表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/68

鷲獅子 Ⅱ

 改めてしでかしたことの重大さを突きつけられ、ロンフォールは返す言葉がない。


「あんたは、神子守長でもあったんだよ、その神子の」


 吐き捨てるスレイシュの言葉を聞き、ロンフォールは恐る恐るリュングと子響の顔を見る。彼らは一様に、視線を伏せぎみ合わせず頷くのみ。


「我々は、禍事の神子について、人間族の手に余ると踏んでいる。一部ではそう豪語している片翼族もいる。導師が神にも等しい双翼となったのであれば、その導師のもとで神子を御すべきだ、と」


「そうした意見を、人間族はおろか、この世全てを支配しようと目論んでいる、と極端に解釈して、片翼族__特に、ノヴァ・ケルビム派を危険視しているのです」


「でも、どうして乗り込んできたんだ? 夜にこそこそと乗り込んだ、ってことなんだろ?」


 こつこつ、と指先でスレイシュは幾度も叩く。


 乾いた小さい音だが、とても際立っているようにロンフォールの耳には届き、そちらに視線を移す。


「何度も、何度も、こっちは対話を求めた。だが、お前ら帝国の奴らは、相手にもしなかったじゃねえか。だから強硬手段に出ざるを得なかった。挙句、導師を__。本当に、都合がいいよな、当事者のくせに記憶をどっかやっちまうなんて」


「俺だって、好きでなくしたんじゃ__」


 バン、とスレイシュが食卓を叩くので、ロンフォールは思わず言葉を詰まらせた。


 その音を主人の危機と思ったのか、シーザーが身構える気配がしたので、ロンフォールは咄嗟に、待て、と制する。


 そう強めに短く言えば、止まるということは、子響の助言あって理解できたことだった。__よく訓練されているなら、強い命じ方で、思うとおりになるはずだ、と。


 命令を受けた狗尾は、毛を逆立て、若干牙を見せてはいるものの、やや下がったように見える。


 その犬の様子を鼻で笑うスレイシュ。


「どうだかな。帝国様としては都合がよかったんじゃないか? 無断で踏み入ったことで、導師を殺める口実をえられたんだし。__ああ、そうか……そうなるよう仕向けたのかもしれないな。狡猾だともきいているし、帝国は」


「スレイシュ、いい加減にしないか」


 子響の諫言を以ってしても、スレイシュの態度は改められない。


 それどころか、賛同を得られないことが不服のようで、彼は席を立って踵を返した。


「どこへ行く、スレイシュ」


 リュングの声に、ノブに手を置いたまま動きを止める。


「すみませんが、席を外させていただきます」


 首さえこちらに向けないその態度。子響が咎めようと席を立つが、それをリュングが手で制す。


「……ならば、頭を冷やしてから、改めて私の部屋へ来い」


 御意、とそれだけ答え、扉の向こうへ姿を消す。


 大きな音を立てて閉まった扉__その向こうへ消えた後姿を思いながら、しばらくロンフォールは見つめていた。


「レーヴェンベルガー卿、すまないな」


 呆然とそれを見送っていると、リュングが謝るので、怪訝にして彼を見た。


「あれは、自分に対して腹立たしいのだ。導師と行動を共にしながら、守れなかったこともそうだが、それ以上に、敬愛する導師が招き入れた客人に対して、受け入れることができない自分の狭量さにな」


 記憶のない自分が、ただ単に腹立たしいのではないのだろうか。


 スレイシュの目に、白を切って責任逃れをしているように映っているからこそ、彼の怒りを増長させているのではないのか。


 必死に分かろうとしている姿そのものが、また腹立たしいのかもしれない。


 リュングは、スレイシュが去っていた扉を、遠い視線で見つめながら続けた。


「__幼さ、だ。レーヴェンベルガー卿が気にすることではない。これは、彼自身が作り出している問題だからな」


 それはそうと、とリュングがロンフォールへ視線を戻すので、それに応じるようにロンフォールは姿勢を正した。


「__とても悩んだのだが、今日、導師に会っていただこうと思っている」


 唐突な提案にロンフォールは、どきり、とした。


「でも、眠っているって……」


「そうだ。だからこそ悩んだ」


「導師の無様を晒すことになるし、無防備なのだから危険すぎる、とスレイシュは猛反対していたのもあって……。それで、あの悪態をついてしまっていたのだと思います」


「そうだったんだ……」


「導師は、貴方を希望と仰っていた。我々の希望は、導師の目覚めだ。もし、その希望の意味するところが、我々の考えた答えだとするならば、あるいは……と思ってな」


「だから、今朝、部屋に得物を置いてきてもらったんです」


 ロンフォールは腰の当たりに手を伸ばすが、そこには昨日、刷いていた太刀はない。食堂へ移動する際、子響に指示されて、太刀は部屋においてきていた。


「それに、導師の顔を見れば、それが記憶を戻すきっかけになるかも知れない。あなたにとっても有益だとおもえますが」


 子響の言いたいことは分かる。


 期待もあるが、同時に不安もある。


「会ってどうしたらいい……?」


「導師の顔を見るだけでいい」


 なんとも拍子抜けする、あっさりとした回答だ。


 たったそれだけでいいのであれば、大丈夫だろう。だが、本当にそれだけで解決になるのだろうか__。


 疑問を抱くロンフォールは、やや間をおいて、わかった、と頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