78話・弟に会いには行かないの?
わたしは何かしようとしていたのに忘れてしまったことを気にしながらも、調理場でロリアンと二人でじゃが芋の皮むきをしていた。
「さすがロリアン。手馴れた手つきね?」
「リズ。きみも上手いね。結構、やっているのかな?」
「うちは母がわたしが幼い頃に亡くなったものだから、乳母と一緒に五人の妹達の面倒をみてきたの。皆、食欲旺盛だから三食だけじゃ足りない時があって。そんな時はサンドイッチや、パンを焼いておくのだけどすぐに無くなっちゃうし、他にもおねだりされるから」
「そうか。母が亡くなって大変だったのだな? 母親代わりとして育ててきたから妹達とも仲が良いんだろうな」
ロリアンとすぐに気があい、手を動かしながら会話も弾んでいた。流し場にはどんどんじゃが芋の皮が山積みとなっていく。
「ええ。みんな家族みんな仲良しよ。ロリアンさんの兄弟は?」
「私には年の離れた弟がいる。でも、きみのように親密ではないな。一緒に食事をしたこともないし──」
「食事の時はどうしていたの?」
「別々に食べていた。私の母は先妻で弟の母は後妻だから周囲が色々と気を使った結果なのだろうが」
「それは寂しいわね。弟君は何歳?」
「私が家を出た時は九歳だったから、そろそろ十四歳になるかな」
「じゃあ、五年も会ってないの? 会いにはいかないの?」
「そろそろ会いに行く予定ではあるけど……」
ロリアンは沈んだ声で呟いた後、顔をあげて言った。
「じゃが芋は終わった。次は何の皮を剥く?」
「じゃあ、にんじんをお願い」
「了解」
にんじんを手にしたロリアンは、手を止めた。




