イザが提案した。

「やってみますか」

 ドアは内側から押せば閉まりそうだ。

「あなたも閉めてみなさい」

 そう言われてボーガンも閉めると開かなくなったようだ。

「どうなったの?」

「開かなくなりました!」

 扉は閉まっても声は聞こえるようだ。

「奥はどうなったの?」

「見てきます!」

 フラットが見に行くと奥の扉は開いていた。

「開いていました!」

「そう、奥はどうなっているの?」

「見てきます!」

 フラットが再び見に行った。

「こちらも開いたようだ」

 アトラがボーガンの様子を伝える。

「とりあえず正解だったようね」

 残った四人はひとまず安堵した。

 フラットが戻ってきた。

「奥なんですが……」

「どうだったの?」

「また部屋がありました。中には入っていませんが、

奥の扉にまた鍵穴が見えます」

「そう、アトラ、そっちはどう?」

「こっちも同じようだ、どうする?」

「とりあえず進んでもらうしかないわね……」

「そうだな、ボーガン!まずは奥に向かってくれ!」

「おう」

 フラットとボーガンはそれぞれ奥の部屋へ向かった。

(しかしペアという割にはコンタクト取れないのですね)

 フラットは疑問に思いながら部屋を見渡す。

(そういえばこのドアも内側からしか閉められないんですよね)

 フラットがドアを閉めた。しかし開けられない。

(あれ?さっきまでは開けられたのに……

先ほどと同じで隣も閉めたということですか……)

 ゴゴゴゴ

 あたりが揺れ始めた。

(動き出しましたね、さて……)

 隣の部屋との間の壁が上がっていく。

(ここが動くということは、隣と繋がるのですかね?)

 フラットの予想通りにはいかず、間の床は空洞であった。

(なんだか嫌な予感がしますね……)

 暗くてはっきりとは見えないが、下になにかあるようだ。

 しばらくすると隣のボーガンが見えてきた。

「フラットさん!ようやく出会えたな!」

 こちらに手を振っている。

(向こうに跳んで行ける距離でもないか……)

 合流は出来なさそうだ。

「とりあえず、この後何かありそうなので、注意してください!」

「わかった!……うわっ」

 ボーガンが後じさった。

(やはり……)

 フラットが下を覗くと針山となっていた。

(まあ、そんなところですかね……)

 再び機械音が鳴りだした。

(説明が始まりますか)

「またさっきの声か!」

 ボーガンが上に向かって叫んだ。

「――地獄の底に近づけ――」

「地獄の底!?」

 ボーガンが聞き返すが、返事は無い。

(謎かけでしょうか?)

 フラットが周りを見渡していると

 ゴゴゴゴ

 再びあたりが揺れ始めた。 

(さて、どこが動いているのです?)

 両端の壁が上がり、奥から針の壁がこちらに迫ってきた。

 

「なにか始まったようね」

 部屋が揺れだした頃、看板の辺りにも振動が伝わっていた。

「この揺れ方だとそうとうデカイ動きだぞ」

 アトラも動揺している。

「フラットさん達が死なないことを祈るしかできませんね……」

 そう言うとフドウはルルカの手を強く握った。

 しばらくすると再び振動が始まった。

「二回目……どうなっているのかしら……」

 四人は待つしかなかった。

 

「何だよあれ!?」

 ボーガンが迫って来る壁を見て声を上げた。

(そこまで早くないですが、数分で床がなくなりそうですね……)

 壁は少しずつ動いていた。

「とにかく何か手掛かりを探しましょう!」

 部屋が揺れており、穴を挟んで離れているため、

 声を上げなければ向こう側に届きそうにない。

「さっきの言葉が何かヒントだと思います!

地獄の底について探してみましょう!」

「底って……この穴に落ちろってことかよ!」

「まだ時間はありますから考えましょう!」

 ボーガンとフラットは正面の壁を探し始めた。

「フラットさん何か見つかったか!?」

 正面の壁を探りながら叫んでくる。

「ありません!」

(この壁もどこか開きそうなんですが、鍵穴がありませんね……)

 移動する壁は段々と近づいてくる。

(やはりあの穴のほうですかね)

「少し穴も見てきます!」

 フラットが穴の方へ近づく。

(暗くてあまり見えませんね)

 フラットは地に伏して穴の中を覗き込んだ。

(下の方は針山しかなさそうですね……壁面は……)

 穴から地上までの間の壁面は岩肌であった。

(ここは人工物でないのですね……おや?)

 フラットが岩を見ていると幾つか穴のようなものが開いている。

(岩にも穴はあるでしょうが、もしかすると……)

「ボーガンさん!」

「なにかあったのか!?」

 ボーガンが穴の方に近づいてきた。

「ここの壁が岩になっているんですが、

幾つか小さな穴が開いているんです!」

「それがどうかしたか!」

「もしかすると鍵穴があるかもしれません!」

「鍵穴……そうか!探してみる!」

「落ちないように気を付けてください!」

 そうしてふたりは鍵穴を探し始めた。

(これで見つかるといいのですが……)

 移動する壁は部屋の三分の二ほど移動していた。

「これじゃないか!?」

 ボーガンが見つけたようだ。

 部屋の入口に近いあたりの壁に鍵穴のような穴があった。

「こちらにもありました!」

 両方同じ位置にあったようだ。

「差さったぜ!」

「こちらも差しました!同時に回しましょう!」

「おう!じゃあ、いちにのさんでいくぜ!」

「はい!」

 そうしてボーガンがカウントを始めた。

「いちにの……さん!」

 カチッ

 同時に鍵を回した。すると移動する壁が止まった。

(正解ですかね……)

