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探索と殺害

探しものはなんですか?ああ、人探しか。それで手掛かりは?

なに?あまりない?となると……手当たり次第に探す。のはやめた方がいい。

そういう場合は向こうから来るように仕向けるといいよ。


 館での一件から数時間後、フラットは徒歩で帰宅していた。

「上着がそのままで助かりましたね」

 下着は切り裂かれており、血に塗れていたのでその状態で

歩いていると怪しまれるところだった。

「体から離れた血液は操作できなくなるんですよね……」

 フラットの体から完全に離れてしまった血液は感覚が繋がらなくなる。

 そのため基本的には出血しても体からは離れないようには心掛けている。

「それにしても歩いて帰るには少し遠いですね……」

(かといって馬車で戻ったりしたら絶対何か聞かれますし……)

 途中まで馬車で行き、乗り捨てようと考えない当たりがフラットである。

 宿に到着したのは深夜であった。

 そのまま部屋に行きすぐに寝てしまった。

 翌朝、朝食の時間にメーアさんに声をかけられた。

「昨夜は遅かったようですね」

「ええ、いろいろとありまして……」

「おかげで夕食が無駄になってしまいました」

「それは申し訳ないです……」

「少し取っておいたので朝食に追加しておきましたよ」

「重ね重ねありがとうございます……」

 会話をしながら朝食を並べていくメーアさんであった。

「いえいえ、ところで今日は大丈夫ですか?」

「そうですね、昨日の商談は駄目でしたから次を探さないと……」

「つまり今日の夜もわからないと?」

「そうなりますかね……」

「わかりました、なるべく朝に回せるようなメニューを考えておきますね」

「ありがとうございます」

 そんな感じで会話が終わり、朝食を食べ始めた。

 メニューはサンドイッチとサラダ、それにコーヒーとなっており、

おそらく昨日の夕食であったシチューもあった。

(美味しいですね)

 サンドイッチはたまごをからしマヨネーズで和えられたもので程よく、

サラダは瑞々しいレタスとミニトマトだけだったが、ドレッシングの

和風味ソースがさっぱりとした味でフラット好みであった。

(コーヒーはインスタントですか、さてお次は)

 最後に昨日の残りであろうシチューである。

「一晩寝かした成果やいかに」

 そう言いながら口に運ぶ。

(これも美味しいですね、出来立ても食べたかったですが……)

 ジャガイモや他の野菜も柔らかくなっており、鶏肉も絶妙な味わいだった。

 あっという間に食べ終わってしまった。

「ごちそうさまでした」

「おそまつさまでした」

 いつの間にかメーアさんが近づいてきていた。

「お味はどうでした?」

「美味しかったですね、シチューとコーヒーは別々に食べましたし……」

「そこはフラットさんが昨日帰らなかったのが悪いんですよ?」

「こんなの食べられるなら早く帰るんでしたね、反省してます……」

 フラットが申し訳なさそうにしているとメーアさんが語りだした。

「この都市は交易都市だけあっていい食材が安く買えるんですよ」

「なるほど、そういった利点もあるのですね」

「交易商人ならそのぐらい知っているものかと……」

「面目ないです……」

 実際フラットは交易商人ではあるが本業ではないため致し方なかった。

「ではまた夕食時に」

 そう言ってメーアさんは下がっていった。

 

 フラットは部屋に戻ると窓に向かっていく。

「もう来ましたか」

 部屋の窓枠に鳥が止まっている、黒い鳩である。

「クックルー」

「すぐ行きますよ」

 鳩の足に棒状に巻かれた紙が巻き付いている。

 それを外したあとエサをやる、すると鳩は飛んで行った。

「相変わらずエサをあげるとすぐ飛び去りますね……」

 そうして依頼元である隊長の元へ帰るのである。

「さて、今回の依頼はどんなものですかね……」

 広げた紙には何も書かれてはいない。

 フラットは自分の指の先端を少し齧り出血させた。

 その血を紙全体に染み込ませる、すると文字が浮かび上がってきた。

 

――場所:交易都市ボーデン

  対象:不明

  被害者:若い男性

  殺害方法:多量の刃傷(傷形よりハサミ系と類推)

  期限:一ヶ月

  備考:死体は一ヶ月に一回の頻度で都市外に遺棄される――

  

「またアバウトな情報ですね……前回の被害者が旅人で

この都市という情報だけの時よりはマシですけど……」

 フラットの所属する組織はマーダーキラーズ(殺人鬼専門の殺人組織)

