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chapter1:出会い

魔王フェンネルは、親友にして最愛の人を喪ってからも王として日々忙しく働いている。

そんな彼の今の日課は、アルカの墓に行きその日の出来事や仕事の愚痴なんかを語る事になっていた。

なので当然、今日もまたアルカの墓に向かったのだが―――――




「んっ…………?」


「………?」




――――――――そこには見知らぬ少女が……いや、身長こそ縮んでいるがなんとなく【勇者アデル】に似たような姿の少女が居た。

その少女の見た目は、アデルと同じく先端に向かって若草色になっていく空色のロングヘアで、アデルにもあった獣耳のような癖毛があり、ぼーっとしているせいか眠たげな半眼で無表情ではあるが全体的に可愛らしい顔立ちをしている。(アデルもそんな顔だった)

瞳の色もアデルと同じく見る角度により色が7色に変わる、宝石の様な瞳だ。

これは4振りの精霊剣と契約した結果でもあるのだが。

蛇足だが身長が縮んだ分は胸に回った様だ。なのでフェイは女の子だと認識した。

そんなあどけなさの残る少女を守るように4色の剣……精霊剣が舞っていた。

その精霊剣はフェイに気付くとじゃれつく様に周りを舞って、再び少女の周りへと帰っていった。

その様子と、少女の見た目から半ば確信した様にフェイはその少女へ声をかける……



「………キミは、【アデル】……なのか………?」


「……アデル…?そうとも言えるけど……わたしは違うわよ?」



そんな、まだ頭が回っていないのかフラフラしている少女のよく分からない言い方に対して、フェイは事情を知っているからかむしろ笑顔になって続けた。



「なら、キミは【アルカ】だね?僕の事は分かるかい?」


「……………えっ……?…あ………!

うん、わたしはアルカであなたはフェイ。

フェイは……フェイはわたしの、大切な人……!!」


「良かった……分かるんだ……なら、記憶喪失、という訳ではなさそうだけど………。」


「…うんっ♪」



【アルカ】

そう名乗った少女は、眠気が覚めたのかさっきまでの眠たげな無表情から一変して破顔し、フェイを見つめる。

そんなアルカは…………



「あのね?いきなりだけどわたしはフェイが好き!大好きっ!!

だからフェイのお嫁さんになりたいの!!」


「………………………えっ?」


「………だから!フェイが好きなの……!今の私は勇者じゃないし女の子!

だから、堂々とフェイに好き…って、言える……!だから、今度こそ後悔しないように伝えたいっ!!」


「……あはは、まいったなぁー!先を越されちゃったね。

僕も好きだよ、今までも、これからも。」




それからすぐ後、アルカを玉座の間へ連れて帰ったフェイは、アルカをどう扱うべきか考えあぐねていた………



「……つまりキミは、間違いなく生前の【アデルだったアルカ】としての記憶があるのかい?」


「うんっ。」


「そうか………


「……フェイは、わたしが邪魔……?

わたしに好きって言われても………迷惑…………?

やっぱり…元は、男…だし………



そう言ったアルカは目に見えて落ち込んでいる。

そんな彼女にフェイは………



「いや、邪魔だなんてとんでもない。

キミがあのアルカなら、身体が男だった時からキミの事が好きだって、知っているだろう?」


「……うん、そうだったよね……!

フェイだけは本当のわたしを愛してくれていたんだから………


「ああ。」

(とは言え、アルカの身体が本当に女の子になったこれは、完全に偶然の産物なのだろうけど…………)


「なら、お嫁さん………フェイもわたしの事、好きならいいんじゃないの…………?」


「いや、確かに今すぐ嫁にしたい気持ちもあるよ。

でも、だからと言って流石にいきなりそれは………


「あら、いいじゃないですか。」


「……ミツカか。」


「はーい!あなたのミツカですよー♪」



言い淀むフェイに対して若干からかうような、それでいて割と本気の声がかかった。

その声の主は四天王を務める一角、白面金毛の妖狐、ミツカだった。

そのミツカは気持ちを切り替える様にわざとらしく1つ咳払いして話を続けた。



「コホン。

魔王様もそろそろいい歳ですからねー。

ここらで身を固めるべきかと思いますよー?」


「そうは言うけどね、これはそう簡単な話じゃないんだよ?

今の【アルカ】には教会が管理する『戸籍』が無いし、あったとしてもそれは故人の【アデル】のもの………そもそもパッと出の娘が仮にも魔王である僕の嫁だなんて周囲が認めないさ…………


「私達四天王全員が認めた娘だとしても?」


「何……?」



ミツカは意味ありげに微笑む。

その様子にフェイは訝しげな顔をする。



「もしや、四天王の誰かが『アデルの遺体』になにかしたのか?」


「いやー何もしてないですよー?