 移動する壁が元の位置に戻っていき、奥の扉が開いた。

「やったぜ!」

 ボーガンが立ち上がりガッツポーズをとる。

「次の部屋もなにかありそうですね……」

 フラットも立ち上がりながらそう呟いた。

「次の部屋に行くか?もう戻れそうにないしな」

 ボーガンはもう次へ行く気のようだ。

「そうですね……あ!次の人もここに来るかもしれないので、

目印を置いておきませんか?」

「目印?」

「はい、この鍵穴の位置がわかるように」

「それはいいな!となるとこの後も俺たち次第か!」

 ボーガンも同意してくれた。

(警告などもないですし、大丈夫ですよね……)

 若干不安であるが次の人達のためにヒントを残すことにした。

 床を削ろうとしたが駄目だった。

「駄目だ、硬すぎて傷つかない!」

 ボーガンも諦めたようだ。

「とりあえず目印に何か置いていきますかね」

「そうだな!俺はこの憲章にする!」

 そう言うと服に着けていた憲章を外し、床に置いた。

「いいんですか?」

「大事なもんだが、今の持ち物で目立つものと言ったらこれだしな!」

(この人はいい人のようですね)

「では私は……」

 フラットはマントコートを脱ぎ、床に置いた。

「フラットさん!?そんなの置いて行っていいんですか!?」

「まあ、目立ちますし脱いでも服は着ていますしね」

「そうかい、じゃあ行こうか」

 目印を残すとふたりは再び奥の部屋に移動した。

 

 部屋に入るとまた何もない部屋だった。

 ただし最初から部屋と部屋の間は穴が開いていた。

「これは……また扉を閉めたら開始しそうですね……」

 フラットがそう言うと

「先に鍵穴がないか見ておこう!」

 ボーガンが再び穴の壁を探し始めた。

「そうですね」

 フラットも探し始める。

 しばらく探したが、先ほどのような鍵穴は見当たらなかった。

「なさそうだな……」

「二回同じ謎解きな訳はないですよね……」

 予想はしていたが見つからなかった。

「どちらにせよ、また針山に襲われるような気がします。」

「俺もそんな気がする」

 ふたりは諦めて入り口の扉を見つめる。

「そろそろ閉めますか?」

「俺はいいぜ、もう覚悟した」

「では閉めましょう」

 ふたりとも入り口の扉を閉めた。当然もう開かなかった。

 機械音が鳴りだす。

(次はどう来ますかね)

「――幸運を祈る――」

「意味が分からん!」

 ボーガンが誰かに疑問を投げかける。

(幸運?ヒントでしょうか?)

 ゴゴゴゴ

 あたりが揺れ始めた。

「やっぱりこのパターンかよ!」

 ボーガンが叫ぶ。

 今度は閉めた扉の壁が上がり始めた。

 同時に奥の壁も上がり始める。

 そして後ろから針の壁が迫ってきた。

(今度は後ろからですか……)

「何だよこれ!」

 ボーガンの声がしてから奥を見ると、鍵穴が大量にある壁だった。

(まさか運試しをしろと……?)

「とりあえず片っ端から差していくしかない!」

 ボーガンは鍵穴を端から差し始めた。

 移動する壁が先ほどより早い。

(考えるより先に差してみた方がよさそうです)

 フラットもボーガンの反対側から差し始めた。

 鍵穴は全て同じに見え、差さりはするが回らないため、

次の穴を試すのは容易だった。しかし数が多い。

「くそっ!多すぎだろ!」

 ボーガンが愚痴をこぼす。

(ざっとみただけでも数百はありますね……)

 しばらく試していたところ

 カチッ

「やった!」

 ボーガンが当たりをみつけたようだ。

「ありましたか!」

「ああ!場所は……上から十……左から二十だ!」

「わかりました!」

 ガキンッ

 鍵が合わないようだ。

「駄目です!違うようです!」

「間違えてるんじゃないのか!?上から十、左から二十だ!」

「合っています!その周りも違うようです!」

「クソッ!同じ場所じゃないのかよ!」

 喜んだのも束の間、再びフラットは探し始めた。

 ボーガンはすることがなくなり、迫って来る壁を見ていた。

「おい!もう時間がないぞ!」

「わかってますが、探すしかないですよ!」

 そうしているうちに壁がすぐ後ろまで迫っていた。

「もう駄目だ!そうだ!この穴の壁にぶら下がれば

避けられるんじゃないか!?」

 ボーガンはそう言うと穴の壁にぶら下がった。

「フラットさんも早く!」

「もう少し探してみます!」

 そろそろ移動する隙間もなくなりそうである。

(どうやらここまでのようですね……)

