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束の間の休息

今日はなんだ?休みたいって?勝手にすればいいだろう。

なに?仕事がある?終わらせればいいだろう。終わったら次が?

では終わっていても終わっていないことにする。とか?

 目が覚めるとベッドの上だった。

(何故このような状態に?)

 体は動くようだ、フラットは起き上がった。

(宿屋の部屋のようですが、アリスが落ちたあとの記憶が……)

 フラットがあの後どうなったかを思い出そうとしていると

「あら、起きたようね」

 宿屋の主人であるメーアに声をかけられた。

「すみません、私はいつベッドに?」

 問いかけた後、自分が見知らぬ服装であることに気が付いた。

(いつ着替えたのでしょうか?)

「フラットさん、家の屋上で倒れていたのよ?」

「え……屋上ですか?」

「そう、洗濯物を屋上に干そうと上がるとフラットさんが倒れていたの」

「……どんな状態でした?」

「倒れていたのにも驚いたのだけど、着ている服が血塗れだったのよ。

でも何故か体の方には傷がなくて……」

(傷の修復は見られなかったのは良かったですが、怪しまれていますよね……)

「なのでお医者さんを呼ぶのは止めて、

服だけ着替えさせてベッドに寝かせておいたんです」

「それはご迷惑をおかけしました……」

「宿代は前払いでもらってましたからね」

(その点は丁度良かったというしかないですね……)

「ちなみにどれくらい寝ていましたか?」

「昨日の朝に見つけて、今はもう昼ですね」

(丸一日以上は寝ていましたか、血液の生成に時間がかかりましたね。

そういえばお腹が空いてきました……)

グゥ

「あ、起きたらお腹すきましたよね?丁度お昼あるので持ってきますね」

「すみません、お願いします」

 そう言うとメーアは出て行った。

(それにしてもまさか宿屋の屋上だったとは……)

 他の場所や人に見つかっていたらと考えると幸運だったのだろう。

(流石に何か説明しないとまずいですよね)

 フラットがどう取り繕おうか考えているとメーアがやってきた。

「おまたせしました」

 ベッドで食べられるようにトレーに乗せてきてくれたようだ。

 メニューは配慮してくれたのか消化に良さそうなものである。

 野菜とキノコがメインのリゾットのようだった。

「いただきます」

 そう言うとフラットは食べ始めた。

(空腹時の食べ物ほど美味しく感じるものもないですね)

 手が止まることなくあっという間に平らげてしまう。

「あら、そんなに食欲が……おかわりいります?」

「是非お願いします」

 そう答えるとメーアはまた出て行った。

(エネルギーを消費した分食事で補給しないといけませんか)

 再びメーアさんが持ってきた食事を平らげて落ち着くと

「さて、説明してもらえますか?」

「そうですよね」

(流石に仕事の話は伏せなければなりませんね)

 マーダーキラーズ自体は別に秘密裏の組織ではない。

 しかし一般の人にはおよそ関りはないため、

表立って公言はしないようにしている。

「まず昨日、いえ一昨日でしたか、ある理髪店に行ったのですが」

「理髪店といってもこの都市には結構あるわよ?」

「店名は覚えていないのですが、そこの娘さんがゴスロリ風の服を着ていました」

「ゴスロリ……アリスちゃんかしら」

(知っているのですか……話しづらいですね)

「実は、そこの店の人に襲われて逃げていたのです」

「襲われた?どうして?」

「さあ……なぜか殺されそうになり、逃げ回っていたのです」

「それでどうして内の屋上に?」

「夜に逃げ回っていたらここで力尽きたようでして……」

(一応事実から選んで話しますかね)

「そんな人達だったかな……そこなら昨日は定休日のはずだから、

今日にでも何か見つかってるんじゃないかしら」

(この都市の治安組織がどの程度調査するかによりますが、

果たして私まで辿り着くかどうか……)

「……わかりました、ひとまず落ち着くまで休んでいてください」

「はい、今日のところは街の様子でも観察しています……」

 メーアが部屋を出ていき、ひとりきりになった。

(とりあえず今回の仕事は一応完了でいいのですかね)

 確実に殺してはいないが完了とした。

 基本的に仕事の完了確認はいつの間にか終わっており、次の仕事依頼が来る。

(今回は予定期限より大分早く完了しましたし、しばらく次の依頼待ちですかね。

宿代の前払い分は休息としますか)

 今日で四日目のため、まだあと三日は休める計算である。

 

 その日の夕刻に理髪店で死体が発見された。

 地下室も見つかったが誰もいなかったようだ。

 娘も行方不明になっていたが、捜査が行われることはなかった。

 また、外壁上にあるはずのアリスの両手両足も消えていた。

「本当に死体が見つかったそうですよ」

 夕食をメーアが運んできてそう言った。

「それで犯人捜しは?」

「しないようですね」

(やはりそんなものですか)

