第五章
第五章
リュウは昨夜、「だったら、他の電話から電話しろ。俺はお前に何か起きて電話できない状態かと思って死ぬほど心配したんだぞ!」と怒鳴りその数秒後清羅が泣きそうな顔をして二階へ消えていくのを呆然と見ていた。子供のころからめったに取り乱したりしない清羅が何故ああも取り乱したのだろう。その答えは「聴心術」という一単語で見事に解決した。唇をかみ締める。リュウは自分の心を聴かれるのをあまり好まない。少し文句を言ってやろうか、それに俺の質問も終わっていないし。窓から綺麗な夕日が見える。そして、その夕日を見たときリュウははじめて味わう奇妙な感覚に襲われた。
気が付くとリュウは清羅と自分と少女が岩山を走っているのを見た。清羅は肩を銃で撃たれた後のようなものが残っているが、それほど気にしていない様子で少女の手を握りながら走り続けている。だが、肩からあふれる血は止まらずやがてひざをつきその場で倒れこむ。慌てて少女とリュウが肩を貸そうとするがそれを断わりしゃくりあげている少女を抱きしめ耳元で何かを囁き、慰めるかのように涙でぐしゃぐしゃになった少女の顔に笑いかけた。こんどは石のように固まっているリュウを手招きした。そして、彼に一言二言早口で何かを伝える。そして、リュウは自分の無二の親友を抱きしめて少女の手をとりまた走り出した。清羅の薄い緑色の目は強い光を放っていた。
また場面が変わる。今回自分は理科の実験室のようなところに立っていた。そして清羅が暗い実験台の上固定されに寝かされているのを目にした。腕と足を動かそうとするが台に固定されていており、それは無駄な抵抗であった。「ガチャ」とドアの開く音がする。スキンヘッドの背の高い男が手に小刀を持って鼻歌を歌いながら実験室に入ってくる。はっとしてリュウは気が付いた。これは理科室ではない。解剖室だ。小刀が不気味な光を放つ。清羅の息を呑む音が聞こえる。それを見て男がにやりと残酷に笑う。耳を覆いたくなるような苦痛の叫びと目を覆いたくなるような惨劇がリュウの目の前で起きた。
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
リュウの叫びとともに場面が変わる。次に目の前に広がったのは廃墟だった。まるでニューヨークの町をトルネードが通り過ぎたような光景だった。やけに静かだ。カラスの鳴く声さえ聞こえない。ふと、耳にすすり泣くような声が聞こえる。声がした方向を振り返るとそこには20代ほどの女性が涙を流しながら危ない足取りで歩いていた。さらによく聞くと、その女性はなにか呟いている。全神経を耳に集中させ彼女は何を言っているのか聞こうとする。そして彼は聞いた。何かの間違いかと思いもう一度聞こうとするが彼女の呟く言葉は変わらなかった。
「パパ、清羅、リュウ...」
次にリュウが見たのは日が沈んだ後のかすかに残る光とそれを壊そうとする闇だった。