54話・商人が訪ねてきました
「いやあ、リズはセンスがいいよね。ああ、これ欲しいなぁ」
「上げてもいいけど、カミーレが宮殿で着る事ないでしょう?」
「まあね。リズさ、自分のは作らないの?」
「自分用? 考えてもみなかったわ」
「きみのなら薔薇みたいな花よりも、菫のような可憐な花が似合うかもね」
「ありがとう。この先作る事はないと思うけど、参考にしてみるわ」
「これやっぱり貰っていってもいい?」
「いいわよ」
「お願いがあるんだけどなぁ」
「なにかしら?」
「これとついになる男性用の夜会服も作れない?」
「男性用ね。作ったことないけどやってみようかしら?」
「良いと思うよ」
カミーレのお願いに弱いわたしは頷いた。男性用の服にも興味が出てきたのもある。自分がどこまで挑戦できるか分からないけどやってみることにした。この時は所詮、カミーレとのお遊びだからと思っていた。
男性服を作るにあたって色々と試行錯誤していると、一人の商人が訪問してきた。相手は若者で紫ネズミ一族らしい。わたしには紫ネズミ一族とは全くと言っていいほど交流がない。何かしら? と、思っていると、侍女のララの話だとカミーレからの招待状を持ってきていると言う。
とりあえず会ってみることにすると、わたしよりはニ、三歳年上らしい彼は茶色の髪にこげ茶色の瞳をしていて背は小柄。紫色の大きな丸い耳と同色の尻尾が彼を童顔に見せていた。
彼は紫一族の長の息子でナナホシと名乗った。ナナホシ商会の経営者と聞いて驚いた。ナナホシ商会と言えば、国内で知らない者はいないほど有名なファッションブランドだ。主に王侯らや大貴族相手にドレスや、装飾品を扱っている。
「どうしてそのような御方が我が家に?」