 死体が発見された場合、

処理する組織は多いがそれに関して捜査する組織は少ない。

 手間がかかりすぎるのだ。

 多くの場合は関係者が犯人を捜そうとするが、

 殺された人に親族や恋人がいる場合がほとんどだ。

「あそこは父娘で経営してたようだったから、他の家族はいないと思うわ」

「そうですか……」

「食事が終わった頃にまた来ますね」

 そう言うとメーアは出て行った。

(とりあえずこの件はもういいですかね)

 フラットは明日から何をしようかと考えながらその日を終えた。

 

 翌日の朝、フラットがベッドから出てきた。

(ようやく本調子ですかね)

 しばらく静養したので体も十分に動くようになっていた。

 軽い体操をしているとメーアがやってきた。

「おはようございます、フラットさん。もう大丈夫ですか?」

「おかげさまで回復しましたよ」

 洗濯物を干しに行くようだった。

(このくらいの時間帯に私は見つかったのかな)

「そういえば子供達は洗濯は手伝わないのですか?」

「洗うときは手伝ってくれるんですけど、今日は何故か起きてこなかったのよ」

「そんなものですか」

「昨日遊び疲れたのかもしれないし、たまには寝かせてあげようかなと」

「まだ子供ですしね」

 三兄妹の上の兄は寝坊するタイプではなさそうだなと思い出していると

 カンッ!

 矢がフラットの部屋の窓から飛んできた。

「うわっ」

「きゃっ」

 フラットが飛びのき、メーアが洗濯物を落とした。

 矢には手紙が巻かれていた。

 フラットが矢についている手紙を広げると


――子供達は預かった

  今日の午前十時までに都市の外れにある教会に来い

  フラットとメーアのふたりで来ること――


(脅迫状ですか、目的は?)

「そんな!?」

 メーアは内容を確認すると子供達が寝ているはずの部屋へ急いだ。

「いないわ!」

(どうやら本当のようですね)

 フラットはどうするべきか思案していた。

(目的は不明ですが、もし殺人鬼であれば殺すだけですね)

 フラットが街の時計塔を確認すると九時三〇分であった。

「メーアさん、とにかく教会に向かいましょう、どのくらいかかりますか?」

「外れにある教会なら、今からでも三〇分あれば着くはずです!」

「考える時間も無さそうですし急ぎますか」

 フラットとメーアは教会に向かった。

 

 ようやく教会に到着した。時刻は九時五〇分である。

「今は使われていないのですか?」

 そこらじゅうに苔が生えている建物を見てフラットが問いかける。

「以前は、はぁ、ここを使っていたのですが、はぁ、新しい教会が

都市中央に出来てからは、はぁ、みんなそちらを使っています」

 息を切らしながらメーアは答えた。

(人目が少ないところを選んだということですか)

「間もなく時間になります、中へ入りましょう」

「は、はい!」

 時間になりそうだったのでふたりは急いで教会の中に入った。

 講壇の前に上の兄ズィルが縛られていた。

「ズィル!」

 メーアが駆け寄ろうとする。

「待ってください!」

 フラットが駆け寄るのを止めようとしたとき、背後に誰かが忍び寄ってきた。

「ようこそ」

 バチンッ!

(これは……電撃!?)

 気を失うほどの電撃を喰らったフラットの意識はそこで途絶えた。


「うっ……」

 フラットが目を覚ますと足が地に着く状態で十字架に張り付けられていた。

(何故こんな状態に……?)

「ふぐっ!」

 口元にも何か固定されており喋ることができない。

 周りを見回すと足元にメーアが倒れていた。

(良かった、生きているようですね)

 殺されてはいないことに安堵しているとメーアが目を覚ました。

「んっ……フラットさん!大丈夫ですか!?」

 張り付けられているフラットは頷いて答えた。

「良かった……」

 パンッ!

 手を叩いたような音が教会に広がった。

「さて、準備は整ったようで」

 音のした方を見ると先ほどの講壇に人がいた。

「お初にお目にかかります、フラットさん、

いえ、マーク・ブルートとお呼びしましょうか」

(私の素性も知っている方ですか……先ほどの電撃といい何者でしょうか……)

 電気を扱う技術はあまり普及していない、

フラットも自分に施術した施設でしか見たことがなかった。

 その人物はタキシードに白い手袋をしており、十代くらいの少年に見えた。

「私の名前は……そうですね、リヒトとでもしておきましょうか」

(リヒト……誰だ?)