 フラットは鍵穴に差し続けるが、すでに針山に接触していた。

「すみません、ボーガンさん……」

 フラットの体は後ろから串刺しになった。

 針自体はそれなりに大きい。

「フラットさぁぁん!」

 ボーガンが叫ぶがフラットは既に血塗れである。

 そして移動する壁も止まらない。

「腕がやばい……」

 ぶら下がっているボーガンも大分疲れてきたようだ。

「このままいけば針の分は隙間になるはず……」

 ボーガンの予測通り、針が壁に接触すると

一瞬停止したように思えた。

「さて、これから……」

 ボーガンはこの後の行動を考えようとしたが、

壁はさらに動き出した。

「嘘だろ!」

 壁が壁を押し始めたようだ。

「ふざけるな!」

 ボーガンの叫びを聞くものはいない。

 そして、壁は隙間を完全になくした。

「くっそぉぉぉ……」

 ボーガンは穴の中に落ちていく……

 ザシュッ

 下の針山に突き刺さった。

「……上でも下でもどっちみち死ぬんじゃねぇかよ……」

 そうしてボーガンは死んだ。


「さっきから何回も揺れたり止まったりしているが、

奴らはどうなったのだ?」

 待つのに耐えられなくなったのかアトラが問いかけた。

「さあ、少なくとも動きがある間は生きているんじゃない?」

 仕方なくイザが答えるとついに扉が開いた。

「開いたぞ!次は誰が行く?」

「……そもそもふたりは無事なのかしらね」

 全員口を閉ざした。

「……仕方がないな、次は私が行こう」

「えっ……」

 フドウが提案するとルルカが声をあげた。

「ここにいても仕方がないのでね、次に行く気がないので

あれば私が行くつもりだ。ルルカ君はどうする?」

「……行きます」

 ルルカは仕方なく同意した。

「そうなるわよね、どうぞいってらっしゃい」

 イザは見送るように手を振っている。

「では次を待つとするか」

 アトラも見送るようだ。

「じゃあ、行こうか」

 フドウはルルカの肩に手を置き、ボーガンが入った方へと進んでいった。

 ルルカも急いでフラットが入っていった方へと進んでいく。

 先のふたりと同様に奥の部屋に入ると同様の部屋があった。

 フドウの部屋の床にはボーガンの憲章が

ルルカの部屋の床にはフラットのマントコートが置いてあった。

 その後フドウとルルカが扉を閉めると、

 ゴゴゴゴ

 あたりが揺れ始めた。

「きゃあっ」

 ルルカが驚いて尻もちをつく。

 隣の部屋との間の壁が上に登り、間の床に穴が出来た。

「ルルカ君!無事かね?」

「はい、フドウさんも大丈夫ですか?」

「問題ない、こちらにはボーガン君の持ち物があったんだが、

そちらには何かなかったかな?」

「フラットさんの服が置いてありました」

「なにかあったということか……」

 フドウが考えていると機械音が鳴りだした。

「――地獄の底に近づけ――」

「地獄の底……」

 ルルカが穴の底を覗き込んだ。

「ひっ!」

 穴の底に針山を見つけたようだ。

 ゴゴゴゴ

 再びあたりが揺れ始めた。 

 両端の壁が上がり、奥から針の壁がこちらに迫ってきた。

「きゃあっ」

 ルルカが再び驚いて尻もちをつく。

「ルルカ君!フラット君の服はどこにあったのだ!?」

 ルルカは置いてあった床を指さす。

「ボーガン君の持ち物もその辺りにあったのだ!そこを探ろう!」

 フドウがそう言うと、ルルカは床を探し始める。

「何もないです!」

「穴の方も見てみるんだ!」

 フドウにそう言われ、穴の壁を見た。

「鍵穴が!」

「そうか!こちらにもあった!」

 ふたりは穴の壁に鍵を差し込んだ。

「鍵の種類が違うはずだが、果たして……」

 鍵が三種類あった事に不安を覚えながらも

「同時に回すぞ!」

「はい!」

「君に合わせよう!」

「じゃあ、いっせーの、で!」

「わかった!」

 そうしてふたりは鍵穴を見つめる。

「いっせーの……せっ!」

 カチッ

 同時に鍵を回した。すると移動する壁が止まった。

「やった!」

 ルルカが嬉しそうな声を上げる。

 移動する壁が元の位置に戻っていき、奥の扉が開いた。

「なんとかなったようだ、ふたりのおかげだな」

「はい!あとでお礼を言わないと!」

「そうだな、とりあえず同じように置いておこうか」

「あ、そうですね!」

 フラットとボーガンの目印を元に戻し、奥の部屋に移動した。

 

