9話・アーサーと五つ子たち
数日後。私は孤児院に窺う為のクッキーを張り切って焼いていた。チョコチップクッキーが好評だったと聞いて朝早く起きて、料理長の許しをもらって調理場を借りて焼いていた。夢中になって焼いていたらお出かけの時間が迫っていたらしい。
侍女のララが呼びにきた。
「お嬢さま。間もなくお時間になります。お着替えを」
「分かったわ。今行く」
食堂から出て部屋に向かうと、ソファーに思わぬ人が待機して待っていた。
「ど、どどど、どうしてアーサーいるの?」
「孤児院訪問に行く日だろう? 送っていくって言っただろうが」
覚えてないのか? と、アーサーは呆れ顔。忘れてないけど、でももう来ていただなんて思わないじゃない。この間のキスといい、突然で驚くんだけど。
「どうした? 着替えないのか?」
「アーサー。応接間で待ってて」
「なんで?」
アーサーは、ソファーから立ちあがろうとしない。わたしは困惑した。
「なぜってこれから着替えるから遠慮して」
「俺とおまえの仲だ。気を使う事はないだろう?」
着替える間、この部屋で待つというアーサー。どうしたらいいかと思っていたら可愛い妹達が部屋の中へ入り込んで来た。
「わあい、アーサーっ」
「おう、五つ子。今日も元気だな」
アーサーの周囲を妹達が取り巻く。そのうちにとわたしはララに目配せして隣室で着替える事にした。何事もなければいいけど。アーサーなら五つ子のあしらいに慣れているから大丈夫よね?
聞き耳を立てて隣室を窺うと、五つ子とアーサーの談笑している声が聞こえてきた。
「アーサー、ねっ、ね。遊びにきたの?」
「遊びに来たんじゃない。おまえらの姉さんが孤児院訪問に行くから付き添いで来た」
「いいな、いいな。お姉さまとデート」
デート、デートとはやし立てる妹達。それに満更でもない様子のアーサー。
「お、シュネ。今日も髪型可愛いな。リズに編んでもらったのか?」
「そうよ。いいでしょう? スノーとお揃いなの」
「シュネとお揃いでだけど、リボンの色が違うんだよ」
「シュネがピンクで、スノーがブルーなのか。分かりやすくて良いな」
シュネとスノーのリボンが違うのは、ふたりの好みが違うからなんだけど、アーサーとしては見分けが付くからいいと言いたいらしい。そういう彼は五つ子を見分けられるのだけど。
五つ子達にとってアーサーはもう家族のようなもの。懐いています。