28話・なぜリズにこだわる?
物心付いた時からリズは俺の側にいた。自然とリズは俺が守らなくてはいけない人物となり、異性として意識し始めてからは、彼女の側に近づく同性たちをけん制するようになっていた。
リズはカミーレがゆくゆく他国の王女、もしくはそれなりの高位貴族のご令嬢と婚姻を結ぶことになるだろうと思っている。カミーレが自分に淡い恋心を持っているなんて知らない様子。
今も俺が弟に思うカミーレをけん制してるとしか思わないで、馬鹿馬鹿しいことをしているとしか思わないようだ。
「大人げない」
「そういうきみは隙がありすぎだ」
忠告する俺の言葉に意味分からないと首を傾げ、カミーレを見ていた。アイツは苦笑を返すしかない。
「アーサーが来ちゃったから、僕帰るね」
「おう、帰れ、帰れ。迎えなら外で馬車を待たせている」
「アーサーっ」
リズは俺のだからな。と、いう意味で彼女の腰に手を回せば、カミーレは悔しそうな顔をして「お邪魔しました」と、言って踵を返しかけ振り返った。
「そうだ。今週末、孤児院を訪問する予定なんだけどリズも来る?」
「えっ? わたしもいいの?」
「うん。非公式のものだし、前にリズが焼いてくれたチョコチップ入りのクッキーを孤児院の子供たちに差し入れたら好評だったんだ。母上もリズに会いたがっていたよ」
「じゃあ、窺おうかしら?」
露骨な誘い方だ。リズは気がついている様子はない。俺の前でいい度胸だな。叔母上の名前まで出してくるとは。卑怯なヤツ。
「いいんじゃないか? 行っても。アザリアさまがご一緒なら問題ない」
叔母上ならおまえが例え息子だからといって、他人の許婚に言い寄る息子の肩はもたないぞ。あの方は公正であろうとするからな。
叔母上の名前まで出してきたんだ。じゃあ、公正に見てもらおうじゃないか?
アザリアさまは俺の叔母でこの国の王妃。父と同母の兄妹で曲がった事が大嫌いなお方だ。いいんだな? カミーレを軽く睨むと、肩をすくめてヤツは言った。
「じゃあ、当日馬車で迎えに来るね? リズ」
「それはいらない。俺の家の馬車で送るから」
「了見が狭いね、お兄ちゃん」
「おまえの兄になったつもりはない。さっさと帰れ。リズは俺の許婚だ。俺が責任持って送る」
なんでリズをおまえが迎えに来る? リズは俺の許婚だぞ。俺の家の馬車で送るのが当然だろう? でしゃばるな。
「そう。分かったよ。ハイハイ、お邪魔虫は退散するよ」
睨むと、カミーレはそそくさと退出して行った。あ~あ。胸糞悪い。アイツ、なんでこうもリズにこだわる? アイツなら他にもご令嬢を選び放題だろうが。