と名乗っている。

 構成員にもコードネームがついており、フラットの場合は

 マーダーキラー(mk)・ブルートで通称マーク・ブルートとなっている。

 依頼自体は黒い鳩が運んでくるのだが、依頼をどこからどのように

受けているのかは隊長しか知らない。

 依頼の振り分けについても隊長が行っている。

 期限に間に合わない場合は構成員が追加投入されるため、

ターゲットになった殺人鬼は基本的には殺害するまで追いかけられる。

 フラットの場合は殺人鬼のターゲットとなり危害を加えられることで

殺人鬼を見つけるという実に受動的な方法である。

 これはフラットの体の特性を生かしたものであるため、殺人鬼の特定が

不明瞭な依頼が回って来ることが多いのも自明の理である。

「ハサミ……といえば医療、裁縫、理髪……食品関係もですかね、

どのあたりから調べましょうか……」


 依頼内容を把握したところで、交易商人の仕事は

ひとまず置いておくことにした。

 ちなみに本業の依頼は基本的に収入は無い。

 そのため副業である交易商人の収入で生活している。

 メインの商品である'薬品'に関してはフラットの体質に関係している

ところから入手しているため元手は大してかかっていない。

「とりあえず街に情報収集ですかね……」

 そう言いながら階下へと降りていきメーアと遭遇した。

 カウンターにいるのだから大概はそうなる。

「お出かけですか?」

「はい、そういえば小耳に挟んだのですが、

この都市で一ヶ月毎に殺人が起きていると……」

「そうなんですか?聞いたことがないですけど……」

「そうですか、物騒なことを聞いてすみませんでした……」

 あまり深堀りされると面倒なので話を切り上げて出て行った。


「街に噂が広まっているわけではないのか……厄介ですね」

 噂があればそれらを起点に探そうとしていたのに当てが外れたようだ。

(メーアさんが知らなかっただけかもしれませんし、

もう少し聞き込みますかね)

 流石に囮捜査で自分が狙われることを想定しているだけあり余裕である。

「丁度髪も伸びてきましたし、理髪店でも聞き込みますかね」

 理髪店といっても交易都市なだけはありそこそこの数があるようだった。

「髪を切るついでに聞きこむにしても、

何件も切りに行けないしどうしますか……」

 整髪したあとに他の理髪店に入るのは気まずいものがある。

「まあとりあえず一件行ってみますか」

 フラットは割と行き当たりばったりなのであった。

「近場には……あ、ありました」

 適当に歩いていると理髪店のシンボルである青白赤のオブジェが見つかった。

「いざ」

 カラン

 ドアを開けるとベルの音が鳴り来店を知らせる。

「いらっしゃいませ、どうぞ空いてますので」

 店に入ると客はフラットだけのようだ、聞き込みには丁度いい。

 コートをハンガーにかけてから椅子に座ると

「今日はどんな感じにしますか?」

「その前にちょっと聞きたいんですが」

「はい、なんでしょう?」

「小耳に挟んだのですが、この都市で一ヶ月毎に殺人が起きているらしいと」

「さあ、聞いたことありませんね?」

「しかも凶器がハサミのようなものらしいんですよ」

「……お客さん、まさかそんなことを聞き込みにいらしたんですか?」

「まあ、そのついでに髪を切るつもりで」

 すると店の人が作業しようとしていた手を止めた。

「そんな人の髪を切る気はない!」

 怒られてしまった、流石に無粋だったか。

「今日は帰ってくれ!」

 急いでコートを渡され追い出された。

(まあ、知らないようでしたし結果オーライですかね、

髪も切られなかったのでもう一件いけそうですね)

 相手を怒らせた理由については深く考えないフラットであった。

 

 しばらく歩いていくと再び例のオブジェが見つかった。

「やっぱり賑わっている交易都市は違いますね」

 流石にすぐ見つかるようだ、この分なら初めの宿屋も見つかったのでは

と思ったが、だからこそ子供たちが案内を買ってでたのだろう。

 理髪店に行こうとしたところでドアが開いた。

「じゃあ、行ってきまーす!」

 やたら元気なゴスロリ風の服を着た少女が出て行った。

 外からのぞくと丁度お客さんはいないようだ。

(次こそはちゃんと話を聞いて見せます)

