75話・もう一人のヒーロー登場?!
「構わないよ。了解した」
あんな事があっただけに部屋の中に一人残されるのは怖かった。いつ、またカミーレが襲ってくるか分からない。ロリアンに部屋の外で待っていてくれるように頼むと快く引き受けてくれた。
初対面だというのに悪い人ではないようだと思うのは気を許しすぎだろうか? でも、今のカミーレよりはロリアンの方が信用がおけると思ってしまった。
クローゼットの中の服は華美でもなく、自分好みのすっきりした色合いに可愛らしい宝飾の付いたドレスが並んでいた。その中でも特に落ち着いた色合いのリボン付きの紺色のドレスを選び、部屋の外に出ると、部屋の壁に背を預けるようにして立っていたロリアンが「良く似合うよ」と、褒めてくれた。
カミーレがやってきて、応接間へと案内された。
「では紹介が遅くなったけど、ここの館の主、カミーレ。きみは料理長の許しを得てここにいたという話だけど、僕は報告を受けていない。きみは誰だい?」
若者は深く被っていたフードを取る。その中から現れた顔は整っていて、肩までの長さの金髪に、声音同様に中性的な容姿をしていた。頭は摩訶不思議な、異国で被るとされているターバンと呼ばれる布でぐるぐると包まれていた。
「私はロリアン。自称冒険者としか言えないな。ただ、ここに来る途中、路銀を使い果たし食べ物にも困ってこの近くの森で野宿していた。そしたら通りかかったダリルさんに事情を聞かれて彼の好意でこの館の調理場に泊まらせてもらっていた」
「なんとなく分かったよ。ダリルとしてはその森は僕の所有地でもあるからそこに見知らぬ者がいて気になったんだろう。お金がなくて食事にも困るきみを見かねて助けたわけだ」
「……ずっと居座る気はなかった。職を探してすぐにでも出て行く気だったんだが、なかなか雇ってもらえなくてね」
ロリアンと名乗った彼は、口調もどことなく市井には思えない、特権階級らしい、命じるのに慣れた感じがあった。どこかの国の子息なのかもしれない。
「それならロリアン、この館で働くがいい」
「良いのか? 素性の知れない私を置いたりして」
「素性が知れないから側において観察するさ。ロリアン、きみは何が得意だい?」
「そうだな。調理は得意だ。野宿生活をしていたから。あと今まで路銀が尽きると護衛の仕事とかをしていた」
「剣術に優れているのか?」
「優れているかどうかは分からないが、仕事になるぐらいには出来る」
「ふ~ん。当面は僕の従者をしてもらおうか」
「よろしく頼む」
ロリアンは一礼した。ロリアンのおかげで貞操の危機から救われたわたしには彼という存在が救いの神に思われた。
「よろしくね。ロリアン」
「よろしく」
ロリアンは落ち着いた目をしていた。彼が側にいるならもうカミーレは変な気を起こす事はないかもしれないと思った。カミーレと目が合うと、気まずそうに視線を外された。
「僕はしばらく部屋にいる」
「じゃあ、カミーレ。わたし、食事の用意をするわ」
応接間から出ようとする彼の背に声をかければ「頼む」とだけ声が返って来た。




