87話・王宮が二分することは避けたかった
「確か獅子族は一子しかもうけないと聞いているわ」
「その通りだよ。私の母は政略結婚で父王のもとに嫁ぎ、私を産むと亡くなった。我が国では第一子が王の後を継ぐことが決まっていた。その為、幼い頃から私には帝王学が施されてきたわけだけど、母の後に父王のもとへ嫁いできた継母が弟を生んだ事で、継母を始めとする親族達が、後継者は私ではなく男児である弟王子にと言い出したんだ」
「それで陛下は?」
「一度はもうすでに決めた事だからと継母達の言う事を一蹴した。しかし、継母は諦めなかった。他国では男児が後を継いでいる。弟王子は聡明だし、王女殿下には他国の王族の元にでも嫁いで頂いて。と、頼んだようだ。継母は陛下に望まれて嫁いできた女性だからね、陛下は継母には大層甘いんだ」
ロリアンは寂しそうにほほ笑んだ。
「私は幼い頃から教育を施されてきたからそれが急になくなって無気力になった。今まで頑張ってやって来た事が突然しなくてよい事になったのだから、何をしたらいいのか分からなくなったんだ。継母は女性なのだから自分磨きに時間をかければいいと言ったが、そこに何の魅力も感じなくてね。世の中に一人取り残されたような気がしていたら、ある日、中庭であいつに会って言われたんだ」
あいつとはセージのことだと察しが付いた。ロリアンが遠くを望む目をする。
「殿下はいいですね。そうやって無駄な時間を潰していらっしゃるのですから。私は猫の手も借りたいほど忙しいと言うのに。お暇なら私の手伝いぐらいしては如何ですか? ってさ」
「お兄さまが失礼なことを言ってごめんなさい」
セージはやっぱり国を越えても性格は変わっていなかったようだ。傲慢なもの言いは健在のようで、申し訳なく思っているとおでこを撫でられた。
不意打ちで驚くと、ロリアンが言った。
「ロリアン……?」
「嫌だったか? こうするとセージは機嫌が良くなるものだから」
「嫌じゃないけど……、どうしてそれを?」
自分達うさぎ族は、おでこを撫でられると機嫌が良くなる。それは親しい間柄の人にしか許さない行動なのだけど。ロリアンが知っているということはセージから聞いたとか? もしそうならセージはロリアンに対してずい分、気を許していることになる。
「アイツの物言いは初めは気に障ったけれど、段々それがあいつなりの思いやりなのだと気がついてからは気にならなくなっていた。あいつとは一番、気が合うんだ。意外に思われるかもしれないけどね」
「じゃあ、国を出たのはセージお兄さまに勧められたから?」
「いや。違う。弟が成長するにつれて王宮内が騒がしくなって来たせいだ。王妃の実家が力を大きく持ち始めて政務に干渉し出して、宰相がいい顔をしなかった。私が王位継承権を破棄させられた事も、現王妃が自分の子を後継者にする為に陛下を唆したとして糾弾しようとしていた。あのまま王宮に留まっていれば私は次期王に対する反対勢力として注目されていただろう。王宮が二分することは避けたかった……」




