一番槍
茂みの向こうに見つけた人影。
それを見、弾かれるように、耳長族の青年は地を蹴って駆け寄る。
茂みをかき分けたどり着くと、先ほど見かけた倒れ込んだ人影と、脇には大犬も寝そべっていて、彼らの傍に佇む3人の人物。
3人の人物の中に、少女と衣服を整えたところの男を見つけ、そうして悟る。
__……やはり謀りだったか。
槍使いとやりあった際、躍り出てきた巨大な馬。その馬を見た時、もしや、と思っていた。だが、異形が青年と因縁浅からぬ異形とは限らない。異形も数多あるのだ。
__しかし、どこまでの謀りか。
「あら、ブラウシュトルツ、早かったわね。さすが、ビルネンベルクの一番槍だわ。__イェノンツィアに、あなた達を連れてくるよう頼むところだったのよ」
怪訝にした耳長族の青年__ブラウシュトルツに、くつり、と笑いかける少女は、均衡の神子である。その横の男は、神官騎士のイェノンツィア。
どちらも、耳長の青年には馴染みのある顔だ。だが、もうひとりの、顔に傷がある男には見覚えがない。しかしながら、纏う雰囲気がどこか一般的なそれではない。街なかですれ違うことがあれば、おそらく目が素通りできない。それほど何か__覇気のようなものをまとっている。
その男に対し、神子も構えた様子がないことから、身内なのだろうということは察しがついた。
耳長の青年は渋い顔をして、遅れて来た自身の仲間を振り返る。
筋骨隆々とした体躯が立派な人間族の男と、耳長の青年の太腿の中程までの身長しかない小柄な娘。
小柄娘は、妖精族の一種である小人族__ツヴェルク族の者だ。
「ツヴィッシュ、ご苦労さま」
いえ、と応じる筋骨隆々な人間族の男を、耳長の青年は睨みつける。
ここ数日、レーヴェンベルガーの一行と遭遇した街を中心に、周辺を野宿しながら探していたのだ。
咎める視線を受け、両手で、まあまあ、となだめるこの男は均衡の神の司祭。
龍騎士を退役した耳長の青年は、今現在、東のネツァク州のビルネンベルク家に雇われて辺境騎士をしているが、ビルネンベルク家の当主に頼まれて、難儀な仕事を任されることがある。
大抵は、大事になる前の、不可知__所謂、もの、アニマへの対処。
そうした仕事では、他の雇われた者と行動をともにすることがあり、自分の不足分を十二分に補える力を持ったツヴィッシュとはよく組まされる。__ツヴィッシュとは、出会いから今日に至るまで、腐れ縁としか言いようがなかった。
今回のロンフォール・フォン・レーヴェンベルク出奔の一件も、そうした仕事だった。軍より先に見つけ出し、出奔をしたか否かの真偽を探るという仕事。
神子はツヴィッシュに向けていた視線を、自分より少し背が低い小人族へと向けた。
「あら、見かけない子ね。私は、フィガロ。あなたのお名前は?」
「シノです!」
問われて、答えた小人族は、折り目正しく頭を下げる。
「どういった子なの?」
「彼女は__」
「ブラウシュトルツの弟子です」
耳長の青年が口を開くより先に、ツヴィッシュが答える。
「まあ、そうなの」
「……正式ではなく、いまは試用期間です。お互いに」
師弟関係には相性がある、と耳長の青年は思っている。
「殊勝なことね。__面倒見のいいヒトだから、大丈夫よ、シノ」
「はい!」
元気よく答えたシノの顔。あまりにも輝いていて、その眼差しの眩しさに、やれやれ、と思わず渋い顔になる。
「妙な期待を抱かせないでいただきたい。__ところで……レーヴェンベルガーの居所の情報を最初にもたらしたのは、巡礼していた均衡の神の信者だと聞いていますが……。まさか、もとより承知だった、ということですか」
「ええ。時期をみて教えたのよ。ビルネンベルクに」
最初、この仕事を言い渡されたとき、居所の情報が入るまでは待機、という話だった。そして情報がもたらされ、あの街を拠点に注意深く過ごしていた。
情報通り遭遇できてからは、街には龍騎士が派遣されてきたこともあり、捜索範囲を広げ、野宿を続けて探していたのだ。そうした中で、地脈の流れが不自然な場所をいくつか見つけ、そこを中心に何度もめぐっているうち、ただならぬ気配を察知して今こうしている。
__そのただならぬ気配、というものが分からずじまいだが。
神子が居ただけの気配ではない。なにかしらの、ものの存在があったように思えた。なのに、ここにたどり着いてからは、その気配が途絶えてしまった。
「では、俺は行く。後を任せてもよいか?」
威厳ある声は、顔に傷がある男のもの。
「はい。多大なるご配慮、ありがとうございました。龍騎士団の動きも鈍らせていただけて」
「なに。身内みたいな者の窮地だ。手を出さないわけには行かない」
優男風で一見隙があるように見えるが、侮れないものが顔に傷を負う男には見受けられた。
__どこの組織にも所属していなさそうだが……。
神官騎士でも神殿騎士でもなさそうなのは、神子とのやり取りから察せられる。どちらかといえば、神子が敬っている風なのが不思議でしょうがない。
__龍騎士団の動きを鈍らせられるような立場の者なら、目星はつくが……当てはまらない。
単純に知古なのかもしれないが、今の耳長の青年にははっきりとしなかった。
「ではな、ブラウシュトルツ卿」
怪訝にしているのを知って知らずか、反応に窮している様にくつくつ笑い、男は闇の中へ去っていってしまった。
__待て、あの男……。少なくともこの気配はどこかで……。
どこかで感じたことがある気配だ。気配は《もの》に通じるそれであった。
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