「この部屋には……彼らの物はないようだね」

「こっちにもないです……」

 次の部屋には何もなかった。

「ここは最初から穴が開いているのか……」

「また針に襲われるの……?」

「そうだろうね……おや?」

「どうしたの?」

「穴の中になにかある……」

「中に……ひっ!」

 ルルカが驚いて後ろに倒れた。

「あれは……ボーガン君か……フラット君は見当たらないな……」

 フドウが穴の中を見渡す。

 暗くてはっきりとは見えないが、服装からボーガンとわかる。

 上を向いて全身が針に貫かれていた。

「どうやらここは突破できなかったようだ……

フラット君はまだ生きているかもしれないが……」

「うぅ……私も死んじゃうのかな……?」

「まだわからない、ともかく進むしかないな……」

 そうしてルルカが泣き止んだ頃

「おそらくこの扉を閉めると次が始まると思うが大丈夫かい?」

「……はい、覚悟しました」

「わかった、閉めるよ?」

 ふたりとも扉を閉めた。

 機械音が鳴りだす。

「次のヒント……?」

 ルルカは謎の声がヒントを言うと思っているようだ。

「――幸運を祈る――」

「え?どういうこと……」

 ルルカが疑問の声を上げる。

「ヒントではなさそうだな……」

 ゴゴゴゴ

 あたりが揺れ始めた。

「また揺れだした!」

 閉めた扉の壁と奥の壁が上がり始め、後ろから針の壁が迫ってきた。

「きゃあぁぁぁっ!」

 ルルカが悲鳴をあげた。

「どうした!何があった!?」

 フドウが驚いてルルカに問いかける。

「あ……あれ……」

 ルルカが指さす方向を見ると針の壁が迫ってきている。

 針にはフラットが串刺しになっていた。

 後ろから串刺しにされたようで体中から針が飛び出していた。

「フラット君も駄目だったか……」

 フドウはふたりがここを突破できなかったと知り

「ルルカ君!ともかくここをなんとかするんだ!」

「でも……」

「このままだと死ぬぞ!」

 フドウの言葉にルルカは立ち上がった。

「……死にたくない!」

 そう言うと奥の壁へ走った。

「鍵穴がたくさんあります!」

「こちらも同様だ!おそらくどれかが正解なのだろう!」

「どうすればいいですか!」

「……とりあえず、手当たり次第に探すしかない!」

 そうしてふたりは鍵穴に差し込み始めた。

「うぅ……こんなの無理だよぅ……」

 ルルカは諦めつつ探し続けた。

 針の壁は近づいてきている。

「駄目だ……多すぎる」

 フドウが諦めの言葉を口にする。

「そっちはどう……」

 ルルカに声をかけようとした時だった。

カチッ

「やった!」

「……っ!もう見つかったのか!?」

 ルルカが鍵穴を見つけたようだ。

「はい!下から三番目で、左から……二十番目です!」

「よし!やってみる!」

 ガキンッ

「駄目だっ!鍵が合わない!」

「そんな……」

 ルルカの顔が希望から絶望に変わる。

「もう少し探してみます!」

「早く!もう後ろまで来てる……ひぃっ!」

 ルルカが後ろを見ると針の壁と共にフラットの死体が

近づいてきていた。

 フラットの顔は無事のようで笑っているように見える。

「早くしてぇぇ……」

「どっちを怖がっているのやら……」

 ルルカの様子を見ながらフドウが呟いた。

カチッ

「あっ!見つかったぞ!」

「ほんとっ!?」

 壁の動きが止まり元に戻っていった。

 針の壁と共にフラットも引いていく。

「フラットさん……さようなら……」

 ルルカがフラットに別れを告げた。

 そして奥の扉が開いた。

「扉が開きましたね」

「まだやるの……」

 仕方なくふたりは奥の部屋へ進んだ。

 

 奥の部屋は細い一本道になっていた。

「なにこれ……」

 道は片足分の幅しかない。

「また穴……」

 ルルカは穴の下を見ずにそう呟いた。

 部屋の間には再び穴が開いており、

当然のように下には針山がある。

「これは嫌な予感しかしないな……」

 フドウが部屋の奥を見ると壁があるだけだ。

「少し奥を見てくるよ」

「気を付けてね……」

 フドウが足元に気を付けながら奥へ進んでいく、

壁を調べるが何も無さそうだったのを確認し、戻って来る。

「やはりこの扉を閉めてから始まるのだろう」

「そうだよね……」

「何が始まるかはわからないが、ひとまず私の方の扉を閉める。

次に私が奥まで行くから、ルルカ君はその後扉を閉めてくれ」

「なんでそんなことをするの?」

「奥で何かあるなら先に調べられると思ってね」

「わかりました……気を付けてね?」

「ああ」

 フドウは扉を閉めると慎重に奥へ歩いて行った。

「着いたぞ!」

「じゃあ、閉めます!」

 ルルカが扉を閉めると、機械音が鳴りだした。

「――裁きを潜り抜けよ――」

「裁き?何が起こるの……」

 ルルカが疑問を口にすると部屋が揺れ始めた。

「さて、どう来るかな……」

 ゴゴゴゴ

 今度は横の壁が上がり始めると刃物らしきものが見えてきた。

「これは……」

 刃物が入り口側には無さそうなのを見るとフドウが急いで戻った。

「フドウさん、あれって……」

「おそらく動き出します。奥はまずそうですね……」

 壁が上がりきると刃物が動き出した。

 ズォン

 刃が通過すると風切り音が鳴る。

「これでなにをするの……」

 刃が交互に左右から来るため入り口から動けない。

 ゴゴゴゴ

 さらに部屋が揺れ始め、奥の壁が上に上がる。

 奥に出てきたのは最初と同じ三種類の鍵穴だった。

「えっ?この中を進んで鍵を差すの!?」

 ルルカが刃を目で追いながらそう叫んだ。

「そういうことでしょうね……鍵穴の手前まで刃がありそうなので、

開けてから戻って来るか、同時に開ける必要がありそうです」

「そんなぁ……」

 ルルカがしゃがみ込んで頭を抱える。

「他に方法があればいいんですが……

今回は時間制限がなさそうですね」

「そんなこと言っても……」

 話している間も刃は淡々と動き続けている。

 部屋の変化がないため考える時間はありそうだ。

「わかりました。先に私が奥へ行って見せます」

「行けそうですか?」

「見てください、刃が通り抜けた後に少し間があります。

そこを繰り返し移動すれば着くはずです」

「一回でも失敗したら……」

「信じてください」

 そう言うとフドウが一歩ずつ進んでいった。

(フドウさん、死なないで……)

