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洋菓子にマグカップと【き】




「……え?何だって?」


「いや……だから。

この間助けてくれたお礼に、良かったらこれ……」

「うんうん、それは聞こえた。

ご丁寧にこんなお菓子の詰め合わせを持ってきてくれてありがとう。

それで、何だって?」

「え?だから、電車の時間だからもう行くって……」


「いやいや、『今度都合のいい時に訪問致します』とか仰々しく連絡寄越したのに、菓子渡すだけ渡して帰すわけないだろこのヤロー。

という訳で上がって行きなさい」

「えっ……?いや、俺そんなつもりじゃ……」

「なに?この後すぐ仕事だから是が非でも帰らないと~とか言わない、よね?」

「いや、うん……無理に仕事行かなきゃとかじゃないけど……」

「それなら問題ないでしょ。

はい、さっさと靴脱いで上がった上がった」


「うわぁぁ……。前も思ったけどなんというか、強引だなこの人。

…………誰にでもこんなことするんだか」

「あん?何か文句でも言ったァ?」

「な、何でもないって」


「そかそか。

というか紙袋見てもしかしてーって思っていたけどさ、これって最近日本に初上陸したとかで話題の店のロゴだよね?

けど確か都会にしか出店してなかったような……」

「そう、なんだ?

駅行くまでの道すがらにあったお店で買ってきたんだけど、なんか店先に書いてあったチョークアートが店の雰囲気と合ってて良いなって思って入ってみたんだよね」

「えっ!ちょっと待て待て。

ということはアンタ、そんな遠いところからわざわざ菓子渡す為だけに来るつもりだったわけ?馬鹿なんじゃないの?」

「だから……お礼に来ただけだって言ってるじゃないか」


「じゃあ、一人でこんなにお菓子食べ切れないから、お茶と世間話に付き合ってよ。

こんな良いトコの洋菓子ならとっておきの紅茶淹れてくるから座って座ってー」

「はあ……分かったよ。またご馳走になりますよ」






彼を拾った、もとい、出会った日から1週間程経ったある日に訪ねてきて、それから時間の許す限りお茶やらお菓子やらついでにご飯も食わせたのはよく覚えている。


律儀なソイツはそんな感じで、この間ご馳走になったお礼とか何とか言って手土産片手に私の家に来るを繰り返すこと数回。

それから何だかんだで意気投合して、普通に遊びに来るような仲になるまでは意外と早かったと思う。




いつかの出来事を彷彿とさせるイラストに懐かしみつつ、私はそれをポケットに忍ばせて先のカードとそっと重ねた。


さて、そうするとこの花のアイテムは多分、すぐ隣に設置されてある棚の上に固定されている植木鉢の関連アイテムだろう。

この作り物特有の質感といい色合いといい、間違いはないはず。

そう確信を持って植木鉢の茎の先端と花の根元部分を合わせてみれば、カチリとくぼみと突起は噛み合わさった。


そうしてみれば、ペカーンという効果音がつきそうな感じに、植木鉢に堂々と背を伸ばして咲く一本のヒマワリが完成したのだ。


……で、それがどうした。

どこかの仕掛けが動いた気配もないし、別段部屋に変化があったようにも感じられない。

となると、これは何かのヒントかあるいは更にアクションが必要なのだろうか。

そうは言ってもこれといって変わった点は見当たらないし、あえていうなら葉の数が左右で違うことぐらいか。


早速手詰まりになってしまった私は手持ちぶさたに棚を開け閉めしては、溜め息を吐いていた。


そもそもあの二つの道具を隠す為だけにこんなやたらと横長の棚がいるものだろうか。

さっきからちょっとずつしかアイテムを入手していなくてすぐに行き詰まってしまうから、もっと色んな所で活躍するアイテムの一つでもあればいいのに。


そんな風に愚痴をこぼして、カタンカタンと何度目かも分からない開閉音を聞き流していた。

その時。ふと目に留まったのは、棚の内側の黒い汚れ。

照明のあたるほんの手前しか見えないが、よくよく見てみるとそれは黒ペンで落書きされたようにも見える。

気になった私はスマホのライトを点けて中を照らしてみれば、そこにはこんなイラストが描かれていた。


地面に咲く花と、空に向けて指される矢印。

まるで土の水や養分を、根元から順番に葉や花に送るようなそんな絵。


下から……順番に……。


フッとさっきのヒマワリを見直してみれば、土から生えた茎には全部で七枚の葉。

それは左右非対称でしかも一枚として同じ高さの葉はないのだ。

そうして、その下に付けられた左右の矢印。

そうか、このスイッチはヒマワリの葉の左右を下から順番に押していけばいいのか。


閃いて、私はすぐその通りに指を急かした。



そうやって、カチカチと小気味いい音と連動して光るスイッチを最後まで押せば、錠の音がカチャンと伝わって指に響いた。


そっと引き手に触れて戸を引いてみれば、すんなりとソレは姿を現した。



折り畳まれた紙と、一枚のカード。


そこに記されている文字は二枚目と同じかと思って見比べてみれば、それはいくらか小さいサイズであることから恐らくこれは『っ』なのだろう。


もう慣れた動作でカードを反転して裏面を確認してみれば、その四角で区切られたイラストは見覚えがあるというよりも記憶に新しい。


固く閉ざされた扉と、それを指の背で叩こうとするイラストのアイコンだ。






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