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キスーkissー  作者: しずく
2/5

ファーストキスの味は……?

 恋愛物語のワンシーン。


見つめ合う男と女。


緊張で震える手。

男は女の肩を掴む。


女は目を閉じて、優しい口づけを待つ。


男は唾を飲み目を閉じ、そして、



唇が重なりあう。



唇を合わせた二人にもたらされるのは、



これまでの人生で一番の快感。



口づけによって、二人の愛はさらに深まる。



そして、顔を離した後も、その高揚感は続く。




唇は離れるけれど、彼らの想いは固く結びつく。





いつか恋をして、そんなロマンチックな体験をする時が来るのだろうか……。



♡♡♡



 次の瞬間、彼女らの唇が触れ合った。


ひっそりと茂る木立のように穏やかで、そして鮮やかな口づけ。


マシュマロのように柔らかく、


新鮮な魚のようにハリのある、


瑞々しい二対の唇。


紺色の空に遠峰から一筋の白い光が差し、その景色が広大な青い海に映し出されるよう。


無限に広がる宇宙の中で、この上なく精緻で煌びやかな、


人類の極致を超え、筆舌尽くしがたい程に滑らかな唇の感触。



それから数秒間、翠雨の思考は目まぐるしいほどに加速していった。



万物の誕生から終わり。雄大な自然と宇宙の神秘。


機械でも処理しきれないほどのイメージが、翠雨の脳内を駆け巡った。



そして、唇がそっと離れる。翠雨の鼓動は激しかった。




ほんの数秒の間、翠雨は自分の身に何が起こったのかわからなかった。


しかし、ドサッと何かが倒れる音がして我に返る。


「いまのは、なんだったんだろう……。あれ?」


両手を握って開き、見えない束縛から解放されていることに気づく。

その目の前には、今しがた口付けをした女子生徒が横向きに倒れていた。


「えっと、あの……だ、大丈夫ですか?」


女子生徒の瞳には生気がない。魂を抜かれた人形のような彼女に、翠雨は恐る恐る近づいて様子を伺った。


声をかけてから十秒ほど、彼女はぐったりして動かずにいたが、しだいに瞳に光が灯り、


「私は何を……」


上体を起こして頭を抱えた。


「あの、大丈夫ですか?」


翠雨が声をかけるが、女子生徒には聞こえていないようで、反応は示さなかった。



座り込む女子生徒を見ながら、翠雨は考えた。


なぜ体が動けなくなったのか。両手両足、それから首回りが石のように固くなり動かなかった。

しかし顔の各パーツは動かすことができた。どうして顔だけ動かせたのか。


「記憶があいまいだわ……」


女子生徒が弱々しく呟いた。

それを聞いて、翠雨の疑問がひとつ増えた。なぜなら翠雨には一部始終の記憶がある。

女子生徒が頭でも打っていない限り、記憶が飛んでしまうようなことはないだろう。


そして何よりも疑問なのは、唇が触れた瞬間に沸き起こった表現しがたい感覚だ。

膨大な量のイメージが雪崩のように脳内に流れ込んできた。


森。夕焼け。海。


宇宙が誕生し、粒子が衝動して星々が形成されていく様子。

その星々の中に生物が誕生し、さまざまに形を変えて進化していく様子。

寿命を終えた星が大爆破する様子。


数秒の間で目の当たりにした大自然や宇宙の光景。

なぜそれらのイメージが脳内に浮かび上がったのか。


だめだ、全くわからないーーそう翠雨が結論付けたところで、部屋内のドアが開いた。



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