ただ、死因が魔力の枯渇で、魂が女の子だっただけに、魔王様の魔力と精霊剣の力を………特に()()()さんが得意だった『水』と『風』の力を取り込んだらこうなるのではないか、ってサフィーちゃんは言っていましたが。」


「サフィーアが…………



サフィーアは四天王の一角でありフェイに魔術を教えた師匠でもある精霊だ。

見た目は幼い女の子だが、見た目不相応な大人な女性の雰囲気な時もある、飄々とした女性である。

なにより、彼女は生と死を司る精霊神の化身だ。

この様な事象には誰よりも詳しいであろう。



「とにかく、そんなアルカさんなら実力的にも魔王様の嫁としては悪くないかと。」


「…オススメ、だよ……?」


「むぅ…………


「その様子だと満更でもなさそうですなぁ〜?」


「まぁ……ね。個人的には願ってもない事だし。」



ニヤニヤとしながら、訊いてくるミツカに対してその通りだし否定する理由もないフェイは普通に返した。

対するミツカはフェイが全く動じなかったのでつまらなそうだ。



「ちぇっ、つまらない反応だねぇ………


「キミねぇ………



対するフェイは呆れ顔だ。

が、すぐに表情は真剣なものに変わる。



「なら、本当にミツカ達4人全員が同意してくれたなら僕はこのアルカを妻にする。いいね?」


「フェイっ!!」



フェイの宣言にアルカは大喜びで抱きついた。

そんなアルカをしっかり抱き返しながらフェイも嬉しさを隠さない満面の笑みになる。



「ふふっ…死んだはずのキミが蘇るなんて幸運、逃さないよ?

……では、『四天王緊急招集』!!」



フェイがそう声を上げると、場内に清涼な鈴の音が響き渡る…………

するとすぐにミツカ以外の3人が転移してきた。

転移してきたのは、黒髪のショートで狐耳と尻尾を持つクールな印象を受ける青年に、プラチナブロンドの髪をツインテールにした飄々とした幼い女の子、それとハニーブロンドの髪を後ろで1本の三つ編みに纏めたほんわかした印象のメイド服の女性だ。



