プロローグ
また新しいお話です。
よろしければお付き合い下さい………
「アルカ……!僕は……僕はキミを殺したくはなかったのに………!」
「……あはは…ちがう…よ……わたし……いや……俺…勇者アデルは…死なないと……負けないと……ダメなんだよ………フェイの…せい…じゃ……………………
「アルカ………?死ぬな!アルカーーーっ!!!」
ーこの日勇者アデルは死んだ。
親友の、魔王の腕にだかれながら…………
時は少し前に遡る。
【勇者アデル】は、王命により仲間達と共に魔王討伐の旅に出た。
各地で暗躍する魔族を、倒すのではなく和解し、順調に旅は進み、1年経った今日、彼等は遂に魔王城にたどり着いた。
他の仲間達に送り出され、単身で魔王の居る玉座に乗り込んだ勇者は、遂に魔王と対峙した。
「……よく来たね、勇者アデル。
………いや、二人きりの時はアルカ……と呼ぶべきかな?」
「……フェイ……。」
「…ははは、驚いたかい?」
「いえ、何となくそんな気はしていた…ぜ……。」
【魔王フェンネル】
彼は【魔導師フェイ】として旅に同行していて、アデルの一番の親友でもあった。
そんな彼は、アデル達の国の調査に来ていて、王族が腐りきっていた為今回の侵略に乗り出したのだ。
まぁ要するに、魔王が魔王討伐の旅に同行していたと言う、とんだ茶番だったのであるが………
そんな旅が始まる前から……幼少期にアデル(アルカ)を助けた事で知り合いであった魔王は、真っ直ぐで気持ちの良い彼(彼女)に更に好感を持った。
それに、フェイはアデルの秘密に………アデルの心は女の子だと気づいていて、それを受け入れていた。
それから、背中を預け合い、寝食を共にする内に2人は親友……いや、恋人……と言える様な関係となったのだった。
そんな2人は今、恋人同士の【アルカ】と【フェイ】ではなく。
敵として、【勇者アデル】と【魔王フェンネル】として対峙した。
「…………ねぇ、勇者アデル。
提案があるんだけど、こんな無益な戦い、止めにしないかい?
ただ僕に形だけでも膝まづいて負けを認めてくれればそれで終わるんだよ?
それだけで、僕とキミであの腐った王族を堂々と国から追い出せるんだよ?」
「………それは魅力的な提案だわ……。
だけど……ん、コホン……
ははっ、そりゃあダメだぞ魔王フェンネル。いくら命の恩人で親友相手でも不戦敗じゃあ王様が納得しない。」
「……やるしか、無いのか?僕はキミを……アルカを失いたくはないよ……キミを失うのはあまりにも…
「……俺だって嫌だ。大好きなフェイを殺したくはない。
【女】はこんな戦いはしたくないって拒絶している。
だが、【男】にはやらなきゃならない時があるんだ!!」
「……そうかい。」
魔王は諦めた様に魔剣を構えた。
それに呼応する様に勇者も4振りの精霊剣を構えた。
「……2本の剣を浮かせての四刀流……キミのその戦い方が僕は好きだった。」
「俺も、魔導師のクセに魔剣なんか振るって前衛も出来るフェイと共闘するのは好きだったぜ。」
「「っ!!」」
それを皮切りに2人の壮絶な戦いが始まった。
「っ!はぁ!唸れ!」
宙に浮く風と水の精霊剣の2本が魔王に襲いかかる
「甘いね。」
しかし魔王は魔法障壁を発生させて防ぐ
「読めてるぜ!」
それを勇者は火の精霊剣で叩き割りにかかるがー
「ははっ、簡単には、当たらないよっと!」
魔王は瞬発的に加速してそれを避ける。
更に反撃で土の槍を地面から発生させた!
それを勇者は土の精霊剣で防ぐ!
「おわっと!?守れ!
ははっ!相変わらずの無詠唱魔法だな!」
「そっちこそ剣2本を操りながらの二刀流なんてよくやるねぇっ!!」
「ははっ!まだまだぁっ!!」
「ふふっ!これならどうだい?」
2人の戦いはとても楽しそうで、まるで命のやり取りをしているようには見えなかった。
それはそうだろう。
今はまだ、お互いにお互いを本気で殺そうとは思っていないのだから。
「……ああ…楽しいなぁ……」
「っはぁっ!うん、楽しいね……!終わらせたくないよ…………」
「ああ、だが、名残惜しいけど……
「そろそろ終わりにしないとね………」
「「ウォォォォオ!!」」
勇者は4振りの剣を一つにまとめ、巨大な剣として振り下ろした!
それを魔王は………
「……そんな………アルカ…………ごめん……ごめんね………
最大防御で受け止めた。
しかし魔王には……いや、フェイには分かっていた。
勇者………いや、アデルの今の攻撃、それは………………
「クハッ……!」
「アル………カァァ………!」
フェイと【リンク】をして魔力を分けてもらわないと自身の命を削る攻撃なのだ。
だから、フェイはアルカと【リンク】をしようとパスを飛ばした。
が、アルカはパスを受けてくれなかった………!
そして、冒頭に戻る。
鼓動が止まり、熱が無くなっていく"アルカ"の亡骸を、"フェイ"は抱きしめて静かに泣いた。
やがて、彼はふらりと立ち上がると、玉座の間を後にした………
彼が向かった場所は、先代の魔王達が、魔王家の者が眠る墓地だった。
そこに、魔力で棺を作り、穴を作り、そして…………埋葬した。
「ははは……僕が子供だった時に助けたキミを……こんな僕を愛してくれたキミを………この手で葬る事になるなんてね…………さようなら、勇者アデル……いや、大好きで…大切だった…アルカ。
キミの事は忘れないよ………キミの死を……僕は、無駄にしない。」
それからはあっという間だった。
単身で王都に乗り込んだ魔王は、『勇者アデルの敗北』を叫びながら、圧倒的魔力と剣術で瞬く間に腐っている王族と腐った臣下を根絶やしにした。
そうして、勇者との旅の間に他の領地の侵略は根回しが完了していたが為に関係の無い民や臣下、兵士達の血を流さずして王国の侵略を完了させた彼は、信頼出来る部下達に人間の国を任せて自身は魔王城へと帰還した。
そこには、かつての勇者の仲間達が居た。
皆、勇者の死を嘆いていた…
そんな彼等を、魔王は声をかけることが出来ず、だが、無下にもできず、魔導師フェイとして王都へ送り届けた…………
「ねぇ………アルカ………キミは、なんで死を選んだんだい………?
キミは、死ぬ必要なんかなかった……ただ、僕に負けてくれれば良かったのに………アルカ………キミは……死ぬ事で、【勇者アデル】である事を、辞めたかったのかい………?アルカ…………………………………
それから、数年の時が過ぎ、魔族が支配する人間の国は安定した。
王族が支配していた時より豊かになった。
だが、魔王フェンネルの心は晴れない。
「この景色を………キミにも見せたかったなぁ………………
一方、こちらは魔王家の墓地。
……勇者アデルの墓が不自然に揺れている。
墓に突き刺された、4振りの精霊剣が光り輝き出した。
ボコォッ!
そんな土のえぐれるような音と共に、墓の下から現れたのは―――――
オマケ
ユーキ「なぁフィー。フェイの奴に真実を告げなくて良いのか?」
サフィーア「んー…?だってその方が面白くなりそうじゃね〜?♪」
ユーキ「………。お前も大概だな。」