 カラン

 ドアを開けるとベルの音が鳴り来店を知らせる。

「いらっしゃい、すぐにとりかかれますよ」

「ではお願いします」

 店に入るとコートをハンガーにかけ、椅子に座った。

「今日はどうします?」

「そうですね、全体を整えるのと前髪を短くお願いします」

「わかりました」

 フラットは長髪というほどではないが肩口までは伸びている。

(今度は仕事を開始してから聞きこみます、

これならそうそう追い返されないでしょう)

 また聞きこむつもりである、怒られることは気にしていないらしい。

 それなりに髪を切り終わり髭剃りをするために寝かされた。

「そういえば……」

「はい」

「先ほど出て行った少女は娘さんですか?」

「ああ、見ていたのですか、そうですよ」

(今度は世間話を挟んでから聞いてみますか)

 多少は怒らせない配慮をする気になったようだ。

「服が独特だったもので気になりまして」

「普段は娘も店の手伝いをしてくれるんですよ」

「髪も切るんですか?」

「ええ、私よりも上手いと思いますよ」

「そうなんですか、ところで」

「はい」

「小耳に挟んだのですが、

この都市で一ヶ月毎に殺人が起きているらしいと」

「……聞いたことがないな」

 そうこうしているうちに髪は切り終わったようだ。

「しかも凶器がハサミのようなものらしいんですよ」

「そうですか、ハサミなんて誰でも持ち歩けますからね」

「確かに」

 次は顔をそるようで椅子を倒し寝かされた。

(聞き込みできそうな感じですね、上手くいきました)

「お客さん、熱いですが少々我慢してください」

 そういって仰向けのフラットの顔が熱いタオルで覆われた。

(ほんとに熱いじゃないですか!)

 しばらく放置されていた。

(遅いな、準備に戸惑っているのかな……)

「お客さん、お待たせしました」

 そういって店の人が近づいてきた。

 ゴンッ!

 突然鈍い音がしたと思ったが、フラットが頭を殴られた音であった。

(何が起きたんですか……)

 ズサッ!

 フラットの側頭部から血が噴き出す。

 血液は刃となり店の人の胸部を貫いた。

「ぐぅっ……!」

 ドサッ!

 頭にかかったタオルを外すと店の人が倒れていた。

(この流れで攻撃してくるということは犯人なのですか?)

「くっ……」

(まだ生きていますか、しかし私の血液の攻撃による出血がひどい、

このまま放置しても直に死にますね)

「死ぬ前に答えてください、先ほどの話はあなたの犯行ですか?」

「貴様なんぞに……」

 そう言って店の人は事切れた。

(仕方ないですね、店の中を調べますか)

 とりあえず入り口の看板をOPENからCLOSEに替える。

 死体はそのまま放置である。

 調べるといっても店の中はそこまで広くない。

(仕事場の奥に部屋がありますね)

 フラットが奥に進むと居住空間があった。

(普通の生活スペースですね、二階もないですし……)

 家探しめいたことをしていると違和感に気付く。

(床下の保管扉の上に何故棚が?)

 棚をどかし扉を開けるとそこには階段があった。

「地下室ですか」

 明らかに不穏な感じがしたが地下に降りて行った。

 暗い、明かりはどこだ?

 手探りで探しているとオイル式のランプが見つかった。

 明かりを灯すと全体が見渡せるようになった。

「これは……」

 部屋は意外と広かった。

 拷問部屋のようなオブジェクトがいくつか置いてあり、

磔にされている人がいる。

「ぅ……」

(まだ生きているようですね)

 フラットが生存者に近づくと、怯えだした。

「もう殺してください……」

 生存者がか細い声をあげた。

(犯人だと思っているようですね、殺しを懇願するほどの拷問ですか……)

「私は犯人ではありません」

「え……」

 生存者が驚いて目を開けた。

「助けに来たわけではないですが、犯人と思われる人に殺されかけたのです。

しかし、逆に殺してしまいました」

「じゃあ、もう助かるの……?」

 フラットは生存者の状態を確認した。

 年のころは十代の少年といったところか、だが傷がひどい。

 とりあえず鍵が近くにあったので繋がれていた両手両足の鎖を外した。

「体はどんな感じですか?」

「手足の指が動かない……」

(腱を切られている、他にも損傷が多いな……

この状態ではどのみち長くない……)

ガチャッ

 地下室の扉が開けられる音がした。

(店には誰も入ってこないはずでは……)

