16話・隠し子ではなくて妹です
「「「「「パパっ」」」」」
ぎょっとするアーサーに皆が一斉にすがりつく。普段五つ子達はふざけて屋敷の中でアーサーをパパと呼ぶようになっていた。アーサーも妹たちに「パパ」と、呼ばれて嫌そうでもないので放置していたのだけど、さすがにこの場で「パパ」呼びはないだろう。そのせいで約一名、それを信じた人が現れた。
「アーサー、あなた子供がいたの? ベクトル嬢とはまだ正式に婚姻していないわよね?」
アーサーとわたしが許婚であることを、王女殿下はご存知だったようだ。それなのに言い寄るような態度を見せたのは問題ありだと思うのだけど、そこはまるっと忘れたのか、軽蔑した目線を向けた。
この国では婚姻してないのに、先に子供を成すと良く思われない傾向にある。王女殿下は五つ子が、わたしとアーサーの間に生まれた子供だと誤解したらしかった。
「姉上、この子達はリズの妹たちだよ。アーサーの子供じゃない」
「まあ、そうだったの? 可愛い子たちねぇ」
カミーレがご丁寧にもすぐにばらしたので、不機嫌そうになっていたパメラ王女は機嫌を直した。
王女殿下が持ち込んだカナッペを、アーサーやカミーレの手を借りて食堂へと運び込むのを見ていた五つ子達は思い出したように言った。
「お姉さま。あのね。わたしたちもね、サンドイッチ作ってきたの」
「サンドイッチ?」
わたしの顔色を窺うように、シュネが言って来た。他の四人も言うか言うまいか悩んでいたようで、シュネが言ったのをきっかけに話し出した。
「お姉さまが今日、孤児院を訪問するって聞いたからこっそり用意していたの。キュウリとハムのサンドイッチをね」
「わたし達で作ったのよ。料理長に教わっていたの」
「お姉さまと一緒に行きたくて毎日、いっぱい練習したのよ」
スノーやニィーベが続いて言う。五つ子達は自分たちも連れて行って欲しかったのだと暴露してきた。こっそり練習までしてきたのにアーサーに留守番と言われて戸惑ったようだ。




