53話・わたしは縫製とか刺繍が得意
「アーサーは領地に帰っているんだってね?」
「そうなの。突然、帰ったみたいだけどカミーレ、何か聞いてる?」
唐突に聞かれ、逆に聞き返すとカミーレは首を横に振った。その時、カミーレの鼻先がピクピク動いたのだけど、アーサーのことで頭が占められていたわたしはそれを見逃した。カミーレは嘘をつく時、鼻先がピクピク動く。
「……いいや。何も聞いてないよ」
「カミーレも知らないだなんて。何が起こってるのかしら?」
「さあ、そんなことよりもリズ、今日は何する?」
「そうね、ああ、カミーレによく似合いそうな薔薇色のドレスがあるの。それをカミーレに着て貰いたかったのよ」
「薔薇色? 素敵だね。見たい。見せて」
クローゼットの奥からわたしの作ったドレスを持ち出してくると、カミーレはすごい。と、褒めてくれた。
「これリズが作ったんだよね?」
「そうよ。飾りとか自己流だけど……」
わたしは縫製とか刺繍が得意で、ドレスとかも自分で作ったりする。別に我が家が貧乏で内職が必要とかではない。ただ、作るのが好きなだけで──、五つ子達は小さい時からやんちゃでしょっちゅう衣服を破ることも多く、それも毎日、一人ではなく五人そろって破くので侍女たちと必死に繕っていたら趣味になっていた。
でもプロではないので、公の場まで披露する勇気はなく大概がタンスの肥やしとなる。それを見かねたカミーレがモデル=着せ替え人形と化して、わたしをにわかのデザイナーにして楽しませてくれていた。
「リズ。天才」
「大げさよ。わたし以上の腕前のデザイナーさんや、お針子さんなんて世の中、たくさんいるわ」
「そんなことないよ。ここの作り物の薔薇なんて凄いよ。本物かと思ったよ」
「ありがとう。まあ、座ってカミーレ」
「うん」
今日はカミーレをどんな風に着飾ろうかと、浮き浮きしてきた。カミーレを着飾らせ、頭に薔薇の髪飾りも挿す。薔薇のドレスは襟ぐりが開いているもので使用するなら夜会用だ。首にはチョーカーも下げて見た。