「あれ~?誰が居るの~?」

「ひっ……!」

 少年が怯えだした。

 地下室に降りてきたのはここに入る前に見かけたゴスロリ少女だった。

「なんか上でパパが死んでたんですケド?知らない?」

 ハサミを指にかけ、クルクルと回しながら近づいてきた。

「私が殺してしまったようですね」

「殺してしまった?」

「先に襲われたので、正当防衛というやつです」

「そ、パパもツメが甘いわね」

(何なんですか、この少女の雰囲気は……)

 父親が殺されたというのに別に気にも留めていないようだ。

「……あいつです」

 少年が声を上げた。

「どうしました?」

「あいつなんです!僕をここで切り裂き続けたのは!」

 少年が力を振り絞って叫んでいた。

「あら、少年元気じゃない?最近反応が鈍いから

そろそろ次を探すつもりだったのに?」

「ひぃっ……!」

 少年がまた震えだした。

「ちょっといいですか」

 フラットは見ていられなくなり割り込んだ。

「なぁに?」

「あなたのお父さんは実行犯ではないのですか?」

「ここを使ってたのはワタシ、アリスね、パパには攫ってくる子を

決めた後に手伝ってもらってたの♪」

(関係者だったのではどちらにせよ父親も殺すことになりましたね)

「死体を都市外に棄てたのは何故ですか?」

「さぁ?パパに処分は任せてたの」

(手掛かりになるような行動だったということは、

あの父親も心の何処かで犯行を止めて欲しかったのでしょうか……)

「死体のこと知ってるってことは、パパのせいで見つかったんでしょ?

もう、使えないなぁ!」

 アリスがハサミをしまい髪を掻き毟っている。

(さて、どうでますかね)

 フラットは相手の出方を伺っている。

「そういえばアナタ、ワタシ的にはアリね。次はアナタにしましょう!」

 アリスがフラットをしばらく凝視したあと目を輝かせて話し出した。

(何を言っているんでしょうか……?)

「そう考えるとパパもアナタを捕まえるつもりだったのかしら?

惜しかったわね!」

 そう叫ぶと共にアリスが突進してきた、少年はガタガタ震えている。

(早いですね)

「とりあえず殺さない程度に痛めつけてあげる♪」

 いつの間にか両手にハサミを持っている。

(やはりあれが獲物ですか)

 コートは上に置いたままなので薄着である。

 アリスが右手のハサミをフラットの左腕に切りつけてきた。

 当然のようにフラットは避けようとしない。

(何コイツ?何で避けないの?)

 そうしてハサミがフラットの左腕を切り裂くと同時に出血、

その血液がアリスに向かってきた。

「ッ!」

 アリスが咄嗟に後ろに飛び、血液の刃を回避する。

(何という反射神経!しかし多少は掠りましたか……?)

