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地網 Ⅱ

 蓬莱出身の子響とのやり取りを思い浮かべ、ふとある言葉が気になったロンフォールは、思い出したような声を上げる。


「子響から神子って言うのを聞いたんだが、それは?」


 スレイシュは右側の小ぶりな石の下に、小石を並べる。


「神子は、教皇の下で、神子の格__神の格によっては司教とも呼ばれる。その司教を守るために、さっき言った神官騎士という護衛がいて、その下の地位に神殿騎士がいる。神殿騎士は各地の神殿や地域、聖地の守備が任務。神子の身の回りの世話を行うのが、司祭。神官に関して、教皇は龍帝の勅命を受けて、それら一切取り仕切っている。他からの干渉は受けないぐらい……というか、やっぱり神様に関わることだから、畏れ多くて、文官も武官も口出しはほとんどできないな」


「怖いってこと?」


「ああ。どういったことになるか、わからないんだ。不可知ってのは、ヒトの想像をはるかに超える。言ってしまえば、龍帝も不可知だから、怖いといえば怖いな」


「どういうことだ?」


「龍帝御一家は、この地上にはいないんだ。龍胤ならいるが」


 ロンフォールは首を傾げる。


「龍胤は龍帝の血脈だ。今上帝の家以外に、5つの家に分かれていて、これを五宮家いつみやけという。側室制を廃して、龍胤の補完として五宮家の制度を設けたんだ。宗家が断絶した場合、他から龍帝を据えるために」


「そくしつせいど?」


「……さすがに、番って認識はわかるよな?」


「うん、ぼんやりと」


「よし。__妾みたいなものだよ。2番目以降の奥さん。正室ってのが、ちゃんとした奥さんだ」


「たくさんいるんだ……」


 まあな、とスレイシュは腕を組んだ。


「__今上帝……現龍帝は父帝の正室の子だけど、側室の息子として産まれた兄もいたんだ。正室は獣人族のお姫様。つまり、龍帝は半獣の生まれ。対して、側室は人間だ。生まれた息子も純粋な人間族」


「半獣って……獣人は人間と見た目が違う?」


「獣人は、平時は人間の体のどっかにその名残が見られる感じだな。半獣は、獣人と人間との間に生まれたやつら。こいつらは、より人間っぽい見た目だ。決定的な違いは、完全な獣になれるかどうか。格としては、獣人のほうが間違いなく上」


 そこまで言って、スレイシュは組んでいた腕を解き、両ひざの上に手を置いて、やや前のめりになる。


「獣人と人間ってのはいがみ合っていてな、当時。それをどうにか終わりにしたかった。獣人のお姫様を正室にもらって、それで戦をおさめようとしたんだ。だけど、帝国に所属するほとんどは人間だったから、父帝が亡くなったとき、側室の息子だけど、純血のこっちを擁立したわけだ。それは約束を違えることだったから、獣人族が怒った」


「正室の息子を次の龍帝にする、って約束かなにかをしてたのか?」


 ほう、とロンフォールの言葉に、スレイシュはわずかに片方の口角をあげ、再び腕を組んだ。


「勘がいいな。そうだ。人間と獣人の間の半獣の帝なんて、まさに友好の証だ。お互いの偉い人の血を引いているから、お互い納得する。そのために、大事な姫様を差し出したんだ。もちろん、そうした取り決めもなされ、お互いが納得していたのに、人間が反故にした。それで、獣人族も対抗した」


「また、争った?」


「ああ。__正室の息子を擁立したんだ。だけど、当人はそれを嫌がって、最初は逃げたんだと。腹違いだけど、兄は兄だ。周りが騒いで、勝手にしているだけといえば、そうだしな。兄は継ぐ気が満々で、自分はそれほどない。だったら、兄が継げばいい、と」


「どうして、逃げたのに、今の龍帝に?」


「兄は討伐令を出したんだ、弟の。生きているだけで、己の地位を脅かすんだからな。当然の行動だ。だけど、ここから可笑しくてなってく」


 皮肉に笑んだスレイシュに対し、ロンフォールは首をかしげ、先を促した。


「__絶対的な力を欲した兄は、なにを思ったか、禍事の神と取引して、その力を使えるようになったらしい」


 やや低めた声で、身を乗り出しながら言い放つ彼。ロンフォールは思わず息をのんだ。


「え……それって……」


「とっても恐ろしいことだ。この世が崩れる。それを知って、いよいよ弟は立ち上がり、対して戦神をその身に降ろして戦って、勝利をおさめた。まさに神代の再来だよ。__で、龍帝はもうヒトではない。だから、地上にいるわけにはいかなくなった。ここで色々と制度を変えた。そのひとつに、戦の元凶になった側室制度を廃し、龍帝の血脈を守る意味で、分家を五宮家として配したってわけだ。もちろん、宮家が争わないように、継承には決まりを作ってな」


「そして、地上からいなくなった?」


「そういうことだ。聞くところによれば、帝都の真上のずぅっと高いとこに小さい島が浮いていて、そこに宮殿があって住んでいるらしい。空に浮いてる大地で、かつ天帝から分けてもらった島のことを、高天原、と呼ぶ。さっき言った上三位は、その宮殿へ出入りできるらしい」


 そして、と彼は、ロンフォールを指差した。


「お前たち__龍帝従騎士団の者も地位こそ州侯以下で低いが、例外として許されている。元帥と龍帝従騎士団とあわせて禁軍と呼ばれ、龍帝のための特別な部隊だ。元帥の直下にある軍はまた別で、国そのものに帰属するとでもいえばいいのかな……。規模としては、龍帝従騎士団より巨大だけど、火力のある龍帝従騎士団と力の均衡を保つためにそうした規模になっている」


「どうして?」


「龍帝だって今は神様といえるが、もともとはヒトだ。圧制を強いて民を虐げ、国を傾かせるかもしれないだろ? そうしたことを防ぐ抑止力ということで、軍があるんだ。もちろん、その逆も然りだが」


「抑止力……」


「不可知であるが故、己の意思の具現者として、龍帝従騎士団を作ったとも言われている。龍帝ってのは存在するんだぞ、って。ヒトは目に見えないものをあまり信じない。それに、軍は力を持ちやすいからな。均衡を保って悪戯に国を荒れさせず民を守るためでもあるし、なにより、龍の号を賜ったときに、そうせよ、と天帝からお達しがあったとか」


「龍帝従騎士団っていうのは、本当に別格なんだ」


「ああ。そんな組織にあって、お前は有名人だろ? なにかしら、謀略にはまっていても可笑しくはない」


「……」


 ごくっ、とロンフォールは生唾を飲んだ。

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