81話・可哀相なリズ
「か、カミーレ。お願い、アンネリース嬢を解放して」
「姉上?」
「お願いだから……」
「あいつもそう言ってるぞ」
何があったのか分からないけど、この間まで気が強くわがままだった王女さまが、アーサーと目が合うとびくんと身をすくめ、ブルブル震えだした。
「お願いだから、アーサーに彼女を返してあげて……」
涙目になりながら懇願してくる。王女とは仲が良いカミーレのこと。当然、姉の願いを聞くだろうと思ったのに違った。
「嫌だよ。僕はリズが欲しいんだ。アーサーは姉上にあげるって約束しただろう? 駄目じゃないか。ちゃんとアーサーを捕まえておいてくれないと困るよ」
話が見えてこないわたしの前で、アーサーが怒鳴る。
「カミーレっ。これはおまえが全て企んだことか?」
企む? 訝るとカミーレと目があった。カミーレは悔しそうに言った。
「そうだよ。全部僕が考えたシナリオだ。姉上はアーサーを諦めきれないようだったから、アーサーの領地に乗り込んでアーサーを誘惑すれば良いと言った。その間にリズをこの館に招いて美味しく頂くつもりだったのに……」
カミーレの言葉で何となく理解した。自分達はナナホシの好意でここに旅行に来たつもりでいたけれど、実際にはカミーレが全て用意したことだったのだ。どうしてアーサーとパメラ王女が一緒に姿を現わしたのかも分かった気がした。
カミーレがパメラ王女を唆したのだ。それに素直に応じた王女も王女だけど、そのような尻軽な行動を取ったなら王女には醜聞にしかならない。
それをカミーレは、あまりにも軽く考えているようで頭痛がしてきた。カミーレはこんなにも愚かしい真似をするだなんて信じたくなかった。
「カミーレ、どうしてそんなことを? 未婚前の女性がそのようなことをしたら、いくら王女さまだって社交界で悪く言われるわ。そしたらパメラ王女には不評にしかならないのよ。下手すれば修道院行きじゃないの」
「姉上は我がまま過ぎて皆に嫌われている。そんなのは今更だよ。それよりもお人よしのリズ。きみはもっと自分の心配をしたら?」
「あなたに言われなくとも……」
カミーレから距離を取ろうとしたのに、先に腰に腕を回された。
「可哀相なリズ。アーサーとは今日を最後にもう二度と会えなくなるかもね」
「あなたおかしいわ。今までのカミーレはどこ行ったの?」
「きみに受け入れてもらえないと知った時から僕は少しづつ、歪んで行ったのかもね」
「カミーレ、リズを放せ。コイツがどうなってもいいのか?」
アーサーはロリアンから離れ、パメラ王女のもとへと飛んだ。アーサーに牙を剥かれて「ひぃっ」と、悲鳴を上げる。