 ルルカは心の中で祈っていた。

 フドウの言った通り、少しずつなら移動できるようになっていた。

「もう少しだよ!がんばって!」

 ルルカの声援に手を挙げて答え、ついに鍵穴の前に到着した。

「早く!」

 フドウが鍵穴に差すが、穴を間違えたようで差し直している。

「危ない!戻って!」

「よし!差さりました!うわぁっ!」

 鍵穴に差したところで刃が迫ってきて、フドウが足を滑らせた。

「フドウさん!」

 ルルカの叫びも虚しくフドウが落ちていく。

 刃は当たらなかったようだ。

「フドウさぁぁん!」

 ルルカがその場に伏せて叫んだ。

「……ルルカ君」

「フドウさん!?」

 ルルカが声の方向を見るとフドウが指をかけてぶら下がっていた。

「どうやら指だけなら切られないようです……

長く持ちそうにないので、早くお願いします……」

 確かに指はかろうじて当たっていないが、

登ろうとすれば当たりそうな位置である。

「フドウさん!待ってて!今行きます!」

 ルルカは急ぎながらも慎重に一歩ずつ進みだした。

「ルルカ君、がんばれ……」

 そうしてルルカも鍵穴に到着した。

「フドウさん!どの穴!?」

「……右端だ!」

 カチッ

 鍵穴がはまった音がした。

「やった!これで止まるはず!」

 ルルカが嬉しそうにフドウを見た。ちょうど表情が見える位置だった。

「あれ……?」

 ルルカが後ろを振り向くと刃が迫ってきていた。

 ザシュンッ

 ルルカの体を刃が容赦なく切り裂く。

 刃の切れ味は鋭く、止まることなく通過していった。

 少し鍵穴から下がっていたため、肩口から股下まで切断され、

倒れていたところに、反対側から来た刃が襲った。

 そうして何度か刃に切り刻まれ、最後には下の穴へと落ちて行った。

 フドウの指の力も限界であった。

 

 ――ルルカが死ぬ少し前

「遅いっ!」

「落ち着きなさいよ?多分順調なんでしょ」

 看板前に残されたふたりは、最初のふたりよりも長い

待ち時間を持て余していた。

「こんなことなら先に行くのだったな……」

 アトラが今更になってこんなことを言った。

「この手の状況は後の方が有利なことが多いのよ?」

「そうは言うがな……」

(それにしても先行組の状況がわからないんじゃ有利かどうか微妙ね)

 イザも内心では先に行くべきだったか思案していた。

 ようやく扉が開いた。

「ようやくか!」

「どっちに行く?私はどちらでもいいわ」

「俺はこっちだ!」

 アトラはボーガンが入った方へと進んでいった。

「さて、あいつらどうなったかしらね……」

 自分たちの番が来たことに不安を抱きながら中へと入っていった。

 フドウとルルカが扉を閉めると、

 ゴゴゴゴ

 アトラとイザの部屋の間に穴が出来た。

「こっちにはフラットの服が置いてあったわ」

「こちらはボーガンの持ち物が置いてあった!」

 そうして互いに置いてあった場所を指さす。

(同じような位置に置いてあったのね)

 イザがどういう意味か考えていると機械音が鳴りだした。

「――地獄の底に近づけ――」

「底!?穴の中だな!」

 アトラが穴の底を覗き込む。

「置いてあった場所が怪しいわ!」

「だろうな!」

 アトラが穴の壁に鍵穴を見つけ、差し込んだ。

「あったぞ!こちらは差した!」

(急ぎ過ぎよ!大丈夫かしらね……)

 イザも続いて鍵穴を見つけ、差し込んだ。

 カチッ

 移動する壁が止まった。

「よし!」

 アトラが勝ち誇った声を上げる。

 移動する壁が元の位置に戻っていき、奥の扉が開いた。

「余裕だったな!」

「置き土産が役に立ったわね、この後もあるといいけど……」

 イザははマントコートを羽織り、アトラは憲章を持ったまま

奥の部屋に移動した。 


 部屋に入るとふたりはすぐに穴の中を見渡した。

「穴の中にボーガンの死体があるわね」

「やはり他の奴らは全滅したということか!?」

「でしょうね、気を抜くと私達もこうなるわよ?」

「俺は死なん!」

(こいつの謎の自信も行動で証明してくれるといいけど……)

 扉を閉め、機械音が鳴りだす。

「――幸運を祈る――」

「俺は運がいいぞ!」

「幸運ね……」

(ここにいる時点で運が悪いと思うけどね)

 ゴゴゴゴ

 あたりが揺れ始めた。

 閉めた扉の壁と奥の壁が上がり始め、後ろから針の壁が迫ってきた。

「もうひとり死んでるわ!」

「フラットか!?」

 串刺しのフラットが壁と共に迫って来る。

「ええ!気にせず先に行くわよ!」

「そうだな!壁に鍵穴がたくさんあるぞ!?」

「こっちもあるわ!とりあえず差してみましょ!」

 イザが目の前の鍵穴に差し込んでみると

カチッ

「あったわ!」

(こんなに早くみつかるものなの?)

