71話・あんたの謝罪なんかいらない
「ごめんなさい。わたくしそんなつもりはなかったのよ」
「わたし達は許す事は出来ないわ。そのあなたがどうしてここにいるの? カミーレと何か企んでいたの?」
「カミーレ? カミーレがどうかしたのかしら?」
パメラ王女はカミーレが仕出かしたことには気が付いてないようだった。五つ子達は行き場のない思いを抱えてぷいっと横を見る。
「もし、何か仕出かしたならわたくしが謝ります。どうか許して……」
「ずい分と我が黒狼族は舐められたものだな。王族の頭一つすげ替えることぐらい簡単に出来るというのに。あんたの謝罪なんて必要ない」
「アーサー?」
皆に取り込まれて五つ子達に非難されてうな垂れているパメラ王女のもとへ、苛立ちを露にしたアーサーがわき目も振らずに向かってきた。王女は震え上がった。彼の持つ殺気が凄かった。アーサーは王女の腕を乱暴に引いて外へと連れ出した。
「アーサー、どうしたの?」
アーサーは無言だった。王女を馬車の中へ足で蹴りいれると、自分は御者台に乗る。五つ子達が後に続こうとしたのを彼は制した。
「おまえ達はここで待ってろ」
「「「「「アーサー」」」」」
彼はいつになく怒っていた。五つ子達は素直に引き下がる。それを見届けてからアーサーは馬の背に鞭を振るった。
唸り声を上げ、皆を威嚇して追い払った金虎は、わたしの体の上から下りた。身を起こすとドレスの裾を噛み引っ張る。館の中へと連れ込もうとしているようだ。
あの大人しかったカミーレが獣化するなんて信じられない思いだ。わたし達、獣人は滅多なことでは獣化しない。獣化する者は猛々しい気質を持った者に多いらしく、女性よりは男性の方が獣化しやすいらしい。一度、獣化するともとの姿に戻るのには時間がかかると聞かされていた。
獣化した相手には話が通用しないから、まず逃げるように。と、父には言われていた。獣化すると理性がいつまで保っていられるか分からないらしい。
カミーレが獣化したときにまず思った事は、五つ子達を遠ざけることだった。わたしも獣人の獣化は初めて目撃したけれど、あの子たちには刺激が大きかったことだろう。皆、ブルブル震えながら青ざめていた。
門扉へと五つ子達を促がしてくれた侍女らには感謝している。もし、カミーレが五つ子達に牙を向けたなら、とても平静ではいられなかったと思うから。
獣化している彼を下手に刺激してはいけないと、大人しく彼の誘導に従うと一歩足を踏み入れた館の中は薄暗かった。