「突然呼び出してすまないね。ユーキ、サフィーア、ノエル。」


「いや、フェイがお呼びとあらばすぐに来るさ。」


「んふふ〜このタイミングでの呼び出しなら〜用件は分かってるよ〜?」


「フェイくんどうしたの〜?」



三者三様の反応にフェイは一つ頷くと、さっきの勢いからか自身の膝に座っていたアルカの手をとって立ち上がった。

因みに、魔族は魔王相手だからと言って畏まる必要なしな習慣だ。



「突然だけど、僕はこのアルカを妻にしようと思うんだ。

ミツカが言うにはキミ達全員、知っていて認めているらしいけど、異存はあるかい?」


「ん〜ふ〜ふ〜♪あたしはアデルちんがおにゃのこになったらそうなるのは知ってたから異存無いよ〜ん!」


「彼女はアデルだろう?であれば俺も異存は無い。」


「あらあら〜?アデルさん、すっかり可愛くなっちゃて〜。お姉さんもアデルさんなら異存無しよ~。」


「そうか………


「だから言ったでしょ?アルカさんなら問題ないって。」


「……そうだったよな。うん。」


「じゃあ……?」


「ああ、四天王が認めたと言っても、予定を調整したりしなきゃならないから、今すぐには無理だけど、色々と準備が整ったら結婚、しよう。だから今は…………



フェイは魔力で指輪を作ると、それをアルカの右手薬指に着けた。



「これで我慢してくれないかい?ちゃんとした指輪は作るからさ、だから………


「……充分嬉しいよっ!」



申し訳なさそうにするフェイに対して、アルカは本当に幸せそうな顔で答えた。

それを見たフェイは安堵のため息をついたのだった。














→→視点変更→→フェイ→→


……食事を終えて…自室に戻ってきた僕は、改めて【アデル】だった彼女と出会った時の事を思い出していた………

それは……そう。10年以上も前の事だろうね。


その日、当時まだ子供だった僕は修行の一環としてある村に転移してきたんだ。

もちろん、監督役の剣の師匠であるユーキと、魔法の師匠であるサフィーアも一緒だ。



「フェイ、この村は今盗賊団の被害にあっているらしい。」


「分かった、その盗賊団を倒せばいいんだね?」


「そゆこと〜んじゃ、もうすぐその盗賊達が来るから、フェイちんのお手並み拝見よ〜ん♪」



普通は子供1人に複数人の相手をさせようとは思わないがそこは魔族。

更に魔王の血を引き、天狐と精霊神に鍛えられた僕だからこそだ。


早速村に入った僕は、のどかな風景に自然と笑顔になる。



「いい村だね……絶対に、守りきってみせる……!」



そう決意していると、お使いをしているのか、籠を持った空色の長髪の子供が僕に話しかけてきた。



「あれ?見ない顔だね、どこから来たの?」


「……!ああ、僕は旅の者でね、父と母と一緒にここに立ち寄ったのさ。

おっと。紹介が遅れたね、僕はフェイだよ、キミは?」


「わた…じゃなかった…ボクはアデルだよ、よろしくね♪」


「……ああ、よろしく。」



それが、僕とアルカの最初の出会いだ。

一目惚れ……なのかな。()()の魂はとても綺麗な輝きを放っていて、どうしようも無く惹かれたんだ。

因みに、僕達魔族は魂で見極めが出来るし、瞳には鑑定系の魔力がある。

だからこの時点でアルカ(アデル)の身体は男なのに魂が女だと見抜いていた。

どうやら彼女、サフィーアから教えられた、『稀に居る身体と魂がチグハグに産まれてくる人』らしい。


と、程なくして村に警鐘が鳴り響いた。



「っう!?まっ、また盗賊………!?」


「っ!行かなくちゃ!アデル……だっけ?また後でねっ!」


「あっ……!」



僕が鐘が鳴った方へ駆けると、数人の盗賊達が下品な笑みを浮かべながら村に向かってくるのが遠目にも分かった。



(うん、この距離なら……!)


「ん!?君!もうすぐ盗賊が来るから危ないぞ!?」


「お構いなく、僕は冒険者ですから。」


「へっ………?」



固まる村人をよそに僕は早速、魔法を放つ!!



「紡ぎしは炎/風を纏い/強く羽ばたけ!『フレイムバード』!!」



しっかり詠唱する事で威力を上げた炎の鳥が盗賊達へ襲いかかる!



「…よし、大体減らせた!」


「……すげぇや………


「わぁ……きれい………


「ってアデル!?」


「ん?なんだ、アデルの友達だったのか??」


「うん、さっき友達になった♪」


「そうか……なら坊主!冒険者とは言え子供にこんな事頼むのも変だがやっちまえ!!」


「(!)ええ、任せて下さい!」



一目惚れしたアデルが見ている事もあって僕は張り切って修行以上の成果を上げた!



―『ライジングスター!』っと!

これでっ!終わりだっ!!」



そのまま盗賊団のアジトまで攻め入って壊滅させ、村に盗品やら何やらを持ち帰った僕は村人達からの感謝を受けていた。



「ありがとう、冒険者さん。お陰で村は救われました……


「いえいえ、これも修行の一環なので……!」


「……かっこいい………あっ、あのっ!フェイっ!!」


「ん?なんだいアデル。」


「ボクも…いつかフェイと一緒に旅をしたい…!」


「…ははっ!楽しみにしてるよ!」


「うんっ……!また、村に来てくれるよね………?」


「ああ、勿論だよ!約束だ。」


「えへへ………♪」



これが、僕とアルカの出会いの物語………

そんなアルカの願いは数年後、今代の勇者であると王族に知られる事で実現するのは別の話だ。




っと、思い出に浸っていると現実に戻す様に扉をコンコンと叩くがした。

こんな時間に誰だ………?いや、この時間に僕の部屋に来れるのは一人しかいないね。



「アルカかい?」


『うそっ!?何で分かったの!?』


「愛の力かな。なんてね!」


『〜〜〜っ!?』



まぁ、本当は今の時間、この部屋には認識不可の結界が貼ってあって、そんな部屋を認知出来るのは僕が作った指輪を着けているアルカしか居ないから、なんだけどね?

扉を開けるとそこには案の定アルカが居た。

………何故か顔が真っ赤だけど。



「顔が真っ赤だけど大丈夫かい?」


「ひゃいっ!?」


「まぁとりあえず入りなよ。」


「………うぅ……何でフェイは平気そうなの………?」


「え?だってアルカが来てくれて嬉しいからね。」


「はぅ〜~~~~!?」


「……可愛いな。」


「はぅ……あぅ……


「……っと。クリーンの魔法をかけたし、これで後は寝るだけだね。」


「………あ。そっそうだよ!わたしはフェイと一緒に寝たくてここに来たんだ!!」


「やっぱりそうか。じゃあ寝よう。」


「……あ、仕事はいいの?」


「はは、心配しなくても今日の分は片付けてあるよ。」


「あっ………



アルカを抱きしめると懐かしい体温に僕の好きな彼女の香りに包まれた………



「フェイ………



アルカも安心したように僕に身体を預けてくれたから、そのまま……男だった時より軽い………?アルカを抱き上げてベッドに入った………




お互い、安心出来る温もりがある……すぐにアルカが眠り、僕も意識を手放した………………………………

今夜からは、いい夢が見れそうだ。







オマケ



アルカ「むにゃ……フェイ……ずっと………はなさにゃいで………


フェイ「…あるか……こんどこそ……はなさないぞ……zzZ

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