表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キスーkissー  作者: しずく
3/5

青い眼鏡と甘い声

「ちょっと手伝ってほしいんだけど……って、おやおや?」


 青いフレームの眼鏡をかけ直し、部屋内にいる二人を凝視した。


一人は既知の存在。中学時代からの友人だ。頭痛でもするのか、頭を押さえている。


そして、もう一人。こちらは未知の存在。

顔立ちはまあまあ整っている方で、黒い髪の毛は肩にかからない程度の長さだ。中肉中背で、特に目立った特徴はない。

靴のサイドに引かれている横線の色は赤。新入生とわかる。


新入生がここに来た理由は何なのか。

今は放課後。部活動の時間だ。

一番考えられるのは、「見学に来た」だろう。

判断の前提として、この学校は何かしらの部活動に所属しなければならないという面倒な規定がある。そして、この教室は広い校舎の中でも三階の奥の奥に位置する。生徒が出入りする一般教室からは遠く離れているこの場所に理由もなく来るはずがない。


あるいは、校舎内を探検していたという線も考えられる。この校舎は巨大迷宮だ。好奇心旺盛な生徒なら、探検心がくすぐられるのも無理はない。

それとも、「用事があって来た」という選択肢は考えられるだろうか。彼女たちが入学してから、まだ数日しか経っていない。そんな中、この辺境の地である生物研究会に用事があるとは考えにくい。


「あの……」

「ん? ああごめん」


眼鏡の女子生徒は顔を上げ、素早い動作でドアの近くにあるスイッチを押し、教室内の電気を付けた。


「状況説明をお願いしてもいい?」


眼鏡の女子生徒は新入生に向き合った。


「あ、えっと、その……私まだ校舎に慣れてなくて道に迷ってしまって……」

「ふむふむ」


眼鏡の女子生徒は頷きながら耳を傾けた。


「いつの間にかこの部屋にたどり着いたので、藁にも縋る思いで部屋に入ったら、その人がいて」


新入生は床に座って頭を抱えている女子生徒を目線で指した。


「その人に状況を説明し終えたら、その人が迫ってきて、そしたら急に体が動かなくなって。それで、あ、あの……キスされました」


新入生は視線を下にそらした。眼鏡の女子生徒はこめかみを手で押さえる。


「そしたら、その人が急に床に倒れ込んで」

「ふーむ」


眼鏡の女子生徒は顎に手を当て、まるで探偵のような風貌で、話の内容を考察し始めた。


まず、校内で迷ったことは問題ではない。上級生でも度々迷うことがあるからだ。

引っかかるのはその後。「体が動かなくなった」ということと、「彼女が新入生とキスをした途端に倒れこんでしまった」ことだ。


まず、一つ目の体が動かなくなったことだが、新入生は体を道具で固定されていたわけではない。

なので単純に考えれば、金縛りにあったということになる。寝起きに金縛りになることはよくあることだが、放課後のこの時間帯に金縛りになるのはめったにない。

だが、全くないわけではないので、可能性として挙げておく。

そして、金縛りではない別の可能性がひとつ考えられる。彼女が絡んでいる場合は、こちらの可能性が高いと思われる。


次に、彼女が倒れ込んでしまったことだ。

貧血、低血糖、てんかん……。考えてみると、さまざまな原因が浮かび上がってくる。

今彼女は座り込んでいるので、意識はすぐに回復したということだ。それほど深刻な事態ではないだろう。

彼女の家系に糖尿病などの持病の人がいると聞いたことはないので、倒れた原因を絞ることは簡単ではない。

傍から見る限りでは、彼女は健康的な生活をしている。病気で倒れたというのは少し違う気がする。


「あの……」


新入生のか弱い声が耳に届き、眼鏡の女子生徒は手を横に戻して向き直る。


「私は2-Hの朝比奈(あさひな)真凛(まりん)。生物研究会の一員だよ」

「彼女は同じクラスの西園(にしぞの)佳恋(かれん)。彼女も研究会のメンバーだよ」

「はい。……あ、私、一年の水樹(みずき)翠雨(すう)です」


新入生は気の抜けた自己紹介をした。


「それで、彼女の容体はどうだい? 意識ははっきりしてるかい?」

「えっと、記憶があいまいだそうです」

「ほう。おーい佳恋」


真凛は頭を抱える彼女の目の前で上下に手を振りかざす。

すると、彼女はゆっくりと顔を上げた。その表情は曇っている。


「佳恋、大丈夫か?」

「うん……」


佳恋は重々しい口調で応えた。


「倒れたときに頭でも打った?」

「ううん……」

「保健室行っとく?」

「……いい。もう大丈夫だから」


佳恋が床に両手をつけ、立ち上がる挙動を見せたので、真凛は手を差し出した。


「せーの、よっと」


真凛は掛け声を出し、佳恋を引っ張り上げた。


「あら、とっても可愛い子がいるわ」


佳恋は目を見開い。その様子を見て、新入生は顔をこわばらせた。


「可愛い子がいる」という佳恋の言葉に真凛は引っかかりを覚えた。初対面の相手に対しての発言であれば自然だが、二人はすでに顔見知りのはずだ。であれば彼女の発言は「可愛い子」で止まるのが自然で、「いる」という言葉は必要ない。新入生の存在を伝えたいのであれば、「いるわよ」と呼びかける形になるはずだが、彼女の発言は、今ちょうど見つけたといったような印象だ。


「少しじっとしててね」


佳恋は甘い声でそう言うと、新入生のもとへじりじりと迫っていく。新入生は後ずさりしている。

真凛は佳恋を止めるため、二人の間に割って入った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