 イザが疑問に思っていると

「こっちも見つかった!互いに運がいいようだな!」

 アトラも見つけたようで壁の動きが止まり元に戻っていった。

 針の壁と共にフラットも引いていき、奥の扉が開いた。

 イザは振り返ることなく次の部屋に進んでいった。


 部屋は細い一本道になっていた。

「ほう……」

「ここは危なそうね」

 イザが道幅と穴の底を覗き込んでそう言った。

「誰か下にいるぞ!」

 アトラが穴の底に人を見つけた。

「そっち側は……フドウじゃないの?」

「そのようだな……はっきりとは見えんが死んでいるだろう」

「それはそうよね……」

 アトラが見つけたのでイザも穴の中を見渡す。

「そっちにはいないか!」

「……人の手と足が見えるわね」

「顔は見えないのか!?」

「手足が離れた位置にあるわ、おそらくルルカでしょ」

 イザは穴の中にバラバラの四肢を見つけた。

「やはり俺たちだけのようだな」

「ここはまだ誰もクリアしてないのね……」

「問題ない、俺たちが解けばいいだけだ」

 そう言ってアトラは扉を閉めた。

「その通りね」

 イザも扉を閉め、機械音が鳴りだす。

「――裁きを潜り抜けよ――」

「裁き、ね……」

 ゴゴゴゴ

 横の壁が上がり始め刃物が見えてくる。

「何だあれは!?」

 フドウが壁の奥の刃物を見ると叫んだ。

 壁が上がりきると刃物が動き出す。

 ズォン

 刃が通過すると風切り音が鳴る。

「まだあるわね……」

 ゴゴゴゴ

 奥の壁が上がり、三種類の鍵穴が出てくる。

「あの鍵穴に差せば良さそうだな!」

「そうね、あれを避けながら同時に差せばいいんじゃない?」

「わかった!行くぞ!」

 アトラは進み始めたが急いでいくことは出来ない。

 イザも同様に進み始める。

(ペースが合わせやすくて良かったわ)

 あっという間に奥に到着すると鍵穴に差した。

 カチッ

 刃が空中で止まり、奥の扉が開いた。

「ここも余裕だったな!」

「そうね……」

(あの死体を見る限り子供が足を引っ張ったようね、

組まなくて正解だったわ)

 そうしてふたりは次の部屋へと進んでいった

 

 部屋は再び何もない部屋だった。

 しかし再び部屋の間には壁があり、隣と連絡がとれそうにない。

 アトラとイザは入り口に戻ると外で顔を合わせる。

「次は分かれるようだな」

「ええ、また間の壁が無くなるとも限らないわ」

 さすがに警戒しているようだ。

「どうする?ここを閉めるまで何も始まらんようだぞ?」 

「そうでしょうね、準備がよければいつでもいいわよ?」

「そうか、ではあとでな」

 アトラが扉を閉めた。

(あとで、ね?そうなるといいけど)

 イザも遅れて扉を閉めた。

 ゴゴゴゴ

 奥の壁が上がり扉が三種類あった。

 それぞれに鍵穴がある。

「――選択を揃えよ――」

「揃えよだと!?隣のイザとか!」

 迷わず真ん中の扉に鍵穴を差すと扉が開いた。

「開いたな!」

 次の部屋も何もなかった。

「イザはまだか!」


 一方隣では

(揃えるっているのは、隣のアトラとよね)

 扉を観察したところ、特に違いはなさそうだ。

(あいつのことだから真ん中でも選びそうね)

 行動を予測し真ん中の扉に鍵穴を差す。扉は問題なく開いた。

(正解?まだ油断できないわね……)

 警戒し次の部屋に入るイザ。

(何もない部屋ね……アトラの動き待ちかしら)

 しばらく待ってから、ふたりが扉を閉めた時だった。

 ゴゴゴゴ

(やっぱり閉めてから動き出したわね。どこかしら?)

 周りを見渡すが壁は動いていない。

(となると……上?)

 そうして上を見上げると天井が下りてきていた。

「まさか!?押し潰す気!?」

 今回は針山でなく平らな天井のままだった。

(アトラの選択が違ったというの……?それよりもこのままじゃ……)

 何かないか部屋の中を探るが何もみつからない。

 そうしているうちに天井は真上まで来ていた。

(もう時間がない!)

 しゃがんで床に何がないか探していたが、ついに動けなくなる。

「いや……」

 伏していたが胸があるため、体が先に押さえつけられた。

(苦しい……)

 顔は横を向いている。

 肋骨が折れ、頭骨にひびが入る。

 臀部も押さえつけられ、骨盤も潰れ始めたが、

もはや全身が痛みを伝えてきていてどこが痛みの原因かわからない。

(こんなことなら、針で死んだ方がましだったわ……)

 そして頭骨も割れ、頭が潰れだした。

 心臓はまだ動いているため、残念なことにまだ意識がある。

(もう早く殺して……)

 イザの願いはすぐには叶えられなかった。

 天井の速度は遅く、死を覚悟してからの時間が長かったのである。

 そうして最後まで苦しみながらイザは死んでいった。

 

 アトラは下りてくる天井を一度だけ見て仁王立ちしていた。

(失敗したのか?この俺が!そんなはずはない!)

