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眠れる導師 Ⅰ

 先頭を行くリュングに従い、食堂を出て、長い廊下を歩き、硝子が嵌められた窓の脇にある扉を開ける。


 窓から眩い光が差していたのがわかっていたが、扉を開けて一歩出た途端、薄暗い中に慣れていた目は、真っ白に焼かれた。それほどの明るさがあった。


 この里にたどり着いたとき、すでに夜の帳が落ちていたので、里の様子はまるでわからなかった。しかし今は、その闇はどこへやら、十分な明るさに溢れている。


 目が慣れてくると、目の前にとてつもなく巨大な木が鎮座していることに気づいた。


 樹齢は計り知れないほどの、その幹の太さ。大人が10人で両手を広げて抱えられるかられないか__それほどの太さを誇っている。


 枝ぶりもまた立派で、老木という言葉にそぐわないほどの瑞々しさ。


 苔むした根元を囲むように小川がせせらぎ、光を弾いて輝いてる。


 その光に目を細めロンフォールは幹をたどり、枝をひとつひとつ舐めるように見上げていくと、岩の天井を捉えた。それは、天井。この大樹は、昨夜見た滝とは逆に、地上へと頭を出しているのだ。


 大樹の枝葉が震えると、ふわり、とこちらに優しく風が吹き降ろしてくる。その風の音に混ざって、生き物の鳴き声が聞こえた。


 __馬……?


 聞こえた鳴き声を探すと、大樹を挟んだ向かいに厩が見えた。岸壁から屋根が飛び出ている形で、その奥には岸壁の向こう側へ広がる暗がりが見えた。


 その厩から首を伸ばして餌を食んでいるのは、紛れもなく馬。厩の隣には、岩盤を上手く利用して作られたらしい牛舎もあり、牛の姿も見られる。


 牛の近くに、ワグナスの姿があった。ワグナスの周りには、同年代と思われる子供が3人おり、彼らは小さい体で牛の餌やりをしているようだ。


 遊びの延長のような仕事に見えてしまうのは、彼らがこちらの存在に気づかず、きゃらきゃら、と笑い合いながら取り掛かっているからだろう。


 それを傍目に数名の女性が、日向で談笑しながら細かい作業を座ってしている。


 何をしているのかは距離があって確認できないが、一所に集まってそれぞれ違う動作をし、自分が仕上げたものを隣へと渡していく様子から、分業して何かをおこなっているのは確かだ。


 里、というだけのことはあり、それなりの規模の営みがあることがうかがい知れる。


 子響が言うには、50名程度がこの里に住んでいるらしい。改めて、その規模を実感できた。


「こちらだ」


 リュングの声に我に返り、ロンフォールは3段の階段を上がった先にある扉の前で待っている彼らに駆け寄った。


 階段を上がったところの、その扉は一際大きく、他の扉には見られない文様が描かれている。


 __何かの意味があるのか……。


 そう思っていると、徐にリュングが扉を開く。


 扉の先には質素な部屋があった。部屋には、椅子とテーブルがあり、壁際には長椅子が置かれているだけで人気はない。


 踏み入った瞬間、きん、と耳の中で甲高い音が脳天に抜けるので、反射的に耳を覆った。


 同様の現象はシーザーにも起きたようで、振り払うように体を震わせた。


「魔道の一種です。すぐおさまります」


 子響の言葉通り、教えてくれた直後には、耳から脳への違和感は消えていた。


 改めて、しん、と静まり返っている部屋を見渡すと、さらに奥に続くもう1つ扉があることに気付いた。


 ノブに手を置いたリュングは、背後で子響が扉を閉める音を聞くと、意味深にロンフォールへ振り返った。


「この先にいらっしゃる」


 緊張が極まるのが分かった。


 ごくり、と唾を飲みこんで頷くと、ゆっくりと扉が開かれた。

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