第2章
「ふー…」灰色の空、忙しく行きかう車、そして人。久々の都会を目にすると自然に長いため息が出てしまう。さらに、冬も終わり春が来ようとしているのにまだ息が白いのに気が付き清羅はさっきよりさらに長いため息が自分の口から漏れて凍ってゆくのに気が付く。いつになったら春が来るのやら。オバーコートを羽織り、昼のニューヨークを清羅は憂鬱な気持ちで歩いていた。しかし、リュウにまた会えることを考えると、清羅は寒さを忘れることができるのであった。
「お客さん着きましたよ。」
ふとめを覚ますと、清羅の目の前にブルドッグのような顔をした男がいた。びっくりして身構えたがそれは一時間前に清羅が拾ったタクシーの運転手の顔であること思い出し料金を払いタクシーを降りた。目の前に広がる少し小さめで地味な、しかし、彼にとってかけがえのない場所は、雲の隙間から差し込む日光を受け明るく見えた。
「お帰り、泥は外でちゃんとはたいてから入ってこなきゃ夕食抜きだぜ。」
リュウのうれしそうな声が清羅だけに聞こえる。言われる通りに皮靴についた泥を玄関マットの上ではたいてドアを開ける。そして、二階から顔を出してにっと笑っているリュウを見上げて言った。
「ただいま」
「んで、今回もうまくいったのかい」
わざとらしく心配しながらリュウが聞く。かえってきたら毎回これだ、清羅は心の中で軽くしたうちしてみる。まるでそれが聞こえたかのようににやりとするリュウ。
「おい、リュウ。答えが分かっている質問して何の得があるんだよ、ばか。」
むっとしてリュウが金髪の前髪を後ろにやりながら言い返す。
「ばかとは失礼な。それに第一今回は千里眼使ってお前を見守ってなんかやんなかったもね。時差のある日本を水晶玉通してお前をずっと見るほど俺は暇じゃないだん。」
心の声を聞かなくとも、過去の映像をスキャンしなくとも、彼の発言はうそ丸出しであった。案の定心の声を聞いてみると「うそ、うそ、うそ、」と叫ぶような声が聞こえた。
「んで、どうだったんだ。」リュウが真顔で聞いた。清羅はリュウが千里眼と水晶玉を使ってでも完璧な映像を見ることはなかなかできないことを知っていた。ましてや、今回清羅とリュウは地球の反対側にいたのである。おそらくぼやけた映像しか見れなかったのだろう。いつの間にか「うそ、うそ、うそ」の心の大合唱は終わっていた。残されたのは、沈黙である。
「とにかく、座ってくれ。」
清羅は静かに言った。リュウは黙って清羅の勧められたいすに着席し、清羅は机を挟んで反対側のいすに腰掛けた。そのとき初めて、リュウが怒っているいるのに気が付いた。まるで、静かに青く燃えさかる炎のようにリュウは静かに、しかし威厳のある空気をまといながら清羅の目の前で悠々と黙って腰掛けていた。大きく深呼吸をする。そして、親友に今回の冒険をすべて語った。