 フラットの感覚の通り、右手の甲を薄皮一枚を切り裂いていた。

 アリスの手から血が滴る。

「はぁっ!?何よそれ!反則じゃない!」

 アリスは今度は怒りの形相である。

「こういうのでもないとあなた方殺人鬼には対応できないので」

「そうか!パパもそれでやられたのね!」

 アリスが嬉しそうに声をあげた。感情の起伏が激しい。

「さて、続きと行きますか?」

 フラットが臨戦態勢に入ろうとしたが、アリスは地下室の出口へ走っていた。

「バカじゃないの?こんなアナタに有利なとこじゃゴメンだわ!」

 そう言うとアリスは地上に消えていった、もちろん鍵を閉めて。

「……困りましたね」

 あまり困った風に見えないフラットであった。

「とりあえず、あなたのお名前は?」

 しばらく放置していた少年に問いかける。

「……ハーゼ」

「ハーゼ君ですか、私はアリスを追わなければなりません、

あなたはどうしますか」

「どうって……」

「おそらくこの後助けは来るでしょう、帰る当てはありますか?」

「……家はあります、でもこんな状態では……」

「流石にわかりますか、そうですねどのみちあなたはもう長くないです。

では選択肢を二つ増やしてあげましょう」

「二つ?」

「一つはここで私があなたを殺してあげます」

 聞いた途端少年の顔が失望に変わる。

「……もう一つは?」

「私の体質は見ましたよね?とあるドクターに瀕死の状態から

助けてもらう代わりに実験体として自分自身を提供したのです、どうですか?」

 少年の顔が疑問に変わった。

「僕も血が動かせるようになるの?」

「それはわかりません、私以外にも実験体はいるのですが、結果は様々なので。

当然失敗して死ぬ可能性もあります」

「……考える時間はありますか?」

「とりあえずアリスを追いかけるので一つ目の選択肢はお早めにお願いします。

二つ目ですが、おそらくこの後私の関係者が現場を確認に来ますのでその際に、

'マーク・ブルート'に選ばれたとでも言えば連れて行ってくれますよ」

「マーク・ブルート?」

「組織内での私のコードネームみないなものです」

「わかりました……」

「ではよい選択を」

 会話を切り上げるとフラットは出口を見た。

(鍵は外側ですね……

おそらく上に棚とか置いてるでしょうし破壊するしかないですね)

 そう結論づけると部屋を見渡す。

(使えそうなものは……刃物類しかないですね……)

 フラットは仕方ないといった体で部屋にあったメスを持ち出し、

自分の右腕にあてがう。

「はっ!」

 気合を入れて前腕の外側を切り裂いた。

 ブシャーッ!!

 血が噴き出るとともに大きな刃となり固まった。

 刃が固定されるとフラットは出口自体を切り裂いて道を作った。

「さて、私は行きますが決まりましたか?」

「やっぱり殺されるのは嫌です……」

「では生きていたらまたどこかで」

 そう少年に別れを告げるとフラットは地上に出て行った。

 

 地下でフラット達が話している一方地上では……

(クソッ!なんなのよあれ、やっぱり殺すしかないわね……)

 早々に地下室の上に一番重い家具を置き、出てくるのを妨害する。

(あんな能力があるんじゃ時間の問題よね……)

 そういいながらも店内にいくつかトラップをしかけ、

何事もなかったかのように外へ出ていくアリスであった。

 今はもう夜であるが、街には人が歩いている時間だ。

(あの感じだと接近して殺すのは厳しいわね。

とりあえず離れたところから狙いましょう、幸い武器は持っているし)

 アリスの服装はゴスロリ風でありスカートの中に凶器を大量に隠していた。

(いずれ外に出てくるでしょうけど、地理に関してはこっちの方が詳しいわよね)

 夜であることを利用して他の人に見つからないように移動し始める。

 そしてフラットが出てくるのを待ち構えるのであった……

 

 フラットが地上に出ると、当然のようにアリスはいなかった。

 血液の刃は収納した、出し続けていると消耗が激しいのだ。

 父親の死体はそのままであった。

(余裕がなかったのか、どうでもよかったのか……)

 そう思いながら仕事場に足を踏み入れた時だった。

 ヒュンッ

 何故か四方からメスが飛んできてフラットが串刺しになった。

(そういう方法で来ますか……)

 刺さったメスを引き抜きコートを羽織る。

 傷口は止血だけしておいた。

(次は何が来ますかね……)

 少しだけ警戒し店の外に出る。

(流石に人通りのある外では簡単に襲ってきませんか……)

 周りを見渡すが当然アリスは見つからない。

「さて、どうしますかね」

 見つかりはしないが確実にこちらを視認しているだろう。

 フラットは攻撃しやすいように裏路地へと向かった。

(どうですか、ここなら目立ちませんよ?)


 フラットが裏路地に向かうのを確認し、

アリスは挑発に乗り攻撃することにした。

(いい度胸じゃない)

 アリスは今建物の上を移動していた。

 相手に近づかないことを考えた上での位置取りである。

 夜であることを考えれば簡単には見つからない。

 月が出ていないことも好都合であり、アリスは夜目が効く方だった。

(マジで警戒緩いわね……)

 フラットが歩くタイミングを見計らい頭上に向かいメスを二本投げた。


(さて、どこから来ますか)

 頭上から落ちてくるメスに気付かずフラットに突き刺さる。

「ぐっ!上ですか!」

 刺さったのは2本とも頭部でなく肩であった。

 アリスの位置が建物の上だと分かったため、

フラットも低い建物の壁を蹴り登ってきた。

「さてどちらが鬼役ですかね?」

 その場にはもうアリスはいなかった。

 

(なんで外れたの!)

 アリスの投擲の腕は相当なものである。

 その理由は今まで攫ってきた人間を相手に様々な遊びをしたためだ。

 但し残念ながら静物を相手にしていたため動物への練習が足りていなかった。

 しかも建物の上にいるのがバレてしまったため、完全に向こうに利がある。

(刺されても問題なさそうだし、そうなると頭か心臓を狙うしかないのかしら?)