 いずれ止まると思っているのか立ち尽くしていた。

 そうして頭上に天井が迫ってきた。

「なんだと!」

 天井を止めようと両手で押さえるが当然勢いは止まらない。

「ふざけるなっ!」

 叫びは誰にも聞こえることなく、アトラを押し潰していく。

 膝をつき、ついには床に伏せるしかなくなる。

「こんな死に方は認めんぞ!」

 うつぶせのまま天井に抗おうとするが、支えていた腕と足が折れた。

「ぐぁっ!」

 折れた状態で押し潰されていく。

「ここまでか……」

 ついに諦めたのか目を閉じ最後の時を待つ。

 頭が潰され始めたが、それ以上声をあげずにアトラは死んだ。

 

 かくして参加者はいなくなる。

 しばらくすると全ての場所で機械音が鳴りだした。

「――ゲームは終了となります――」

 各部屋の間の扉が全て開く。

 穴の中で倒れていたフドウが目を開けた。

 隣のルルカの死体を確認する。

 その後、壁に手を当てて登っていく。

 手が張り付くようになっているようだ。

 奥の部屋へ行き何かを操作した。次の部屋の天井が上がっていく。

 そうしてイザとアトラの死体を確認する。

 ふたりとも完全に潰れており原型を留めていない。

 かろうじて四肢の位置がわかる程度である。

 元の部屋に戻り、手前の部屋へ行き、

穴の中へ壁に手を合わせ下りていく。

 串刺しのボーガンの死体を確認すると、

再び壁を登り、何かを操作した。

 後ろの壁が上がり、針山の壁が出てくるが移動はしてこない。

 針山にはフラットが串刺しにされている。

 フラットに近づき観察する。

 気が付くとフラットと目が合っていた。

「……?」

 フラットの目に光が宿りだし、口を開いた。

「……あなたでしたか」

「……っ!」

 フドウが後ろに飛び退く。

「フラット君、生きているのですか?」

「ええ、この状態で移動させられるのは大変でした……

それにしてもすごい笑顔ですね?まるで別人のようです」

 フドウは笑顔だった。

 死体を見回っている間中ずっとこの表情であった。

「そうらしいね、死ぬ瞬間を見るとこうなってしまうんだ」

「それはなんとも……」

「先ほどもルルカ君が死ぬ直前にこうなってしまってね、

彼女も困惑していたようだ」

「ルルカさんはあなたが死に追いやったんですか……?」

「当然だろう?私は人が死ぬ瞬間がみたいんだ!」

「……それにしては、他の人の死に際は見れていないようですが」

「ああ、実に残念だ……だが、全員死ぬところで

生きていると疑われやすいのでね。我慢して毎回ひとりで

楽しむことにしているのだ」

「……それは用心深いですね。ですが何故自ら参加を?」

「もちろん間近で見るためだよ!」

(この設備にはカメラは無さそうですしね)

 フラットはそれらしきものがないことから、

カメラ技術はこの設備にないと断定した。

「ちなみにここをクリアした人はいますか?」

「いないですよ、これは生きて出ていくゲームではなく、

どう死ぬかのゲームですからね」

「それは悪趣味ですね」

「だから君も死んでいるはずなんだが、何故生きている?」

「体質上、そう簡単には死なないものでして、首謀者が

確認に来るのを待っていました。」

「……私が目的だと?」

「そうなりますね。」

 フラットが動き出す。

「私を殺しに来たのか?」

「最終的にはそうなりますね」

「それは困るな」

 フドウはフラットが再生している間に穴の中へと下りて行った。

(逃げますか……)

 針から抜け出し、傷口を血液で塞ぐ。

(頭は避けていましたが、さすがに長時間あの状態では……)

 それなりの量の血液を失っていた。

 交易都市ボーデンでの一件後、フラットは傷を負った直後に

攻撃に転じる反射行動を抑える訓練を行った。

 その甲斐もあって、隣で見ていたボーガンや間近で見た

ルルカ、イザにも生きていると知られることは無かった。

死んでいるわけではないので、調べられれば気付かれたであろうが、

わざわざ触るものはいなかったため、死んだふりを続けることができた。

まさか死んだ状態であそこまで移動させられるとは思わなかったが。

「まずは追いかけますかね」

 ある程度体が落ち着くと血液をロープ代わりにして、

穴の中へと下りていく。

 フドウの消えた辺りを探すと抜け道らしきものがある。

(穴に落ちたら死にますから、ここなら見つからないということですか)

 フドウの後を追い隠し通路に入った。

 

 そこは薄暗いがそれなりに広い道であった。

(どこに出ることやら……)

 フラットのいる辺りに灯りが点いた。

 暗くてよく見えないが奥に何かいる。

 機械音が鳴りだす。

「――フラット君、どうかそこで死んでください――」

 フドウの声だ。

 ゴゴゴゴ

 隠し通路の入口が閉ざされた。

(退路を断ちましたか、何が来るか……)

 奥の灯りが点いた。

(あれは……)

 そこにあったのは機械だった。

 四足歩行で砲塔を備えていた。

 直線の道しかないこの場所で逃げ場はない。

 砲塔がこちらを向いた。

(……まずいっ!)

 咄嗟に血液の壁を前方に展開した。

 ドカンッ

 砲弾が発射された。

 バァンッ

 血液の壁と共に爆発する。

(一応、防げますか……)

 この弾速は避けられそうにない。

 ドカンッ

 二発目の砲弾が発射された。

 合わせて血液の壁を展開する。

(これは私の方が持たないかもしれませんね……)

 このまま壁を形成し続ければ血液が持たない。

(消耗戦になる前に壊しますか!)

