サラウンドの部屋
二時間待っても、技師は来なかった。
——どうしたものだろう。
しばらく前に召使いが運んできて、テーブルに置いた紅茶も、すっかり冷えきってしまっていた。
私は焦ってこそいなかったが、さすがに手持ち無沙汰になってきた。
ソファから立ちあがり、部屋の中をゆっくりと歩き回る。
床にはカーペットが敷かれており、靴音もひびかなかった。
部屋の内装は落ち着いた雰囲気で、調度はおそらく高価なものばかりだった。
ビロードのカーテンは開かれており、レースを通して午後の陽光が差し込んでいる。
書棚には、洋書や革装の単行本、専門書の叢書が整然と並んでいた。
置き時計が時を刻む音だけがむなしく響いた。
——まあ、待つしかないですな。
先客のもう一人の男は、ソファにだらりと腰掛けて、足を組んでリラックスしていた。
彼は三十歳くらいの男性で、背広姿だった。
彼もまた、録音マニアだと聞いている。
ふと、男は顔を上げ、言った。
——そうだ。この下に、サラウンドルームがあるんですよ。行ってみましょう。どうぞいらっしゃい。
そう言うと、立ちあがって、扉を開ける。
——いいの?
——ええ、以前、ご案内いただいたんです。
私たちは廊下を回って階段を降りた。
階段のすぐ下の空間を改造した部屋が、サラウンドルームだった。
私たちはそこに入った。
灯りをつける。
室内にはいくつものスピーカーが、それぞれ音響効果を最大限に発揮するよう、計算された箇所に配置されていた。
——なるほど。
私は感嘆した。
するとそのとき技師が部屋に入ってきた。
彼は慌てる様子もなく、にこやかに私たちに挨拶をした。
——おお、遅れてすみません。一時間ほど時間を間違えていました。
私たちは、そんなことは気にしていない、と返した。
——さっそく上映を始めましょう。
技師は部屋の灯りを消し、プロジェクターを点灯した。
スクリーンに映像が映る。
技師が担当した映画だった。
東北の港の風景。
それは、私も一度行ったことがある場所だった。
舞台は、昭和初期のようだ。
風景はCG処理されて、いくぶん昭和風になっている。
つづいて、コンクリートの岸壁の風景が現れた。
その姿はいかにも現代的であり、設定された時代背景にそぐわない。
CG処理も、そこまで隠しきれてはいないようだった。
上映はつづいた。