「あなたが殺人鬼専門の殺人者であることは知っています。その上で一つ忠告を」

(忠告?どういうことだ)

「あなたがたも追われ、殺される立場であると理解しておいて欲しいのです」

(私の場合は先に殺されかけるのですがね……)

「もちろん、あなたは先に殺されかけてから

仕事に取り掛かることも把握していますよ」

(最近の行動は把握されているとみていいでしょうね)

「あなたの行動からあなたの体質はある程度理解しているつもりです」

(確かにこの状態では自傷もできないので、

危害を加えられるのを待つしかないですが……)

 口元も塞がれているため本当に手が出せない。

「子供達はどうなっているの!?」

 話の区切りに合わせてメーアが介入してきた。

「安心してください、あなたにも役割があります」

 リヒトがそう言うとズィルが縛られたまま講壇の上に置かれた。

「ズィル!」

(何をする気なのですか?)

 カランッ

 メーアの前にナイフが投げられた。

「その男をナイフで殺してください」

「え……?」

「あなたがその男を殺さなければ子供達を殺します」

「そんな……できません……」

「そうですか」

 そう言うとリヒトはズィルの首に手を置いた。

 手には何も持っていない。

「もう一度だけ言います、殺しなさい」

「ううっ……」

 メーアはナイフを拾った。しかし手が震えている。

「こんなの……無理です……」

「やれやれですね」

 リヒトの手が光った。

 そして、ズィルの首が落ちた。 

「あああああああああッ!!」

 メーアが慟哭をあげる。

(今のも電撃なのですか!?一体どうやって!?)

 フラットは首を切断した方法がわからなかった。

「まだふたりいますよ、どうします?」

 メーアが目を虚ろにしながらフラットにナイフを向ける。

 まだ手が震えている。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

 謝り続けながらフラットに近づいてくる。

(いけない!メーアさんは私の体のことを知らない……)

 このまま続ければ殺されるのはメーアである。

「私にはあの子達しかいないの……」

 そう呟いてメーアはフラットにナイフを突き刺した。

 ズサッ

 刺されたフラットの胸から血が噴き出る。

 血液は刃となりメーアを襲った。

 ズサッ

「え……?どうして……?」

 刃はメーアの胸を貫いていた。

「やはり!君はまだ制御しきれていないようだね!」

 フラットは血液が噴き出た後の制御はできるが、

噴き出る瞬間の制御はできない。

 リヒトはこれまでの行動を観察することで予測していたようだ。

「ほら、君たちも見るがいい、母親の最後を」

 いつの間にか解放されていたブラウとプル。

「「母さん!」」

 ふたりが叫びこちらに寄って来るが、メーアはもう死んでいた。

(私にはかける言葉がない……)

 どうすることもできないフラットは親子を見下ろしていた。

「目的は果たしたので私は失礼するよ」

 そう言うとリヒトは去っていく。

(私を殺すことが目的ではないのか……)

 フラットは自分が何故殺されないのかわからなかった。

 だが、この親子が殺されたのは自分のせいであった。

 ふたりがしばらく泣き叫んだあと、フラットの拘束を解いてくれた。

「すみませんでした……」

 フラットは謝るがふたりは何も答えない。

(親と兄を失ったふたりはこれからどうするのでしょうね……)

「とりあえずふたりを弔わなければいけません」


 その後、ふたりの代わりに人を呼び、メーアとズィルの死体を

回収してもらった。

 この都市では死体は回収しまとめて処分しているようだった。

 家族であるブラウとプルが何も言わなかったため、

問い詰められることもなく回収は終わった。

 一通りの手続きを終え、フラットは宿に戻った。

「ふたりともこれからどうするのですか?」

「どうするって言われても……」

 宿の経営はメーアが行っていたため、子供達だけで引き継ぐのは

年齢的にも難しい。

「どこか引き取ってもらえそうなところとか……」

「他に家族はいないです……」

 ブラウが元気なく答えた。

(かといってこれ以上私に関わるのも危険なようですし……)

「フラットさん」

「はい」

「母さんを殺したのがあなたじゃないことは分かるんですが、

あなたを見ていると母さんが死んだ光景を思い出すんです……」

「そんな……」

「妹もあれから喋らなくなってしまったけど、

ふたりでなんとかやっていくつもりです」

「大丈夫なんですか?」

「さあ……わかりません、でも気にせず行ってください」

「……それでも次にこの都市に来た時はまた会いに来ますよ」

「すみません」

 そう言ってフラットは宿を出た。

(この都市の滞在期間は短かったですがいろいろあり過ぎましたね……)

 この数日の出来事を思い出すフラット。

(まだ依頼は来ませんが、新しい標的が出来てしまいましたね)

 そうしてフラットはこの都市を出るのであった。


休むというのは体調不良のことか。それなら早く言えばいいだろう。

それなら流石に休めるだろう?だいたい何故関係ない私に聞くのか。

君の上司に聞くのが筋だろう。次からはそうするように。

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