 壁が破壊されると同時に次の壁を展開し、

フラットが砲塔に向かい走り出す。

 三発目の砲弾が発射された。

(やはり操作はしていないようですね)

 フラットが向かってきても、

対応が変わらないことから判断する。

 そうして五発目の砲弾が壁を破壊した時に、

砲塔の前に到着した。

(次弾が発射される前に……)

 砲塔に手をかざし血液を注入し凝固する。

(これで頼みますよ)

 血液が完全に固まったのを確認しその場から離れる。

 バァァァンッ

 砲塔が爆発音と共に爆ぜた。

 四足を傾け崩れ落ち、沈黙した。

「なんとかなりましたね……」

 血液を大分消耗したため、膝をついた。

(まだ動ける分は残っています)

 標的を追うため出口へと進む。

 

 フドウは管制室にいた。フラットの想定とは異なり

各部屋の様子を確認できるモニターがあった。

 砲弾の発射音が断続的に聞こえてくる。

「フラット君が死んでくれていればいいが……」

 退路を塞がれた道であの砲塔に対峙すれば、

まず生きているはずはないと思いながら、不安でいた。

「あの状態で生きていたならばあるいは……」

 バァァァンッ

 遠くで大きな爆発音がした。先ほどまでの砲撃音よりも大きい。

「まさか……」

 隠し通路にはモニターが付いておらず様子がわからない。

 かといって今から見に行くのも危険である。

 どのみちあれを壊せるような相手であれば逃げられはしないだろう。

 フドウはその場で管制室の扉が開かないことを祈った。

 

 ガチャッ

 管制室の扉が開くと体中が穴だらけのフラットが現れた。

 正確には穴の部分は血液で膜を張っている状態である。

「もう笑っていないんですね?私はフラフラでおかしいぐらいですよ」

 フラットが壁に寄りかかりながら笑っている。

「あとは私を殺すだけか……」

「そうなんですが、少し話を聞きたいですね」

「話?ゲームの目的でも聞きたいのか?」

「いえ、殺人鬼の動機など私にはどうでもいいことです」

「……では、何を?」

「この施設やあの機械はどうやって手に入れましたか?」

「……それが目的か」

「仕事のついでですよ。'リヒト'という少年は知っていますか?」

「……知らんな、俺にここをくれた相手の名前は知らないが

少なくとも少年ではなかった」

「そいつはどんな感じでしたか?」

「マスクをしていたから顔は良く分からなかったが、黒髪の男だったな」

「それだけですか?」

「すまないな、向こうから私に接触してきたのでよくは知らないのだ」

「……それで、よく引き受けましたね」

「私としてはメリットしかなかったからな」

「もう十分ですかね?死んでもらいますよ」

「それなりに楽しめたので私は満足だよ」

「さようなら」

 フラットが血液を刃化し、フドウの首を刎ねた。

 切られたフドウの表情は満足気だった。

(リヒト以外にも危険な人間がいそうですね……)

 フドウの死体を捨て置き部屋を離れる。

 手掛かりは見つからなかったが、関係者らしきものが増えた。

 ひとまず置いてきたマントコートを拾いに行く。

(確か……イザさんが着ていましたね)

 途中でルルカであろうバラバラの死体を見つけた。

(これは……フドウに嵌められたのでしょうか……)

 顔らしき物体は髪が見えたのでかろうじてわかる状態である。

(ペアになったルルカさんが一番悲惨だったかもしれませんね……)

 さらに奥へ行くとマントコートが見つかった。

 ただし、プレスされたイザと共にである。

「これは……ひどいですね……」

 そう言いながらも死体から服を剥ぎ取っていく。

 色が赤いため、イザの血もそこまで際立たない。

「このぐらいならまだ着れますね」

 イザの骨は砕けていたが、マントコートは破れていなかった。

「特殊な材質なのでこれで助かる人がいればと思ったのですが、

押し潰されるのは想定外でしたね……」

 目印に置いて行ったのもこのためだったが無駄であった。

「それにしても、生存者のいないゲームとは……

ここの情報はどうやって入手したのか」

 フラットは依頼から施設でゲームが行われることを知っていた。

 相変わらず出どころがわからないが。

「さて、あとは私の荷物ですね」

 再び隠し通路を通り、部屋を探すとすぐに見つかった。

「早く見つかって良かった」

 見つけてすぐに液体の薬品を取り出し飲み込む。

「危うくまた気絶するところでした」

 次第に顔色がよくなっていく。

 造血剤である。フラットのような体質には必需品となる。

「さて、もうここに用はないですね」

 落ち着いた後、出口らしき場所へと向かった。

 

 外へ出ると日差しが強い。

「真昼ですか……」

 辺りは何もない土地だった。

 緑のない荒野である。

「近くに都市はなさそうですね……歩くしかないか……」

 そうして歩きだした直後

 ボンッ

 フラットの足元が爆発した。

(逃げ出した者へのトラップ!?)

 足は膝から下が無くなっていた。

(とりあえず止血を!)

 傷口を血液で止める。

 フラットの膝から下の足のパーツは周りに散らばっていた。

「ようやく釣れたか?」

(誰の声ですか!?)

「ここを生きて出てきたってことはマーダーキラーだよな?」

(目的は私ですか……)

 岩陰からマスクをした黒髪の男が出てきた。

「今からお前を殺す」

 


 

……命がけのゲームだったのか。何故先にそのことを言わない?

聞かれなかったから?時と場合という言葉を知らないのか?

命がけであれば尚更真剣に取り組めたことだろう。そこは良かったな。 

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