 フラットをどう殺すか算段を考えているが、

現状は無防備な頭を串刺しにするしか思いつかない。

(頭を狙うためには何とかして動きを止めたいわね……)


 フラットは相手が頭を狙ってくると予想していた。

 自分の能力を見た場合、大概の相手はそうするからだ。

(そこを利用して不意をつきますか……)

 実際頭を完全に破壊されれば絶命するが、刺された程度では死ぬことは無い。

 度合いによっては記憶が失われる場合もあるが……

 頭を狙っても死なないと知られた場合は確実に逃げることに全力になるだろう。

 そうなることは避けたい。

(アリスの反射神経だと攻撃直後で意識外からの攻撃なら当たりますかね)

 機会はおそらく一回。

 確実に仕留めるためにフラットは建物の上を移動し続けた。

 

(なんかめちゃくちゃ移動し始めたわ!)

 アリスを探しているのか建物を次から次へと移動していく。

 こちらは下手に動くと補足されるかもしれないため頻繁には移動できない。

 そうこうしているうちにフラットがある地点でとまった。

(あら?諦めたのかしら)

 立ち止まったフラットは両手を挙げて手招きしている。

(挑発しているつもり!?)

 見つからないから攻撃させようというのか。

(いいわ、そちらが止まってくれるのであれば一撃で仕留めて見せる)

 アリスは確実に当てれる位置へと移動し始めた。

 

(さて、伝わりましたかね)

 アリスに攻撃をさせるつもりで立ち尽くしていた。

 もちろん相手の位置を見つけるためである。

(あんまりこの技は使いたくないんですがね……)

 攻撃を喰らった直後に方向を見定めるために全神経を集中していた。

 

(ここからなら確実に当てられる!)

 当然といえば当然だがフラットの後ろの方角に近づいていた。

 距離もそれなりに近い。

(これで死ねッ!!)

 ヒュンッ

 所持している中でも最も切れ味の鋭いメスを2本投擲した。

 こんな場面でも一本に賭けきれなかったようだ。

 そして、フラットの後頭部を二本とも貫通した。

(やったわ!)

 フラットが後ろに倒れていく。

(あれ……?あいつ笑っている?)

 フラットの表情が見えた。

 なにか呟いているようだ。

 ミ ツ ケ タ そう唇が動いたように見えた。

(見つかったとしてもこの距離だし……)

 シャッ

 何かが風を切り裂く音が聞こえた。

 次の瞬間アリスの両腕が血を噴き出して落下していく。

(何これ!?攻撃!?どこから!?)

 アリスが地面に目をやると赤い線のようなものがあった。

(まさかこれもあいつの血なの!?)

 その光景を倒れながら見ていたフラットは

(仕留め損ないましたか、ですがまだ予備がありますよ)

(ヤバイ、もう一撃来たら……)

 その瞬間アリスは地面にあるもう一本の赤い線を見つけてしまった。

 そしてそれが動き出すと同時に咄嗟に後ろに飛んでいた。

 シャッ

 二本目の赤い線にアリスの両足が切られ、そのまま落下していく。

 運がいいのか悪いのか、アリスのいた位置は都市の外縁部であった。

 大概の都市は外縁部の外が川となっておりユーピターもその一つである。

 川へとアリスは落ちていく……

「くっそーーー!!殺す殺す殺す殺す殺す……」

 呪怨のような台詞を呟きながら落ちていく……

 その光景を眺めながらフラットは殺しきれなかったと後悔した。

(まあ、あの傷では奇跡でも起きない限り死んだでしょうね……)

 フラットは起き上がらない

(やはりこの技は血液の使用量が多すぎて回収しきれませんね……)

 フラットが建物を移動している間に細く伸ばした血液は二本。

 フラットのいる建物が狙いやすい位置に配線していたのだ。

 距離が増えれば増えるほど血液の使用量が増す。

 その上回収する際にはある程度近づかなければならないため、

幾らかの血液を捨てることになる。

(意外とこれはまずいですね……)

 そう思いながらフラットの意識は途絶えるのであった。


……向こうから来るように仕向けろとは言ったが、また殺したのか。

殺すだけであればわざわざ探さなくても他に手があっただろうに。

それはまた別の機会に教えるとしようか。

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